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従妹の由紀子があの日、祐希に何気に話した相手かどうかは分からないが、誰かと会っている事には、何となく気付いていた。
うまく交際が続いているのだろう。
由紀子の機嫌がすこぶる良い。
付き合っている相手の事を叔父夫婦も、大賛成だとも由紀子が隠しきれずに嬉しそうに、祐希に話してきた。
この暮らしももう少しの辛抱だと祐季は、毎日、自分に言い聞かせていた。
その日が来るのを指折り数えて待つと言っても過言ではない。
祐季は、今か今かと由紀子の報告を待っていた。
祐季が仕事を終え、夕飯の買い物をして帰ると珍しく自分よりも早く、由紀子が帰宅していた。
リビングのソファの上で、胡坐を組んでクッションを胸に抱いて、憮然としていた。
エコバッグから牛乳、果物、野菜など次々と取り出しながら冷蔵庫に入れる間も
祐希は、それとなく垣間見るが、由紀子の口元はへの字のままだった。
今朝は、婚約者から急に呼び出されたとブツブツ言いながらも、
気合いの入った様子で鏡の前で服を当てては放り投げを繰り返していたはずなのに。
「帰ってたんだ。今日は、早かったのね。晩御飯を食べてくるかと思ってたのに」
祐季の言葉が聞こえてなかったのか、それとも、返事する気がなかったのか、
由紀子 からは何も反応がない。
どんよりとした不機嫌な表情。
気に入らない事があつたとすぐに分かったが、巻き込まれたくない。
彼女の無理難題には、一緒に暮らしだしてから、嫌というほど振り回されてきた。
あえて、そこには触れないように気付かないふりをして、エプロンの紐を結び、夕飯の準備に取り掛かる。
「夕飯は食べた?」
「・・・・・」
「今日は、八宝菜にするつもりなんだけど、食べる?」
「・・・・いらない・・・・」
由紀子はスタイルを維持するために、家にいるときは夕飯は食べない。
自分には、考えられない事だ。
祐季が野菜を小気味良いテンポで刻む姿を物言いたげにじっと見ている。
由紀子の視線が痛い。
後から思えば、知らないふりをすべきだったと後悔したが、思わず、聞いてしまっていた。
いや、祐季が聞かなくても同じ結果だっただろう。
「何?私に何か話があるの?」
待ってましたといわんばかりに座っていたソファから立ち上がり、
祐季の傍に来て、ねだるように視線を投げかける。
由紀子の綺麗にネイルされたすべすべした手が、優しく祐季の手に重ねられ、
包丁を置かせて、由紀子が座っていた場所へ引っ張っていかれた。
「ねぇ、座って」
「何?まだ、料理の途中よ。」
「困ってるの」
聞いてはいけないと頭の中で警鐘が鳴っている。
「そう、叔父様に相談したら?叔父様なら何でも解決してくれるわ」
ソファから立ち上がろうと腰を浮かしたが、手をひっぱられ再び座らされた。
由紀子は、絶対に手を離そうとしない。
「パパじゃダメ。祐季、あなたにしかお願いできないの」
「私?」
「お願い。助けてほしいの」
祐季は思わず、天を仰ぎ見た。
これからやってくる難局にどうやって立ち向かうか?
自分にできるだろうか。
神様、どうかこの従姉妹の願いから逃れられますように。
無宗教な自分のお願いをそう何度も聞き入れてくれないかもしれないが、
今回も心のなかで、強く願った。




