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貧乏子爵家の子どもたちの話

姉の義娘になった私の話

掲載日:2026/06/18

※筆者の妄想の異世界です。ゆるゆる設定。


この話単体でも読めますが、「イケメン侯爵の書類上の妻になりました」の妹の話です。

私の姉はのんびり屋というか、ぼーっとしているというか、能天気というか。もう少し危機感を持ったらいいのではないかと私は思う。


私たちは貧乏子爵家の娘。娘は家を継げないし、一番下に跡取りの長男がいるから、婿を迎えて家を継ぐこともない。


つまり、女は嫁がなければいけないのだ。姉は長女、私は次女。そしてさらに妹が3人もいる。貧乏で持参金などほぼ払えないような、しかも爵位としてはあまり旨みがない子爵家の娘をもらってくれるような奇特な男性がどれだけいるだろう?もしかしたら平民に嫁ぐこともあるかもしれない。貴族の結婚は基本当主が決めることなのだけれど、我が家の当主である父は、父親としてはいい人だと思う。でも当主としては……うん、一言で言うと、ちょっと頼りない。かな。


だから、できれば結婚相手は自分で見つけて、父の承認をもらう形で結婚するのがいいと思っている。それで学校に通っている間、私は勉学や社交に励むことにした。自分に付加価値を付けることにしたのだ。


勉強ができれば、家のことや領地を任せたいと言ってくれる人がいるかもしれない。


社交をして仲良くなった人が、妻に迎えたいと言ってくれるかもしれないし、立場のある人と仲良くなれば良い人を紹介してくれるかもしれない。


打算的と陰口を言われるかもしれないけれど、これが私の戦略。でも、貴族の結婚なんて家の益を考えて結ばれるものなのだから、打算的で何が悪いの?


だからこそ、能天気に小説を読み漁っている姉に対して少し物申したくもなってしまう。小説を読むのが悪いとは言わないけれど、領地経営に役立つ本も読んだらいいのに、なんて。


そんな姉があっさり結婚した。しかも相手は社交界でも評判のいいイケメン。爵位は侯爵。


婚約すると聞いたとき、「なんでそんないい人と?」と姉本人に聞いたけれど、「私もわからないのよねぇ」とのんびりした返事しか返ってこなかった。


散々姉のことを悪く言っているみたいになってしまったけれど、私は姉のことが結構好きだ。


のんびり、ほんわかした姉は癒し系だし、私が悩んでいることとかを根気よく聞いてくれる。そして最後に、「大丈夫よ、あなたなら」なんて励ましてくれると本当に大丈夫な気がしてくるし、実際大丈夫だったりするのだ。学園でも聞き上手だし優しいと言われているらしい。姉は天然の世渡り上手だ。私の持っていない美点。そこはすごくうらやましいと思っている。


-・・・ ・-・ --・-・ ・・-- -・-・・ --- -・・・- 


姉が侯爵家に嫁いでからしばらくして、話があるから姉夫婦で実家を訪ねたいと侯爵から手紙が届いた、と父が言った。


「あちらは侯爵さまだ。こんな寂れた子爵家で十分なおもてなしができるとは思えない……それに迎えるのにも準備がいるんだぞ、税収が入るのはまだ少し先だ、今は全く余裕がない。おもてなししたらしばらくうちの食事は肉どころかパンも節約生活になるぞ……どうしたらいいんだ……」


と、口から本音がぼろぼろとこぼれ出てきた。ね。頼りないでしょう?


姉が結婚してから侯爵家から援助をいただいているけれど、うちの領地は大きな水害が起きてしまって立て直しの最中。「ちょっと貧乏」だった子爵家が「ひどい貧乏」にランクアップしたのも水害のせい。いただいた援助はほとんど領地のために使ってしまって、私たちが贅沢をする余裕どころか、普通の生活をするのも厳しい状況なのだ。貴族なのに。


妹たちも神妙な顔で聞いている。ひもじいのはつらい。妹たちは育ちざかりだし、私も食事はしっかりとりたい。


「お父様、お姉さまに手紙を書きましょう」

「なんて書くんだ、お迎えなんてできないって?」

「いいえ、侯爵さまに足をお運びいただくなど申し訳ない、こちらからお伺いしたいと書くのです。お姉さまなら、こちらの窮状を察して良いようにしてくれると思います」

「それだ!」


父は手紙を書くために張り切って書斎へ向かった。ね。悪い人ではないのよ。


思惑通り、姉が侯爵家へ来てくださいと手紙を返してきた。お菓子をたくさん用意してお待ちしています、とも書いてあった。話があるのは両親に対してだけれど、これ、もしかしたら妹たちもおいでって言ってるのかしら。


侯爵家訪問当日。姉は家族みんなで乗れる大きさの迎えの馬車を手配してくれた。


侯爵家に着くと、応接間にはたくさんのお菓子とお茶が用意されている。日持ちのするお菓子はお土産に持って帰れるように伝えているからね、と言ってくれる姉の気遣いに感謝しかない。


挨拶もそこそこに侯爵と姉の夫婦、そして私の両親は別室へと移動していった。残されたのは私と妹たち。姉はゆっくりとお茶を楽しんでいて、と言い残していったので、応接間でのんびりくつろいていていいらしい。妹たちはお菓子をつまみはじめ、食べては目を丸くして驚いている。家にいるときみたいに大きな声でおいしい!と叫びだしたり踊り出さないあたり、ちゃんと猫を被れていてえらい。「お邪魔するのだから最低限の行儀作法は守ってね」と、こちらへ来る馬車の中で母に言い聞かせられたのが効いている。


私も目の前にあった普通に見えるマドレーヌを手に取ったのだけれど、食べる前からバターの豊潤な香りがした。食べれば口の中でほろりと溶けるように消えていく。バターだけでなく、ほんのりと苦みのある柑橘の香りが口の中に残る、上品な味。文句なしにおいしい。いいなあ、姉はいつもこんなにおいしいものを食べてるのか。


一通りお菓子を楽しんでほっとしたタイミングで、侯爵家の義息子になった次期侯爵の青年が応接間に入ってきた。この中で面識があるのは私だけなので、私が代表してあいさつする。


彼と私は同い年で、学園の最終学年に在籍している。学園では彼は最近侯爵家の養子になったと話題になったし、姉からも手紙で聞いていたのでここにいることに不思議はない。学園ではクラスも違うし、話をしたことはないけれど。彼は手に見覚えのある箱を持っていた。今日手土産にと持ってきたものだ。


「贈り物をありがとう。これについてちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな」


箱の中にはレース編みが収められている。


「もちろん。これは私たちの領地で作ったものなんです」


さすがに手ぶらでは甘えすぎだろうと侯爵家の手土産にできそうなものを選んで持ってきた。


「今まで見たことがないデザインだけれど、これ、とてもいい作品だね。同じものを購入したいって言ったらできる?」


やった。侯爵家のお眼鏡にかなったらしい。


「作品を多く作ることができていないので、販売はしていません。今はまだ、ですけれど」

「多く作ることは難しい?なぜ?」

「水害をきっかけに領内で立ち上げた事業なので。まだ編み手は一人、ほかは育成中ですので量産ができません」

「なるほど」


このレース編みは、新しく子爵家の事業にしたいと思っているものだ。水害を立て直すために子爵家の領地で何かできないかと考えていた私。領地を視察して話を聞いているときに水害によって被害を受けた人たちの中にレース編みの名手の女性がいることを知った。


彼女は水害前は家族の分や友人に頼まれたものを作るくらいだった。しかし水害で自宅に大きな被害が出て、修繕のためにお金が必要になった。それでレース編みを売りたい、どうやったら商売できるかと私に相談を持ちかけてきた。水害を免れた作品を見せてもらうととても出来がいい。これは売れると私は思った。


それで領主である父に話をしてレース編みの工房をつくることに決めた。工房は彼女の作品作りの援助のためでもあるし、彼女の技術を学んで職人を育成する場所とすることにした。工房を建てたり、材料を購入したりしたのが姉が嫁いだ後。資金は姉の結婚で侯爵家からもらった援助金の一部を使った。そして今、彼の手元にあるものが水害後に作成されたレースだ。


侯爵家のだれかの洋服の装飾にでも使ってもらえたら、と思って持ってきたお土産だったけれど、これは継続的に使ってもらえるかもしれない。いわゆるビジネスチャンスである。


「職人見習いの育成をしながらの作品制作になってしまうので、まだしばらくは量産は難しいと思いますけど、見習いたちが育ってくれば少しづつ作品を増やしていけると見込んでいます」

「それはいい。また作品ができたら侯爵家のほうで買取をさせてもらってもいい?服飾の事業があるので、そちらで使ってみたい」

「ぜひ」

「もしドレス職人たちが気に入ったらいずれはデザインや大きさを指定して作成してもらうこともあるかもしれないけど対応してもらえる?」

「レース職人に伝えておきます」


手土産はすごく好感触。次期侯爵は今後レースを継続して買ってもらえる可能性も教えてくれた。これは領地のレース工房にとっていい知らせだ。職人たちのやる気にもつながる。帰ったら手紙を書こう。


いつの間にか商売の話になって、いろいろと打ち合わせをしているうちに親たちの話が終わったらしく、応接室に戻ってきた。お母様の目がめちゃくちゃ腫れている。え、何の話をしてたの?


-・・・ ・-・ --・-・ ・・-- -・-・・ --- -・・・- 


侯爵家で顔を合わせた後、次期侯爵とは学園で会った時に話をする仲になった。会話内容はほぼ領地のこととか商売のことばかりだけれど。彼は自分が継ぐ領地をもっと盛り立てたい、私は子爵領を立て直すためにいろいろ試行錯誤をしているところ。共通点もあり、それぞれ克服したい課題もあり。本を読んで勉強していたことが役に立つこともあって、勉強しておいてよかった、と思う。


一度、次期侯爵から恋愛小説の話題を振られたことがあったのだけれど、何だったんだろう。あれ。姉から読むように勧められたのかな。


次期侯爵とはお互い相談したり、相談にのったりと学園で過ごしている間に周囲からあいつらはデキているという目線で見られるようになった。


次期侯爵とデキている、と言われても悪い気はしない。でも恋愛感情ではないのよねぇ。人として好ましいとは思っているけど。うん。ビジネスパートナーというのが一番しっくりくる表現かな。


-・・・ ・-・ --・-・ ・・-- -・-・・ --- -・・・-


家族で侯爵家に出向いてからしばらくして、次期侯爵が子爵家の領地に視察に行きたいと言い出した。


レース編みの職人のほうは、見習いの技術も成長していて、レース編みの名手は自分の作品を作る時間が増えたと言っていた。そろそろ工房に案内してもいいころだとは思う。でも。


「領地で侯爵家の方をお出迎えするなんて……どれだけ準備がいるか……」


と父がまたワタワタしていたので、


「お父さま。客間はあるのですから、まずは屋敷をきれいにしてお出迎えしましょう。食料などは侯爵家のほうから持ち込んでいただければいいのでは。私のほうから姉に子爵家の状況を義息子の次期侯爵に伝えておいてほしいと手紙を書きます」


と、意見しておいた。


子爵家の領地まで次期侯爵は来た。領地の屋敷には侯爵家の人をもてなせるような侍従はいないので、侯爵家のほうから連れてきてもらった。心配していた食料だけでなく料理人まで彼自身が持参してきた。特に食材は余るのではないかと思うほど大量だった。


次期侯爵はレース編みの工房を訪ねて、職人たちとも話をしていた。職人たちは平民なので、次期侯爵さまに失礼があったら……などという心配は杞憂で、むしろ彼が職人たちに馴染んで説明を受けたり、打ち合わせをしたりしていた。


びっくりしたのは侯爵家領の孤児院で過ごしている子供を2人連れてきていたこと。手に職をつけたい手先が器用な子を連れてきていて、弟子入りを打診していた。無理なお願いだったら私も止めるところだけれど、きちんと行儀をしつけられた子たちだったし、独り立ちできるまで生活費は侯爵家が持つと言う。職人が増えれば子爵家の領地も潤うので断る理由はない。いちおう問題が起きたら連絡してほしいと職人たちには伝えておいた。


姉に連絡しておいた効果もあったと思うけれど、彼は大きな問題を一つも起こさずにご機嫌で帰っていった。余った食料は置いていってくれたし、彼の連れてきた料理人はたくさんの保存食もつくって置いていってくれた。これでしばらくは美味しいご飯が食べられる。領民たちのための炊き出しにも使えそうだ。


お父さまは、次期侯爵が来るまではまったく乗り気ではなかったのに、彼が帰った後はまた来てくれないかな、と言っていた。


お父さまはちょっと調子のいいところがあるけれど、なんだか憎めない人である。


-・・・ ・-・ --・-・ ・・-- -・-・・ --- -・・・- 


領地から王都に戻り、学園もそろそろ卒業が見えてきたころに、次期侯爵からお出かけの誘いを受けた。


もしかしてデートかな、と思ったけれど、レース編みの工房を訪ねたときに手に入れたレースを使ったドレスがいくつかあるので見てもらえないかとのこと。うん、これはビジネスのオファーですね。


さて、お出かけ用の服はどうしよう、と考えていたら、なんと彼のほうからワンピースが贈られてきた。街歩き用なので平民の服に似ているけれど,生地がちょっと上等だったり、ワンピースの襟や裾などに子爵家の領地で作られたレースがさりげなく使われていたりして。なかなかいい趣味をしている。


お出かけ当日、贈られたワンピースを着て待っていると、次期侯爵は馬車に乗って迎えにきてくれた。私の着ているワンピースを見て破顔した。「よく似合っているよ」と褒めるのも忘れない紳士である。私も、「素敵なワンピースありがとうございます」と言ってニコリと微笑んだ。


次期侯爵に連れてこられたのは、ドレスを扱う店だった。驚いたのは、高位貴族の令嬢たちがこの店でドレスを仕立てたいけれど、人気があってなかなか予約ができない、と言っていた店だったこと。もちろん貧乏子爵家の私には縁がない。次期侯爵のエスコートで初めて店に足を踏み入れた。


出迎えに出てきていたドレス店のスタッフたちが私たちを、いや、私を見てなんだか浮き足立っている。スタッフたちの目がなんだかキラキラしていて……目がさりげなく私の顔とワンピースを往復している。ここで気付く。このワンピースは子爵家の領地のレースを使っているし、このお店で仕立てられた物なのでは。


ってことはめちゃくちゃ高級品なのでは!?


見せてもらうドレスの準備をスタッフがしている間、応接セットに案内されて席についたタイミングで私は次期侯爵に話しかける。


「このワンピース、こちらで仕立てたものですか」

「そうだよ。貴女のようなきれいな女性に着てもらえて、スタッフが喜んでたね」


さらりと褒め言葉を言われたけれど、私の心はその言葉に浮かれている場合ではなかった。


「これ、すごく高価ですよね……?」高級店の品をお礼一つで受け取ってもいいものなのか、混乱している。

「布地がドレスに比べれば安いから高価ではないよ。レースだって職人見習いの試作品だし。貴女に着て欲しくて作ったのだから値段は気にしないで」

「気になりますって!」小声で叫んでしまった。値段は気にしないで、なんて言うくらいだからやっぱり高価なんじゃない。洗ってお返しすべき?

「スタッフもノリノリで作ってくれたんだよ。気を使ってくれるのは嬉しいけど、喜んで受け取ってくれる方がもっと嬉しいよ。何か理由がいるなら子爵家領地の素晴らしいレースを教えてくれたお礼だと思ってもいいよ」


ここまで言われたら反論できない。ありがたくもらうことにする。


「……ありがとうございます。大事にしますね」


ドレス店のスタッフも嬉しそうだから、まあいいか。なんだか言いくるめられている感覚がしてしまうのが、ちょっと悔しいけれど。


次期侯爵はそんな私を見て、すごく幸せそうな顔をしていたらしい。この部屋にいた人たちの中で私だけ気がついていなかった、と後から知った。



ちなみにレース職人の力作のレースを使い、ドレス職人たちの丹精込めて作られたドレスは素晴らしい出来だった。めったにゆっくりと眺めることができない、高級なドレスをじっくりと見ることができて眼福だった。



次期侯爵はドレス店の帰りにカフェに寄って、美味しいケーキとお茶をご馳走してくれた。おなかも気持ちも満たされた私に次期侯爵は、「少し歩かない?」と公園の散歩を提案してきた。断る理由もなく、公園へ連れて行ってもらう。


公園に着くと、エスコートではなく直接手を取られた。予想外の出来事にビクッと体が跳ねる。


「嫌だったら言って?」

「……!いや、では、ないです、けど」繋がれている手を見る。うん、幻じゃない。しっかり手を繋いでいる。


えっと、カフェの奢りまでならまだビジネスと言い切れなくはなかったけど、これは、


「……デート、みたいですね」

「僕はそのつもりだったけど?」


つながれた手先から、次期侯爵の顔へ視線を移すと余裕そうな表情。彼の目には真っ赤になった私の顔が見えているに違いない。


「私、でいいの?」

「貴女がいいんだよ」

「私、貴方の……義理の母の妹、だけど」問題はないけれど、なんていうか、すわりが悪いというか。

「別に悪いことしてるわけじゃないし」次期侯爵はカラカラと笑う。


そういえば不思議に思っていることがあった。姉の嫁いだ現侯爵はまだ若い。侯爵家の血筋の人間が少ないから養子を迎えるのは不思議ではないけれど、子供を産んで侯爵家の跡取りにするのが普通だ。なぜ私の目の前にいるこの人が次期侯爵となっているのか。姉は子供を産まないつもりなのだろうか。


「ああ、そのことは僕の一存では話せない事情がある。貴女が僕と婚約してくれたら、侯爵と、貴女のお姉さんに許可をもらって話せるよ」

「婚約、って」気が早いのでは。

「こっちもできれば急ぎたい事情があってね。ねえ、貴女が僕のことは少なくとも嫌いじゃないって僕は自惚れているんだけど、間違っている?」手を握って、私の顔を窺ってくる次期侯爵。

「もちろん嫌いではないです。一緒にいると楽しいですよ。ただ、姉の事もあるし、身分も結構違うし、ビジネスパートナーだと思っていました」

「うん、それでいいよ。人としてお互い敬意を持てれば家族としてうまくやっていけると思わない?それか、貴女には僕ではないいい人がいる?」

「いえ、いませんけど……」

「じゃあ、決まりね。貴女のお父さま、子爵家ご当主に挨拶に行かなきゃ。今日はご在宅?」

「えっ、今日?」


え、ちょっと待って、展開早すぎない?え、え?私もしかして今婚約した?


「先延ばしにする理由もないし」次期侯爵はご機嫌につないだ手をブンブンと振る。まるで子どものように。

「ちょっと準備が追いつきません……」私は項垂れる。


心の準備はもちろんだけれど、貧乏子爵家は突然訪ねられても、侯爵家の方をお迎えできるような準備がありません!


-・・・ ・-・ --・-・ ・・-- -・-・・ --- -・・・- 


これで何度目かと思いながらも姉に手紙を書いて、侯爵家で両家顔合わせをすることになった。


応接室で両家向かい合わせに座ったのだけれど、侯爵家側の席に義母として実姉が座っているのがなんとも変な感じだ。


私のお父さまは、また領地に遊びに来てほしいというほど次期侯爵のことを気に入っているし、お母さまは、いい家に嫁げることになって良かったわね、とニコニコしている。


侯爵さまは相変わらずイケメンで、隣にいる姉はほんわかとほほ笑んでいるし、その隣にいる次期侯爵も嬉しそうにしている。


みんなの顔を見ていたら、ああ、婚約したんだなという実感がようやく少し出てきて、書類を交わしたら、もう後戻りできないんだなとちょっと緊張した。


その後聞いた、「侯爵家の事情」は腰を抜かすかと思うほどびっくりしたし、


私の夫になった次期侯爵は、早々に侯爵位を継いだし、


私と夫は2男2女の子どもに恵まれたし、


姉も3人の子どもを産んだし、


私と姉は侯爵家でずっと一緒に幸せに暮らしたのだった。

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