第8話 味のある中華料理屋
晴香が住むマンションから出てきた羽山と山田は捜査の次の一手を考えていた。
「飲食店とバーにも聞き込みに行かないとなぁ」
羽山がマンションを見上げながら言うと、山田がスマートフォンを触っている。
「調べたら、お店の開店時間は両方とも夕方ですね。今から行っても開いてないです」
「ネットで調べてくれたんだ、ありがと。
じゃあ黒田皐月が住んでるマンションの監視カメラを見に行くか。管理人と連絡とってくれる?
俺は一服してから、ここに車回してくるから待ってて」
「分かりました」と山田は言いながらも、また煙草かよ……と顔に書いてある。
羽山は車を停めたコインパーキングに歩いて行き、煙草を味わいながら吸う。煙草を吸いながら自分なりに事件を頭の中で整理していた。
精算機に近づいてお金を入れようと財布を開いた。小銭は少ししかなく、札は一万円しかない。だが、精算機は千円しか投入出来ない。
「参ったな。こりゃあ」おもむろに無精髭を触る。
山田は言われた通り、待っていると羽山が何故か徒歩で戻ってくるのが見えた。
「ごめ〜ん、千円札ある〜?」と大声で話しかける羽山。山田がいるところまで戻るのが面倒臭くて聞こえるように大声で話しかける。
山田は小走りに羽山の元へ向かい、事情を聞いて一緒にコインパーキングに戻る。
精算機の前で山田は無言で自分のスマートフォンを端末にかざす。
「今は現金だけじゃなくてタッチ決済も出来るんですよ」そう山田の顔に書いてある。
「へぇ〜今は現金じゃなくてもいけるんだ。確かによく見たら書いてあるね。現金しか駄目って思い込んでたから、思い込みって良くないね」
羽山はにっこりとした笑顔を向ける。
「現金でしか払えないならともかく、電子決済が出来るのに、あえて現金で払う人なんて今時いるんですかね」
「ここにいるよ」
羽山は親指を立てて自分の方に向ける。
「ロック板が上がっちゃうので早く行きましょう」と山田に流され、車に乗り込み、黒田修一が亡くなったタワーマンションに向かって車を走らせた。
タワーマンションに着くと、管理人が入り口でバツが悪そうに動き回り、落ち着かない様子を見せていた。
管理人と合流して監視カメラを確認出来る部屋に案内してもらって管理室に入る。
「日付は昨日で、四十皆のエレベーター前の映像は出せますか?」
管理人は出せます。と言って該当する映像を画面に出してくれた。
黒田皐月は十七時四十五分にエレベーターに乗っている姿が監視カメラに記録されている。
記録の時間を進めてみると、二十二時を回ろうとしている時間帯に黒田修一の義母がエレベーターから出てくる様子が映されていた。
それから記録を早送りすると、義母に呼ばれた黒田皐月がエレベーターから出てくる。
「第一発見者の黒田修一の義母は死亡推定時刻から考えて、犯人ではありませんね」
何度も映像を見返しながら山田がぼそっと言った。
「そうだな……部屋で息子さんの遺体を見つけてすぐに通報したんだろう。
ウチに連絡が入った時間とぴったしだからな。
お義母さんは息子さんから一緒にご飯を食べようって連絡を貰って、マンションに来たんだよな?」
「そうです。義母の話によると、黒田修一から
"今は家に妻はいないから一緒にご飯を食べよう"と電話があったそうです。
黒田修一の携帯は回収していますので、通話履歴を見れば義母のアリバイは成立します」
「お義母さんからも、お友達の白峰晴香からも、黒田皐月と黒田修一の仲はあまり良くなかったって聞いてるからな。やっぱり怨恨絡みなんかね」
ここで考えても答えは出ないと思案しながら羽山は無精髭をいじっていた。
「必要な部分だけ映像をコピーさせていただいても宜しいでしょうか?」
山田は管理人に承諾を貰って監視カメラの映像をUSBメモリーに移していた。
二人は管理室を出て、管理人に頭を下げてからタワーマンションを後にした。
「これからどうします?店の開店時間までまだ時間ありますよ」と山田が問いかける。
「何時からお店が開くんだっけ?」
「両方とも十七時からです。今は十五時なので、ちょっと時間が空いてますね」
「じゃあご飯でも行くか。何が食べたい?」
山田はふてくされたように羽山の顔を見て言う。
「羽山さんが行くお店っていつも同じじゃないですか」
「だから今回は何が食べたい?って聞いてるんじゃねぇかよ」
「いや、いつもの店で良いです」
何処か諦めたように答えた山田は停めている車の方に歩いていった。
「なんで奢る方が気を使ってんだか」
自分自身にツッコミを入れながら山田の後を追う。
* * *
羽山が車で向かった場所は中華料理店だった。
外観は見るからに傷んだ戸建てで、外装の一部は朽ちており、
出入口にある看板とのれんは本来、鮮やかな赤色だったはずだが、今は淡いピンク色に色褪せている。
出入口の扉は昔ながらのスライド式のドアだが、経年劣化でレール部分が変形しているので滑りが悪くとても開けにくい。
山田がドアを開けるのに手間取っていると、後ろにいた羽山がまるで私物を扱うかのように勢いよくドアを開ける。
「相変わらず開けにくいドアだな、まるで客を避けてるみたいだ。だからいつも客が来ないんだよ」
そう言いながら店内に入ると、羽山と店主の目が合う。
「……ってコイツが言ってました」と、山田を指差す。
山田が自分ではないと訂正する前に、
「全部丸聞こえだよ馬鹿」と店主が新聞を読みながら鬱陶しそうに声を上げる。
「相変わらずの地獄耳ですね〜」と、羽山が嫌味を言うと
「お前の声が馬鹿みたいにデカいから、嫌でも聞こえるんだよ」と店主も嫌味で返す。
「まぁ、とりあえずいつもの」と言いながら羽山はカウンターの適当な席に座る。
「お前さぁ、毎回同じもん食べて飽きないの?」
と憎まれ口を叩きながら店主は調理に取りかかる。
「ほら、早く頼まないと俺のだけ早く来ちまうぞ」
羽山は座るタイミングを伺っている山田を見る。山田は少し萎縮しながらも焼飯定食を頼んで羽山の横に座った。
すぐに出来上がった焼飯定食と焼きそば定食がカウンターの上に置かれる。
熱いうちに口に頬張る。パラパラになったお米と卵の甘みに、塩と醤油の塩味がバランス良く纏まっていてとても美味しい。セットの餃子と唐揚げも中華料理のお手本のような美味しさである。
焼きそばは中華醤油を基に味付けがされており、鉄板焼屋で食べるソース味の焼きそばとはまた違った美味しさがある。
黙々と食べ続けて、あっという間に完食した。
「今日も滅茶苦茶美味しかったです!」
山田が店主に伝えると照れ臭さそうに笑い、それを見て羽山も黄ばんだ歯を覗かせる。
お会計を済ませる前に、羽山のスマートフォンから着信音が鳴って表示された名前を目にする。
「どうやら、鑑定結果が出たみたい」




