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身代わりの君  作者: くれぱす


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由紀子が家を出て、一人暮らしをしたいと言い出したのだ。



由紀子のお願いには、一も二も無く頷く叔父夫婦が今回は、

珍しく首を縦に振らなかったらしい。

溺愛の娘を目の届かないところには行かせたくないと、譲らなかったのだろう。


だが、娘の泣き落しに負けた叔父は、祐季と暮らす事を条件に、しぶしぶ、

家を出る事を許し、叔父の家の近くのマンションにルームシェアをすることが、

祐季の知らない間に決定次項となっており、既にマンションの契約まで終わっていた。



呼び出され、叔父の家のソファに座った祐季の向かい側には、

親子3人が揃って座っている。


由紀子はニコニコと、叔父夫婦は、苦虫を噛み潰したような表情で

祐希を見つめている。


祐季は、寝耳に水のこの話に、自分を抑えながら叔父夫婦の気分を害さないように

考え直してもらえように言葉を重ねる。



「叔父さん。やっと、職場にもなれたの。 今の仕事を辞めたくないわ」

「私の知り合いが館長をしている隣町の図書館に話はしてある。

いつでも来てよいそうだ。

図書館なんて、どこも同じさ。マンションの部屋代だって払ってやるんだ。

何より、由紀子が一人暮らしをするのが心配だと思わないか?」


「もう大学を卒業したんだし、由紀子は、おじさんたちが思っているより

しっかりしてるわ」

「いや、由紀子は世間知らずだから、誰かがそばにいてやらないと」


「由紀子は大丈夫よ。それに、私は今、借りている部屋の契約も残っているし」

「解約金ぐらい安いものさ。それも出してやる」


「急には仕事を辞められないわ。後任だって、すぐに見つからないだろうし」

「由紀子の引っ越しは、2ヶ月先だから、それまでには見つかり

引き継ぎもできるだろう。

できなければ、新しいマンションから通いなさい」


叔父の執拗な説得にも頷くまいと頑張ったが、横で聞いている由紀子の

涙を浮かべた顔にあおられる様に最後には夫婦二人して、

『恩を仇で返すのか』と罵られんばかりのひどい言葉を投げつけてきた。



祐季はこの3対一の攻防に耐えきれなかった。



馴染んだ仕事を辞め、快適なひとり暮らしを諦め、お守役、いや、

便利屋同然のルームシェア暮らしが始まった。



由紀子と二人で暮らして2年が経つ。


その間、彼女は働くことなど頭になく、日中は、エステやピラティス、

お料理教室に英会話と自分磨きに忙しく、夜になるとあちらこちらのパーティに

顔を出しているようだ。


祐希の生活は、遅くなったと迎えに行かされ、忘れ物を持って来いと届けさせられ、

家事一切を任せれ、由紀子の我儘に振り回されていた。



勤めだした図書館は、叔父が多大な寄付をしている事もあり、

由紀子の用事が、何よりも優先させられることに、周りの職員も

暗黙の了解をしていたし、祐季の事も、その程度の戦力としてしか

見られていなかった。




祐季は、一緒に暮らしていながら、彼女のプライベートには、

一切、立ち入ることはしなかった。


これ以上、関わるつもりもなかったし、興味もなかった。

自分には縁のない世界だ。

由紀子も祐季を自分の友人に紹介することなど思いもしていないだろう。



祐季は、毎日と言ってもいいほど「どうすれば、この家を出て行く事が出来るか?」

何か良い口実がないかと探していた。

由紀子に何か変化は無いか?

この2年間、アンテナを張っていたが、収穫は無かった。


この生活から抜け出したいと言って叔父夫婦と由紀子に、

自分からルームシェアをやめたいと言い出すことはしなかった。


これまでの経験から叔父一家の意に沿わない祐希の希望が

通ることはないと戦う前から諦めていた。

無駄な努力をしたくなかったし、何よりも争い事をしたあとの、

気分の悪さも祐希は嫌だった。


だから、今日みたいに、帰ってきて、由紀子が大きな転機とも言える事を話すのは初めてだった。

この話が本当なら、どんなに嬉しいか・・・。



ルームシェアを穏便に解消できるのは、由紀子が誰でもいいから

叔父夫婦が認める人を見つけて、自分を解放してくれるのが、一番の策だと

ずっと思っていた。

やっと、その日が来るかもしれない事に、祐季は希望の光を見た思いで、

とにかく心のなかで、無宗教ながらも祈った。






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