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別人  作者: 乾 優弥


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第9話 蜃気楼

羽山は中華料理店の中でかかってきた電話に出て、内容を聞いてからお会計を済ませ、車内に戻って缶コーヒーを飲みながら話を始める。


「科捜研から連絡があって、ゲソ痕(足跡)は

3名(皐月、修一、義母)で一致したらしい。

他のゲソ痕もあったが下駄箱に入っていた靴と一致した。恐らく、別日に黒田皐月が履いた靴の痕だろうってさ」


「ということは、やはり黒田皐月が黒田修一を絞殺したって可能性が濃厚ですね。現場を荒らされた様子も無かったですし」


「まぁ、限りなくクロに近づいたってことだな。

じゃあそろそろ聞き込みに行くか」


アクセルペダルを踏んで車が走り出す。

まずは“ビストロ フルール”に向かい車を降りた。


古民家をお洒落な外観に改装したお店を細目で見ながら


「へぇ〜オシャレだね。小金持ちのレディーは

こんな良い店に気軽に行けるんだもんな。

いや〜すごいすごい」


と独り言を呟きながらドアを開けた。


「いらっしゃいませ!ご予約のお客様でしょうか?」


中年の女性が笑顔で声をかける。


「いや〜ご予約して美味しいフレンチをいただきたい所ですが、こういう者です」

警察手帳を見せる。


接客業特有のスマイルが消え、顔に緊張が走る。


「昨夜の十八時半頃に二名の女性がご予約されていたと思うんですが、覚えていらっしゃいますでしょうか?」


「んっ?二名ですか??たしか……少々お待ち下さい」


なにかを探すように厨房の中に入って行き、

ノートを手に持って戻ってきた。


「ご予約いただいた場合はこちらに記入しているのですが、十八時半にご予約された方は、この方のみですね」


手書きで書かれたノートには白峰晴香の名前があった。


「ここに書かれている白峰晴香さん"だけ"がお店に来たということですか?」


ここに来て、全く逆の証言が浮上して羽山達も困惑する。


「夫婦で営んでおりますので、接客は基本的に私が一人でしています。ですので私が接客したのですが昨日来られた方はお一人でしたよ?」


「店内や入り口に監視カメラとかはありませんか?それがあれば一目瞭然なんですが……」


店の中での異変に気付いて厨房から男性が現れた。主人の気配を感じた女性は振り返って主人の顔を見てから刑事達に紹介する。


「主人です。昨日、主人もその女性にお会いして少しお話もしていたので知っています。

昨日の夕方にご予約されたお客様はお一人だったよね?」


「ウチに監視カメラはありませんよ。

それに、昨日来られた女性はお一人でした。

タクシーに乗って帰って行かれましたが、なにかあったんですか?」


「今、それを調べていますので、詳しいことはまだお伝え出来ないんですよ」


山田が申し訳なさそうな表情で伝える。


「これからお客様がいらっしゃいますので、御用が済んだならお引取りいただけませんか?」


主人の鋭い言葉に空気が少し張り詰めた。


「これは失礼。お仕事の邪魔になってますもんね。今日はこれにて失礼いたします。ご協力いただきありがとうございました」


羽山達は車に戻って、この奇妙な現象をどう受け止めようか考えていた。


「あのお店の夫婦か、白峰&黒田のどっちかが嘘を吐いてるって事になるなぁ」


「やっぱり白峰と黒田が嘘を吐いてるって考えてるのがセオリーですよね。

黒田を庇う為に白峰が口裏を合わせているとか。

あのご夫婦が嘘を吐くメリットも無いですし」


山田の推理を話半分に聞いていた羽山はタクシーの運転手もあたってみる必要があると考えていた。


「次はバーに行こう。なにかわかるかもしれない」


日も落ちて辺りが暗くなってきたのでベッドライトをつけて車を走らせる。


“エミール”に到着して、店内に入って行く。


「いらっしゃいませ」笑顔で声をかけるバーテンダーに会釈をする二人。


「とても素敵なお店ですね」羽山はお店を褒める。

その流れで警察手帳を見せて、飲みに来たわけではないと仕草で伝える。


「昨日の夜に二人組の女性って来てませんか?」

早速、聞き込みを始める羽山に対して、


「いたような、いなかったような、すみません一々覚えていないです」と言動がはっきりとしないバーテンダー。


「確かに、お客さんを全て覚えてるわけがないですからね。でも今回だけは思い出してみて下さい」


「じゃあ、昨夜この彼女がお店に来ませんでしたか?」


羽山が皐月の顔写真を見せた。留置所で撮影された写真だ。


「いや……来ていないと思いますけど」


目を凝らして写真を見るがバーテンダーはピンときていない様子だ。


「じゃあ」と言いかけて、白峰晴香の顔がわかるような物を持ち歩いていないことに気付いて、

次の言葉をまごつく。


「……綺麗なお姉さん見てない?身長が高くて黒髪でロングヘアーのお姉さん」


精一杯の特徴を伝えたが、バーテンダーはそれだけではなんとも。と真っ当な返答をしたのでそれ以上の深掘りは出来なかった。


「ご協力いただきありがとうございました」


そう言い残して店を出ようとドアを触ろうとするとドアが離れていく。

誰かが店のドアを開いて鉢合わせになった。


羽山達は入ってきた若い男性に道を譲って、

男性が捌けてから店を出ようとすると、

「今日もよろしくお願いします」とバーテンダーに挨拶をしている男性の声が羽山の耳に入る。


羽山は店を出ることを止めて、若い男性に声をかける。


「突然ごめんなさいね。さっき"今日も"よろしくお願いします。って言いましたよね?

昨日の夜はここにいましたか?」


突然、話しかけられて詮索されたことに不快感を覚えた若い男性は「誰ですか?このおっさん」とバーテンダーに尋ねる。


「馬鹿、警察の方だよ。お前初対面の人にそんな口の聞き方してたらその内、痛い目見るぞ」


バーテンダーは咄嗟に羽山達に軽く頭を下げて、悪気は無いのだと言いたそうな苦笑をしていた。


「もし、顔写真とかを見たら昨日、その人がここに居たとかは分かりそうかい?」


「美人なら覚えてるかも」若い男性は適当に返事をした。

「良かったぁ、その人は美人なんだよ」羽山は若い男性の肩に手を置いて叩く。


若い男性に黒田皐月の顔写真を見せたが、よく覚えていないと言っており、白峰晴香の照合は後日に持ち越しとなった。


店を出る時に監視カメラが有無を確認したが、どうやら監視カメラはなさそうだ。

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