七月(祭)
「大島と斎藤って、大原連合のか?」
少し前に梅津は俺を襲った大原連合の田島を殺し、そいつの睾丸を残りの犯人である大島と斎藤に送りつけた。
草心会はこの間の藤村の葬式で、秀成から大原連合を潰すように指示を受けた。
葬式が終わった後に俺はすぐに、今面が割れてる大原連合の連中の居所を調べさせていた。
「で、あの一件から2人は何らカタギと変わらない生活をしているようです。」
「おいおい、斎藤って奴ぁ女房子供が居んのか?」
俺は偵察部隊の撮ってきた写真を眺める。
「まったく半端な野郎です。」
梅津は呆れた表情で俺に珈琲を汲んできた。
「で、キンタマ送られてイモ引いて、今は我関せずでいつものパパか。笑っちゃうねぇ〜。」
俺は珈琲を啜ると、偵察部隊の奴らに質問する。
「仕事は何してんだ?」
偵察部隊の1人は煙草を消すと大島と斎藤の現況について語り出した。
「はい。大島ってのは仕事もなく、生活保護貰って暮らしてるそうなんですが、斎藤ってのは近所の中古車屋を経営しているみたいです。」
俺は大原連合のトップを狙うのが手っ取り早いと考えて居たが、居所が分からない。
一応カタギだと思って生かしてやった大島と斎藤を殺して誘き寄せる作戦が良いか…。
「あ、そういえばよ、俺がこないだ大原署に引っ張られた時に"ナイフの指紋取る"って話だったんだよ。あのナイフはコイツらのだけど、サツはコイツらんとこ来てねぇのか?」
俺の問いに偵察の1人は首を横に振った。
「大して捜査なんかしませんよ。狙いは草心会なんですから。」
(?)
そう言われて部屋の入り口を見ると見慣れない男が2人立って居た。
「ご苦労様です!」
2人に気付いた若い衆が口々に挨拶する。
人相風体はヤクザのソレだ。
「おぉ〜お前らか、梅津。本家からわざわざ応援に来てくれた2人だ。」
梅津は怪訝な顔で2人を見つめる。
「草野会長。ご苦労様です、本家から参りました永田と宮川です。」
2人は選りすぐりの人材だと秀成から聞いている。
この件に桑子が関わっていたらすぐに秀成に報告させるには、このくらいの人間でないと駄目なんだろう、確かに勘は鋭そうだ。
「それにしても、良かったんですか?総長のお側に付いていなくて。」
梅津は相変わらずの表情で、永田と宮川に訊ねた。
「はい。この間の事件で本家もガサ入ってますんで、自分と永田がサツと揉めてパクられてもしょうがないって事で…。」
「さっきまでの話、聞かせて頂いてましたけど、外はサツが虫みたいに飛んでますよ。どうやって返しするんです?」
永田と宮川はそう言って交互に口を開くと、若い衆が持ってきた茶に口を付ける。
「おいでになるなら一報入れて頂いたら良かったのに。」
そう言う梅津はいつになく不機嫌だ。俺にとっても、はっきり言ってこの2人は招かざる客だ。
俺は嫌味も言えないから梅津は汚れ役を買って出たんだろう。
「あんなチンピラ、草心会だけで片付けられますよ。」
梅津の台詞に苛立ったのは永田の方だった。
「梅津さんよ、自分らも総長の指示で動いてるんですよ。グチグチ言われたってはいそうですか、ってこっちも帰れないんですよ。ガキの使いじゃないんだから。」
梅津は何かを言い返そうとしていたが俺が止めた。
「梅津。同じ小沼一家とはいえ客分だ、丁重に接しろよ。」
梅津は口を詰むと窓の外を向いた。
「早速ですが外はこれだけ騒がしい訳で、出入りにもいちいち身体捜検です。先ずはこれをどうにかしないと動けませんね。」
宮川はそういうと掛けている眼鏡を拭く。
「そうだな。まぁそれはどうにかするよ。」
俺はそう応えると、電話を手に取った。
「おう、俺だ。悪いな騒ぎになっちまって。ところでよ、夏祭りが近いだろ?事務所の前がこれだと心象悪いだろ。え?俺たちは被害者だぞ?大丈夫だよ。心配するな。」
俺は警察を動かせるのは政治だけだということを分かっている。
大原で近々行われる夏祭りに、こんな物騒な雰囲気は似合わない。
俺は早速、市長の後藤にサツを退けるように頼んだ。
後藤は最初こないだの襲撃事件についてカンカンに怒っているようだった。
草心会が公共事業に関わる事になったのだからまぁ無理はない、変に探られて市長とヤクザがズブズブだなんて言われちゃたまったもんじゃないだろう。
しばらく問答した後に、後藤は渋々警察を退ける事に同意した。
「おう、サツは明日にゃ退くぞ。奴らの居場所しっかりおさえとけよ、明日は楽しくなるぞ。」
俺は電話を切って若い衆に声をかけた。
「オス!!!」
事務所内を若い衆の声が響き渡る。
「今誰に電話したんです?」
永田が不思議そうに尋ねた。
「"野暮"ですよ。」
梅津はそう言うと外へ出て行った。
「チッ。」
永田は梅津とはウマが合わないようだ。
「大原仕切ってるとな、色々"コネ"が出来るんだよ。さ、お前らも明日はよろしく頼む。若い衆から連絡させるよ。今日はゆっくりしてくれ。」
俺はそう2人に言うと、煙草を片手に外へ出て行った。
「おい、草野。」
外に出ると早速鉢屋が声を掛けてきた。
「祭があるからな、今日で一旦引くけど。」
早速後藤は大原署に連絡したようだ、さすが政治家はこういう動きは早い。
「そうですか。ウチもカタギに迷惑になるんで明日から事務所には当番以外誰も来ませんよ。」
俺は鉢屋と少し世間話をした後に自宅へ戻った。
自宅で仮眠を取り、明け方になると梅津が迎えに来た。
「親分、お早う御座います。大島と斎藤拉致しました。今斎藤の工場に居ます。」
チンピラ2人拉致するのは朝飯前だ。
問題は大原連合のトップ、山田の居所を掴めるかどうかだ…。
俺は血が疼くような気分で正直仮眠もそこそこだった。
藤村の仇撃ちを待ち侘びていたのもあるが、久しぶりの"殺し"にも胸が踊っていた。
「おう、すぐ行く。」
車で30分程の場所に斎藤の整備工場は佇んでいた。
「おう、道具は用意してねぇだろうな。」
俺は拷問には身の回りの何気ない物を使うのに拘りがある。まぁ、サツの目もどこで光ってるか分からないから道具を用意させなかったのもあるが。
「工場ですからね。色々あります。」
運転する梅津は時折笑みを浮かべている。いつもの変態ぶりが見て取れる。
「ご苦労様です。」
工場の入り口で宮川が静かに声をかけてきた。
駐車場には"本日休業"の札がかかっている。たしかに客に来られちゃ厄介だ。
「おう」
俺は短く返すと工場の中に入った。
薄暗い豆電球の灯の下で、大島と斎藤は既にグッタリとしていた。
「何回か殴り飛ばしてます。」
梅津が進捗を報告する。
「おい。起きろよお二人さん。」
俺の呼びかけに2人はうっすらと目を開けると、俺の顔を見て口々に何かを叫んだ。
口には手拭いが巻かれていて声は外には響かない。
「んーっ!!んー!」
何を言っているか聞く気も起きず、俺は2人を交互に蹴り上げた。
「んんんんん…!」
悶える2人を尻目に俺は質問を投げ掛けた。
「こないだ俺を弾きに来たのはお前らか?」
俺の質問に2人は首を横に降る。
「山田は何処行った?」
2人はそれには応えなかった。
「梅津。」
梅津は俺の声を聴くと、若い衆に斎藤の下着を脱がさせた。
「んぇ?んぇ?」
斎藤はこれから自分がとんでもない目に合う事を察知したのか、急に涙を流し始めた。
「知ってる事は話せ。山田の場所、弾いた奴。」
俺は煙草を吹かしながらもう一度訊ねるが、一向に首を縦に降らない。
「おい、糸ノコ持ってこい。」
梅津は若い衆に指示して、斎藤を四つん這いにさせた。
「うー!うー!」
斎藤の咥える手拭いが、ガタガタ震えている。
(ジッッッ!!)
「ヴァーーーーー!」
梅津は斎藤の尻の穴に糸ノコを縦に当てがうと、思い切り引いた。
「早く言えよ。」
梅津は縦に切れ込みの入った斎藤の尻の穴に、もう一度糸ノコを当てがうと、今度はそれを引いたり押したりした。
「ヴァー!ヴィー!!ヴヴヴ!」
(ジッ!ジッ!ジッ!)
工場には斎藤のうめき声と、ノコギリが皮膚を切り裂く音が交互する。
下半身が真っ赤になった斎藤を梅津は今度は立たせて作業机に引っ張って行った。
「ウウウ!」
「は?」
一部始終を見ていた大島は、永田に何かを訴える。
「話す?」
「ウンウンウンウン!」
「静かにしろよ?」
そういうと永田は俺に大島の口の手拭いを取っていいか訊いた。
「いや、待て。」
俺は大島にもう一度訊ねた。
「山田の場所ここに書け。それと弾いた奴の名前、場所。」
俺は万が一騒がれると厄介なので、永田の申し出を断り、大島の手を縛ったロープだけを外させた。
「あぁぁぁー!!!あっ!あっ!」
作業机では祭りが始まったようだ。
「梅津。殺しちゃダメなんだぞ?弾いたのはコイツらじゃねぇから。」
「1人はいいですか?」
「まぁいいや。」
俺たちの会話に若い衆や宮川と永田は黙りこくっている。
梅津は自力で立てない斎藤を若い衆に両脇を持たせ、イチモツを作業机に取り付けた万力に置いた。
「柔らかいと逆に痛いぞ?」
梅津は冗談を言って笑うと、ゆっくりと万力のハンドルを締め始めた。
「フーッ!フーッ!」
徐々に自分のイチモツが万力に挟まれそうになり、斎藤はついに目で訴え始めた。
「え?話す気になったのか?」
斎藤は首を縦に何度も降って涙をボタボタ溢す。
梅津は斎藤のイチモツを万力の外に置くと、亀頭めがけて金槌で叩いた。
(ダーーン!!!)
「!!!!!!!」
「バカか。時間切れだよ。」
大島は渡した紙に俺の質問に対する答えを全て書いて永田に渡した。
「会長、案外近いですよ。」
「貸せ。」
"弾いた連中は大原連合の木戸、早坂"
"山田さんは東台のあぱーと 山ざき荘"
"お願いしますたすけて"
俺は山田の場所に単身、向かう事にした。
「会長、しかし東台って事は…。」
永田はここから先は総長に任せるべきだと言ったが、俺は聴く耳を持たなかった。
「おい。写真だせ写真。」
俺は何枚かの写真を若い衆から出させると、大島に見せた。
「お前、正直に応えたから許してやる。ただ嘘だったらコイツらあそこの斎藤くんみたいになっちゃうぞ。」
俺はそう言うと、事前に撮らせた大島の家族の写真を見せた。
「ウンウンウン!!」
チンピラと言えども流石に家族を出すと弱いものだ。
大島は写真を見ると大粒の涙を見せて何度も頷いた。
「ゥエーーー!」
一方の斎藤はゲロを吐き始めた。
手拭いの隙間からドボドボと溢れるゲロは、下半身から流れる血と混ざって、地面を這うように広がっていく。
「梅津。俺はこれから山田を殺りに行く。お前は後始末を頼む、大島は殺すな。」
大島は安堵の表情を浮かべたが、それも束の間。
(ブチッ!!)
「ッーーー!?」
人を安心させたところから一気に地獄に落とすのは気持ちが良い。
俺は釘を大島の片目に突き刺した。
「ンッ!ンーー!!!!」
地面をのたうち回る大島を見て、俺は笑いを堪えきれなかった。
「会長。総長との約束のハズです、大原の不良が東台に居るのは不自然です。一旦引き上げましょう。」
永田と宮川は俺にこれ以上の報復は必要ないと、しつこく迫ってきた。
「お前らヤクザやって何年だ?これくらいのヤキ黙ってみてやがって。根性ねぇな、なんだ?
イモ引いてんなら本家帰って違う奴連れて来いよ。」
俺の嫌味に2人は完全に黙ってしまった。
まぁ、本家の「精鋭」もこんなもんだ。
「バチッ!バチッ!」
梅津は相変わらず、斎藤を痛めつける。
「梅津!頼んだぞ!」
梅津は斎藤の歯に鉄棒を当てると上から金槌で歯を一本ずつ叩いては歯をへし折っていた。
斎藤の顔に生気はなく、恐らく死んでるだろう。
「ヴェーー!」
大島は片目を抑えながらゲロを吐いた。
足はロープで縛ってあって、逃げる事は出来ない。
「会長、ではお供します。」
永田の申し出は面倒ではあったが、何かと使えそうなので俺は永田を連れて工場を後にした。
外はもう日が出始めていた。
「こんな時間か。」
時計は6時前を指していた。
「今日は祭りだな、まったく良い"前夜祭"だったよ。」
俺は永田の運転する車で、東台に向けて走り出した。




