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貧乏子爵家の子どもたちの話

【ショートショート】初夜の寝室に飛び込んできた男

掲載日:2026/06/17

※筆者の妄想の異世界です。ゆるゆる設定。

「おまえを、あいする、ことは、ないっ!」


初夜、夫婦の寝室に息を切らして飛び込んできた男は芝居がかったしぐさで私に今の言葉を投げつけた。


数秒後、部屋の外からバタバタと足音がして執事とメイド長が飛び込んでくる。


「ぼっちゃま、なんてことを」


執事が男を拘束する。


「はなせっ、しつj…」


男が喋れないようにメイド長が口を塞いだ。


「奥様、申し訳ありません」


「此度の失礼はお許しくださいませ」


執事とメイド長は男を器用に拘束しながら綺麗なお辞儀をする。


初夜に緊張していた私の目の前で起こったドタバタ劇に私は思わずクスリと笑ってしまった。


「執事、メイド長、ご苦労様。大丈夫よ、放してあげて」


そういうと2人は拘束を解く。拘束を解かれた男はむくれていた。


「執事、メイド長、しばらく下がってもらっていいかしら?」


「しかし…」とためらう執事に、


「今日から私の家族ですから、水入らずで話してみたいの」


そういうと2人は一礼して部屋を出ていき、私は男と向き合うこととなった。


「お芝居がお好きなのですか?」


そう言うと、男は顔を上げ、きらきらした瞳で頷いた。さっきのセリフ、芝居がかっていると思ったら、やはり芝居だったらしい。


「私もお芝居が好きなんです。先ほどのセリフはどんな芝居で観たのですか?」


水を向ければ、男は芝居のことを饒舌に語り始めた。


身ぶり手ぶりを交えて楽しく芝居について語っていた男が「……つかれた」というので、私はベッドの上で膝枕をすることにした。普通に枕を使ってもらってもいいのだけれど、スキンシップって大事だと思ったのであえての膝枕。太ももに乗せられた頭の温かさが、弟にもよく膝枕をしてあげた時の懐かしい記憶を呼び覚ました。


男はまだまだ話し足りないようで私に膝枕をされながら、最近屋敷内であった楽しかった出来事について語りだす。


私もこれから過ごす屋敷のことについて興味があったので、男の話を楽しく聞いていた。


ガチャリ、と扉が開く音がして、寝室に別の男が入ってきた。


ベッドの上で私に膝枕されていた男が、


「ちちうえ!」と嬉しそうに言う。


ちちうえと呼ばれた男…今日私の夫になった男は驚いていたが、ベッドに近づいてきて、私に膝枕されていた子を抱き上げる。


「温かいな……眠いのか?」


「ねーむくなーい」


そういう男の子の瞼は今にも閉じてしまいそうだ。


「もう寝る時間だ。部屋まで連れて行こう」


「やだぁ」


「わがままを言うな」


自分の体を運ぶ父親に抵抗しようと男の子は小さい体でもがいている。


「旦那さま」


夫に私が呼びかけると、夫は私に目を合わせてくれた。


「もし旦那さまさえよろしければ……せっかくですから少し3人で過ごすのはいかがですか」


夫は瞠目する。


「……あなたはそれでいいのか?」


「ええ、早く仲良くなりたいのです。旦那さまとも、義息子とも」私は微笑みながら頷いた。


私は初婚だけれど、旦那さまは再婚。前の奥さまは息子を出産した後すぐに亡くなったと聞いている。旦那さまと私は、まだまだ親の恋しい年齢の義息子に母親を、ということで結婚することになった夫婦だ。


この様子なら義息子はすぐに寝入ってしまうだろう。彼が一日の終わりを楽しく過ごした思い出をつくれるなら、初夜を少し先延ばしするくらいなんてことない。


「じゃあ、眠るまで一緒にいようか」


息子を抱いたままの夫の言葉に、義息子は破顔した。


義息子は寝入った後、扉の外で待機していたメイド長に引き渡され、自室へ運ばれていった。


夫婦の寝室に残ったのは夫と私の二人。


「改めまして、これからよろしくお願いします」


ベッドの上で三つ指をついて挨拶をすると、夫が顔を上げて、と優しい声で言う。言われたとおりにすると、夫は友好的な笑顔で私を見ていた。


「貴女が妻になってくれて本当に良かった。息子ともども、よろしく頼む」


ちょっとしたハプニングはあったけれど、新しい家族の明るい未来を予感しながら私は夫に身を任せた。

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