表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/17

諦めと抗い 〈過去編 その6〉



「出張?ですか?」


スタイレーンは、この街を統括する男爵の屋敷に来ていた。

恰幅のいい男爵は、大仰に頷いた。


「君はいつも、この街のためその身を賭して働いてくれている。そのことを含めて、私は君に感謝をしている。今回のちょっとした報告に、君が王都に出向き、王の覚えを良くしてくるといい」


にっこり笑って男爵は、スタイレーンの方に身を乗り出した。


王都···か···。


スタイレーンは顎に手をやる。


男爵の命の元、街のために働くことはなんら異はない。


しかし。


ここ最近、どうにもシェイネに対する良くない噂が立つ。


それはほんの、ふ、としたことで大したものではないのだが、スタイレーンは気になっていた。


シェイネには言えない。


事故に遭った少女を癒したにも関わらず出ていこうとしたくらいだ。

不穏な空気を伝えたら、風のようにかき消えてしまうかもしれない。


スタイレーンは、シェイネのいない暮らしなど、もう想像すらできなかった。


「どのくらいの、期間になりますでしょうか。ここでの役目も、ありますので」


スタイレーンは男爵に聞いた。男爵はひょい、と体を起こし真っ直ぐ座ると


「2,3日といった所だよ」


と言う。

それならば、スタイレーンは思った。

そんな短期間にどうこうなるはずもない。


「わかりました。参りましょう」


一度シェイネの家に赴き、少し注意を促そう。不安にさせない程度に。


そう思うスタイレーンに、男爵は言った。


「良かった。君ならきっと、了承してくれると思っていたよ。後のことは任せたまえ。あぁ、突然のことだからな、必要なものはすべて私が揃えたよ」


え、と、スタイレーンは男爵を見る。


「まさかとは思いますが、今から、ですか?」


ガタン、と、部屋の扉が開く。

そこにはきっちりと鎧を着込んだ兵士が5人。その手に槍を掲げながら入ってきた。


「準備はよろしいか。スタイレーン殿、どうぞこちらへ参られよ」


甲冑からのくぐもった声。


スタイレーンは圧倒され言葉もなかった。

ふ、と、横に立つ男爵を見やる。

「出張、ですね?報告なんですよね?」


男爵はにこやかに言う。

「そうだ。出張だ。それは君がこの街にいない期間があるということだ」


鎧の兵士が二人、スタイレーンの両脇に立つ。

スタイレーンは納得のいかない顔のまま、きらびやかな馬車に乗せられ走り去った。



ふ、と、シェイネは顔を上げた。


「ジャン···」


シェイネはスタイレーンに一つ嘘をついていた。

黒魔術など使えはしない、と。


魔女である以上、シェイネは黒魔術のすべてを修めていた。


死者を生きる屍として操り、地獄の炎火で辺りを焼き尽くし、人の感情をねじ伏せ、意のままにすることすら可能である。


黒魔術発動の根本は本名であった。


その者が生まれ落ちた時にその身に刻まれた名。


それを知るからこそ、シェイネはスタイレーンにイザボーの名を教え呼ばれることに躊躇していたのである。


人は皆、その身に魔力を有する。


扱い方を知らぬだけで、誰もがその体のうちに宿している。


中でもスタイレーンは、その魔力が豊富であった。

溢れる魔力を、惜しげもなく周りに分け与えるスタイレーン。無意識とは言えその姿勢に、シェイネは一目見て心惹かれた。


彼がシェイネをイザボーと呼ぶとき。

彼の想いが、(ほどばし)り、溢れかえってシェイネを翻弄する。


シェイネはその、拙くも純粋で真っ直ぐなスタイレーンの魔術を、ひとつひとつ優しく断ち切っていた。


私を縛れば、身動き取れなくなるは貴方。


ともすれば自ら手を伸ばしてしまいそうになる気持ちを抑え、シェイネは引いた線から先に進もうとはしなかった。


今、そのスタイレーンが、遠く離れたいずこから魔術を飛ばしてきている。


無意識でおこなっている事ゆえ、その感情は支離滅裂でシェイネにも理解は及ばなかった。


彼に危険が···?いいえ、これは違うわね。えぇと、では···。


拙い魔術の解釈に夢中になっていたシェイネは、部屋中に満ちている煙に気づくのが遅れてしまった。


「······」


意識を自分の体に戻す。


「ヨーン」


愛猫を呼ぶ。が、姿がない。


シェイネの家は、もう煙でいっぱいで、パチパチという音と、かなりな温度の風が吹いていた。


「外に逃げているの?それならいいのだけれど、ヨーン。おまえが無事か、確認させてちょうだい」


ひゃあ


庭から鳴き声が聞こえた。


あぁ、良かった。いえ、庭にも火は回るわね。さて、ここにいても仕方ないわ。外に出ましょう。


外に出ると、そこは烏合の衆で埋め尽くされていた。

前面に立ちはだかるは甲冑の兵士。

その手に剣と盾を持ちシェイネの家を取り囲む。


さらにその後ろには街の人々。

口々に

「魔女」

「悪魔」

「人殺し」

と叫んでいる。


シェイネは、どこか諦めたような微笑みを浮かべた。


わかっていたことなの。

何度も、やってきたの。

でもどうしても

欲してしまうことがあるの。


おこがましかったわね。


私は、貴方達とは違うのだもの。


魔女であるシェイネは、その身そのものが黒魔術の塊であった。槍で刺そうが火で炙ろうが、その身を滅することは叶わない。


死を恐れぬシェイネは、戸惑うことなく兵士の居並ぶ真ん中へと進んでいく。




「ここは···俺の記憶が正しければ、王都はこんな山奥ではないはずだが」


スタイレーンは鎧の兵士に向き直る。


兵士はスタイレーンの両腕を掴み上げ先に進ませる。

「歩きたまえ。説明は中でおこなう」


中に入る、と、それの意味は


「牢屋かよ!どういうことだ、俺が何をした!」


ガシャン!と、鉄格子を叩きつけるスタイレーン。


ふぅ、と、甲冑の兜を取った兵士は、スタイレーンに向き直る。


「しばし待たれよ。しばらくの後、魅了も解けよう。そうすれば、貴殿にも言葉が通じるようになるだろう」


スタイレーンは首を傾げた。

「魅了?言葉なら通じる。興奮はしない、状況を教えてくれないだろうか」


兵士は隣に立つもう一人を見やる。いまだ甲冑姿のもう一人は、固いだろう肩を器用にすくめた。


「暴れても手遅れだし、もういいんじゃないっすか?」


ふむ、と、兜を脱いだ兵士はスタイレーンを見る。


「お前の知る魔女を、今討伐している最中だ。赤子を喰らい、死した老人を操り、街を掌握せんとした罪でな」


スタイレーンの意識のすべてが、シェイネに向かって解き放たれた。


イザボー!!

本編公開後翌日あたりに、活動報告にて説明をおこなっております。

説明になっているかどうかは疑問ですが···。合わせてお楽しみ下さい。

次回12月26日公開予定です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ