父親との一騎打ち
――シャ、と静かな摩擦音が、張り詰めた空気を切り裂いた。
父さんが腰の剣を抜いた瞬間、それまでの温和な気配が完全に消える。
「っ……!」
押し寄せてきたのは、言葉にできないほどの圧倒的な威圧感だった。
殺意ではない。
ただそこに立っているだけで、周囲の空気を支配してしまうような、本物の戦士だけが持つ威圧。
ドクン、心臓が本能的な恐怖で激しく脈打つ。
俺は小さく息を吐き呼吸を整える。大丈夫だ。勝てる。
「手加減はしないぞセレス全力で来なさい。」
父さんの言葉が終わるか終わらないかの瞬間俺は地面に強く踏み込んでいた。
「ニトロ!」
短く詠唱し、父さんの足元の空気を魔法で強引に圧縮、一気に膨張させて爆発を引き起こす。
ドォン、と激しい衝撃波が庭の砂を巻き上げたが、手の内に返ってきた手応えは驚くほど小さかった。
――流石は騎士団の一員、といったところか。
直撃の瞬間に、かろうじて避けたのだろう。
刹那、視界を覆う黒煙を引き裂いて、父さんが飛び出してきた。
手に握られた白刃が、俺の首元を狙って横一文字に凪がれる。
ふつうは避けるだけで精一杯な圧倒的な速度。
だが、前世の修羅場経験が、俺の思考を肉体より早く加速させた。
すかさず魔法回路に魔法を流し、瞬時の魔力構築を行い、横薙ぎに対して防御魔法を展開する。
キィィィン! と、空間が軋むような金属音が鼓膜を刺した。
父親の渾身の一撃を魔法で受け流し、生まれた一瞬の隙。
――俺は間髪入れず、がら空きになった父さんの懐へ向けて、至近距離のカウンターを浴びせた。
――選んだのは、衝撃波動。至近距離から父さんの胸元へ向けて、不可視の衝撃を叩き込む。
本来なら骨をごとく砕く一撃。
だが、父さんは咄嗟に空いた左腕を盾に割り込ませ、俺のカウンターをガードしてみせた。
ズガァン! と、肉体と衝撃が激突する鈍い音が響く。
「ぐっ……!?」
父親の口から、驚愕のうめき声が漏れた。
ガードはされた。
しかし、俺が狙ったのは肉体へのダメージではない。衝撃をあえて上向きに固定し、父さんの体を宙に浮かせることだ。
どれだけ卓越した戦士であっても、足が地を離れれば踏ん張ることはできない。
無重力状態になった父さんの懐へ、俺は2発目の魔法を仕込む。
「終わりだ、父さん」
宙に浮いた父さんの喉元へ、俺は鋭く尖らせた氷の刃をピタリと突きつけた。
ピキピキと凍りつく空気が、父さんの肌を脅かす。
「……そこまで、だな」
父さんは剣をゆっくりと収めると両手を上げた。
その顔には負けたことに対する悔しさはなくただ強すぎる我が子を誇るような切ない笑顔であった。
「っ、はぁはぁ…!」
魔法を解いた瞬間、激しい虚脱感が襲う。やはり子どもの肉体ではこれが限界だ。
息は乱れ魔力は枯渇している。
「やっぱりすごいなあ。俺の息子は! 本当に誇りだよ。」
父さんは地面に足をつけると、すぐに駆け寄って俺を抱きしめた。
大きくて温かい、父の体。
「今日の夜にはここをたちなさい。 本当は行かせるべきではないと思っている。 だけど今はお前の力を必要としている人が多くいる。」
抱きしめた父さんの腕がかすかに震えているのが分かった。
「なんせこの俺から一本とれる魔法使いなんだからな。 自分に自身を持って人を助けてこい。」
親としての情を振り切るような重い言葉だった。
そして今夜俺は旅立つことになった。
どうでしたか?
一見順風満帆な旅立ちです。
しかし旅立つ前セリスは衝撃な事実を知ることになります
お楽しみに




