初めての野営と彼女の名前
彼女の歩くペースは想像以上に軽やかだった。
魔法が効いていそうだな。良かった。俺は胸をなでおろした。
「ほんと、あんたは心配性ねえ。 このくらい大丈夫だってのに。」
俺の視線に気づいた彼女は、背負っていた大剣をひょいと動かした。
「まあ、助かったわ。 ありがとう。」
彼女は少しぶっきらぼうに、だけどちゃんとお礼の言葉を口にしてくれた。役に立ってるなら良かった。
それからしばらく歩いていると段々あたりが暗くなってきた。
お腹も空いてきたうえに、ここに開けた場所があったので、俺達は一度足を止めた。
「ここらで今日は休もう。 俺が火を起こすから休んでていいよ。」
俺がそう言って荷物を下ろすと彼女は驚いたように目を丸くした。
「なんでよ。 私が役に立たないっての!? あんたよりは役に立たないかもしれないけど私だって役にたつわよ!」
別に役に立つとかじゃなくて、明日からのために少しでも休んでほしかっただけなんだが、どうやら聞いてくれそうもない。
「分かった、悪かったよ。 一緒に準備しよう。 お前は乾いた枝を集めてくれるか?」
正直、俺の炎魔法なら乾いた枝なんかいらない。
でもこんな嬉しそうな顔をされたら仕方がない。俺も頑張って魔法を使わずに火を起こすか。
それより薪が集まるまで暇だな。そこら辺で魔物でも狩ってくるか。肉も欲しいしな。
弱い魔物ではあったが軽く討伐してきた。俺が戻ってきたときには、彼女はすでに薪を集め終えて待っていた。
「遅いじゃない! 先に火でも起こしときなさいよ!」
理不尽だ。お前が薪を集めなかったら俺ももっと早く火を起こしてるんだけどな。
「まあ待て、肉取ってきたんだ。 これで手打ちでどうだ?」
俺はそう言って許しを請うた。仲良くやりたいしなしょうもない喧嘩は勘弁だ。
「へ、へえ。 やるじゃない。 でも私のほうがたくさん働いたからね。」
彼女は少し悔しそうにそういった。和解できたで良いんだよな。
俺はそこから魔法を使わない枝をこすっての火起こしをした。はっきりいってめちゃくちゃきつかった。
人生を三周している俺だがまさかこれを自分でやることになるとは思ってなかった。
一周目は文明の利器であるコンロなどがあったし二周目は魔法を使っていたからなあ。
でも火のついたときの喜びはどれよりも大きかったと思う。
パチパチと勢いよく燃え上がった焚き火でさっき仕留めた魔物の肉を焼き始める。
油が滴り香ばしい匂いが広がってくる。
焼き上がった肉を彼女に半分上げた。
「お前が集めた薪のおかげでこんなうまそうな肉が焼けた。 ほらよ。」
彼女は嬉しそうに俺の手から肉を取った。
そして勢いよく食べ始めた。
「おいしい……っ! あんた天才ね!」
彼女はいつもとは違う年相応の笑顔を見せた。
俺も自分の肉にかぶりついた。そのうまさは異常で俺も自分自身が天才だと錯覚した。
そして食べ進めていたとき俺はふと気になったことを口にした。
「そうえば、そろそろお前の名前教えてほしい。 いつまでもお前っていうの変だしさ。 ちなみに俺はセレス。 改めてよろしくな。」
俺が先に名前を名乗ると彼女は口をモグモグさせながら意外そうに俺の方を見た。
それから少し恥ずかしそうに言った。
「ずっと名前で呼ばれてなかったから人に名前を教えるなんて不思議ね。 私はルキル。 こっちこそ改めてよろしく。」
「いい名前じゃんか。」
俺がそう言うと、ルキルは少し照れくさそうに顔を赤くして、恥ずかしさを隠すようにまた肉にかぶりついた。
お腹がいっぱいになり、小さくなった焚き火の横で、俺たちは並んで横になった。
見上げる夜空には、満天の星空が広がっている。
「……明日も、晴れると良いね」
隣から聞こえた小さな呟きに、「そうだな」と優しく返す。
俺とルキルの、しばらくの旅の夜が、静かに更けていった。
どうでしたか?
いやーやっと始まった感ありますよね
これからのよろです




