世界を脅かす大罪人
夜の帳が降りるとき俺は荷物をまとめて裏口の前に立っていた。
見送りに来てくれた父さんは昼間の一騎打ちのときとは異なってどこか沈んだ真剣な顔をしていた。
「セレス。お前を送り出したのは俺だ。 そんな俺が言うのは実に自分勝手だと思うが聞いてほしい。 絶対に守ってほしい約束がある。」
父さんは俺の肩に手を置き諭すように言葉を紡いだ。
「どれだけ強い力をもったとしても大罪人・ルシードのようになってはならない。 力に溺れ、人々を脅かす悪人になってはいけない。…いいな、セレス。」
「…っ。」
ドクン、と胸の中で嫌な音を立てた。
大罪人ルシード、いやルシードは俺の前世の名前だ。
――だが、俺は世界を滅ぼそうなんてしていなかったはずだ。
記憶の糸をどれだけ手繰り寄せても、自分がどうやって死んだかの記憶だけが、一切ない。
落ち着け俺。父さんも分かってることがあるはずだ。俺は冷静を装い聞いた。
「ねえ、父さん。 そのルシードって人……最後はどうなったの? どうして死んじゃったの?」
これで前世の死因が分かるかもしれないという核心の問い。
父さんは一瞬だけ痛ましいものを見るように目を伏せ、それから重い口を開いた。
「……神々の怒りに触れたのだ。 世界を我が物にしようとしたやつは、この世界を統べる唯一神の裁きを受けた。 その雷によって魂ごと消滅させられたと伝えられている」
「神様の、裁き……」
――その瞬間だった。
「お前は最後までみっともないバカだったな。良かったこの世界に呼んで。」
脳裏の奥底から、あの悍ましい不快な声が、鼓膜を破らんばかりの音量で響き渡った。
神だと?俺を殺して神にでもなったっていうのか。俺の歴史を汚したのか。
「っ、あ、ああああああ……ッ!!」
抑えきれない怒りから凄まじい魔力が放出される。
庭の木々が激しくざわめき、周囲の空気が熱を帯びてパキパキと軋んだ。
思い出せない。そんなクソ野郎の顔が。
「セレス!? どうした、その魔力は――」
父さんが目を見開き、咄嗟に身構えるのが見えた。
「……っ、は、ううん! なんでもない! 」
俺は歯の根がガタガタと震えるのを必死に堪え、血が滲むほど拳を握りしめて、魔力を抑え込んだ。
そして父さんに精いっぱいの笑顔を返す。
「ちょっと、緊張して魔法が暴走しちゃっただけ。 ……分かったよ、父さん。 俺、絶対にそんな悪い魔法使いにはならない」
「あ、ああ……。 そうか、気をつけてな……」
父さんは未だに動揺を隠せない様子で、それでも俺の頭をそっと撫でた。
先ほどまでの一騎打ちを遥かに凌駕する、セレスの魔力をみて本能的に恐怖したのかもしれない。
神の裁き。なにかがおかしい。俺は世界を守ろうとしたんだ。
父さんの温かい手を離れ、俺はすべての真実を暴き、その神とやらに制裁を下してやる。
俺は静かに更ける夜道に歩みを進めた。
どうでしたか?
ハッピーエンドを迎えようとしていた主人公の前世はしてきたこととは全く違い大罪人として記されていました
次回はどうなるのでしょうか
お楽しみに




