狂人のナイフ
「ジルンが、そうですか」
姫様はジルンの死に涙した。俺もそうだ、内心信じていない気持ちがある。
ルキルは自分の無力さに打ちのめされているのか受け取ったナイフをもったまま黙り込んでいた。
人の死とは急なものだ。俺だってなんで死んだか分からない。でもその死は自分以外の誰かにも深い悲しみと後悔を与えることを身を持って痛感した。
だからって踏みとどまってばかりじゃ報われないよな。
「ルキル、クラリエスのところへついてきてくれないか。 あいつには謝らないといけない」
クラリエスは許してくれないだろう、そんな事はわかってる。だからってほっとけないだろ。
ルキルは静かに頷いてくれた。
クラリエスとジルンは子どもと共に幸せな人生を歩む事ができたのに、俺が死んだせいでその幸せを奪った。俺がバカで弱かったからその幸せは取り返せないものになったんだから。
「姫様、僕たちにはやらないといけないことがあります。 どうかお元気になさってください」
姫様ならきっとこの国を立て直してくれるだろう。もう俺の憂いはない。
「ジルンの子供のことだと伺います。 どうか無事に。 ルシード」
背後から言われたとき俺は衝撃で固まった。
「気づいていたんですか?」
いや正体を明かしてなんかいないはずだ。なんで。
「ええ、ジルンが命をかけるなんて貴方以外にいませんもの。 聞いたことあります? 私の護衛とかしてくださってたんですけどね、ルシードに恩返しのためだって言って譲らなかったんですよ。 だからどうかジルンのために前を向いてください」
図星だった。前を向いているように見えて本当は今すぐ後ろを向きたかった。
ジルンが喜ばないのは分かっているから前を向く自分がかっこいいと思い込んで本心に嘘をついた。
その時ルキルに一発入れられた。
「今は自分に酔わなくていい! ジルンのことなんて考えなくていい! 正直に本心と向き合って気持ちを整理しなさい!」
その言葉とともに一発は深く俺の心に響いた。するとジルンに拭われたあたりが熱くなってきた。
そして頬を静かに流れた。
「俺お前と入れて楽しいわ」
そんな聞こえるはずのない声が聞こえてくる。
いつも旅の酒宴で言っていた言葉やジルンとともに魔王を破ったこと、色々な思い出が蘇ってくる。
あの笑顔が頭から離れない。
また一緒に戦いたいと今になって思い始めた。もう一緒に戦えるわけないのに。
でもその狂人はルキルにナイフを託した。だからまるでずっと近くにいるように感じる。
「ルキルもう満足した。 行こう」
ジルンは俺と違って記憶をなくして転生するかもしれない。はたまた転生しないかもしれない。
でもあいつの魂はいつもこのナイフに詰まっている。そう考えると前が向けそうな気がした。




