道具なんかじゃない。――俺の相棒になれ
俺はまず前世に住んでいた国を目指した。
今俺に告白してきた姫様はどうなっているのだろうか。前世の俺の家に何かあるかもな。
静かな街道に、わずかな足音が響く。つけられていることには、少し前から気づいていた。
俺は足を止め背後の気配に向かって声を張った。
「コソコソと後をつけてきているのは分かっている。 さっさとでてこい。」
「これは失礼した。 不届き者がいると神様のお告げがでたからね。」
茂みの奥から姿を現したのは、仕立ての良い白い服を着た男だった。
男は、貼り付けたような笑顔でそういった。
胡散臭い男だ。神だのお告げだの、よくもまあ大真面目に語れるものだ。
呆れる俺をよそに男は貼り付けたような笑みを崩さない。
そのまま背後の茂みに向かってパチンと指を鳴らした。
「おい、やりなさい。神の敵に罰を」
男の合図と同時に、茂みが大きく揺れた。
飛び出してきたのは――俺と同じくらいの年齢、小さな女の子だった。
小さな身体に不釣り合いなほど大きな剣を構え、鋭い目で俺を睨みつけている。
教団に雇われた殺し屋だろうか。はたまた教団の一員か。
「悪いわね、仕事なのよね。――大人しく捕まってよ!」
少女はまさに凄まじい踏み込みを見せた。
小さな体で大剣を振るう姿は痛々しいほどで、必死さが伝わってくる。そしてどうやら教団の一員じゃなく生きるためにやっているだけっぽいな。
……あんな胡散臭い大人のために、こんな子供が命を張る必要なんてない。
そうとはいえこのままでは俺の命も危ないかもな。悪いが少し寝ててもらおう。
俺は静かに右手をかざし、直接傷をつけないほどの魔力を込めた。
――『重力結界』。
「え……っ!? 体が、動か……な……」
少女の頭上から振り下ろされるはずだった大剣が、空間にピタリと固定される。重力の檻がその動きだけを完全に封じ込めたのだ。
驚愕する彼女の大剣を魔法で弾く。
「ごめんな。少しだけ眠っててくれ」
魔法を睡眠へと切り替えると、少女は緊張が解けたように、すやすやと心地よさそうな寝息を立ててその場に崩れ落ちた。
俺は彼女の小さな体を、そっと草むらへ置いた。
「な、なんだその魔力は……!? こいつの動きを、呪文もなしに一瞬で……!?」
背後で、白服の男の笑顔が完全に引きつっていた。
恐怖でガタガタと膝を震わせている。俺はゆっくりと立ち上がり、冷たい視線を男に向けた。
「こんな小さなガキに何を手間取っているのかと思えば……お前自身は、戦い方も知らないらしいな。 それもそうか自分で戦ったことないんだもんな。」
「ひっ、あ、悪魔め、来るな……! 神の天罰が――」
「天罰を下すのは、俺の方だ」
俺が指先をパチンと鳴らす。男の足元の地面が、凄まじい光を放ちながら爆発した。
――『烈風弾』。
「ぎゃあああああああ――ッ!?」
威力を極限まで抑え、死なない程度に調整した衝撃波が男を直撃する。
男は無様に叫び声を上げながら、遥か彼方の空へと吹き飛んでいった。
静けさを取り戻した街道で、しばらくすると少女がうっすらと目を覚ました。
「私、どうなったの……?」
怯える少女の目線に合わせて、俺は草むらに腰を下ろした。
「体、どこも痛くないか? 魔法で無理やり眠らせちゃって悪かったな」
少女は呆然と、自分の体を確かめている。どこにも傷一つついていない。
「あいつはもう、二度と来ないように遠くへ吹き飛ばしておいたよ。 ……なぁ、あんな奴の言いなりになるのはもうやめろ。行くあてがないなら、俺と一緒に来ないか?」
少女の瞳に、じわりと涙が浮かぶ。
「や、やるじゃない!」
素直じゃねえな。ちょっとは喜べよ。まあいいか。
「ああ。同じくらいの歳だし、気が合うだろ。よろしくな、相棒」




