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別人  作者: 乾 優弥


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第49話 犯人の過去⑥

佐々木の自宅に向かうと、窓から明かりが漏れていて誰かがいるような気配がした。

電気のつけっぱしかもしれないが、大樹は彼女らしき女性が居たと言っていたので彼女が部屋にいる可能性もある。


少し距離をとって様子を見ていると、佐々木の部屋のドアが開いて中から女性が出てきた。

明かりを消して戸締まりをしてから何処かに向かって歩きだした。

もしかしたらまた戻ってくるかもしれないので、作製した合鍵がちゃんと使えるものなのかだけでも確認しようと足早にドアに向かって合鍵を差し込む。


捻ると滑らかに解錠が出来たので合鍵が使えることは分かったが、そこで引き返せばよかったのにドアノブを捻って部屋の中に入ってしまった。


部屋はゴミ屋敷とまでは言わないが、物がそこそこ散乱していて嫌悪感を抱いた。

キッチンに近づくと三角コーナーには生ゴミが捨てられたままになっていて、ほのかな腐敗臭が鼻につきながら辺りを見回していたが何故部屋に入ってしまったのか自分でも分からなかった。


荒々しく階段を上がる足跡が聞こえてきたことで我に帰ったが、その足跡が明らかに近づいてきて途切れ途切れに声が聞こえる。

まさかとは思ったが足跡はこの部屋に向かってきていて、足跡が聞こえなくなったかと思うと鍵を差し込む音が聞こえて施錠された。


「あれ?」


解錠したはずなのに施錠されてドアが開けられず声を上げる佐々木。

もう一度、鍵を捻ってドアを開けた。


「鍵かけずに部屋出たの?……そうなんだ。じゃあ、気のせいか」


彼女と通話しながら靴を脱いで部屋に入る佐々木。

晴香は咄嗟にクローゼットの中に入って身を隠した。

まさか佐々木が帰ってくるとは想定していなかったし、最悪のタイミングで部屋に入ってしまった自分を呪った。


「うわ、チキンの話するから俺もチキン食べたくなったじゃん。今からコンビニに買いに行こうかな」


佐々木は部屋の中で通話を続けていて、話している感じからして相手は恐らく彼女だろう。

帰ってきて落ち着くこともなくまた靴を履いて出掛けていった。コンビニに行くと言っていたのですぐに戻ってくるはず。


ゆっくりと様子を見ながらクローゼットから出て、コンロの前に向かった。

すぐに戻ってくるなら丁度良い……佐々木を殺してしまおうという考えが思い浮かんだ。


佐々木からもっと情報を引き出したかったが、それは難しいことが会って話してよくわかった。

部屋にも有力な手がかりはない。

だったら、皐月のアリバイを証明できそうな人間は少ない方が良い。

消すなら今だ、もう既に人は殺している。何人やっても同じだ。

そう思い立つと、キッチン棚を開けてフライパンを取り出した。


フッ素加工されたフライパンを空焚きして焦がし、部屋中にフッ化水素を充満させて死に至らしめようという考えがスッと出てきてすぐに取り掛かった。

五徳の上にフライパンを乗せて点火する。

青色の火を見ながら指紋がつかないように手袋をはめてきて良かったと心から思えた。


なにか跡が残るようなことはしていないか、部屋に入ったとバレるような重要なミスをしていないかを入念に確認してから部屋を出て鍵を閉め、少し距離を取った場所で様子を見ていると、

片手でレジ袋を持ち、もう片方の手にはコンビニで買ったチキンを持って食べながら佐々木が戻ってきた。

部屋に入ってから明かりもつけずに静寂が続いたので、しばらく眺めていたがそれからも佐々木が部屋から出てくることはなかった。


手筈通り、フッ化水素を吸って死んでしまったのだろうと判断して足は自宅の方に向いて歩き始める。

本当は死んだのかこの目で確認したかったが、

自分もフッ化水素を吸ってしまうのは避けたくて渋々諦めた。


それから真夜中に自宅に戻ったがぐっすりと眠ることは出来ずにうとうとして、ほんの一瞬だけ気絶したように眠ったが大樹からの着信で目が覚めると既に朝を迎えていた。


大樹から佐々木が死んだことを聞いた時は、"やったぁ…上手くいった"と、素直に喜んだ。

不謹慎なのは分かっているし、まだ殺さなければならない人は残っている。まだ気は抜けない。


あとは、“ビストロ フルール”の夫婦と"お節介な奴"を消せば、皐月を確実に檻の中に入れられる。そうしないと安心して自分の今後のことなんて考えられない。

小鳥のさえずりで我に帰ってスマートフォンで時刻を見る。

今から急いで支度しないと間に合わないぐらい時間が押していたので、大慌てで支度を済ませて職場に向かった。


* * *


色んな気持ちを抱えながらなんとか仕事を終えて、自宅へと向かっていた。

帰宅途中に通る公園の街灯は相変わらず薄暗いが、いつものことなのでそこまで気にすることはなかった。


突然、背後から何者かに片手で口を押さえられて、公園の砂場に倒れ込む。


「これ以上余計なことをするな。なにも詮索せずに生きていけ」


それは男性の声だった。小声で耳元に囁いてすぐに男性は私から離れてその場から逃げた。


なにが起こったのか理解できず、頭が混乱していた。ひとまずは、押さえつけられただけで、なにもされなくて良かったという気持ちが込み上がってくる。

そして、今の男性が探している"お節介な奴"なのかもしれないとすぐに結びついたが、その時にはもう暗闇の中に見失っていた。


もし、目の前にいたとしても怖くてとても捕まえられないと思うが。

せめて顔だけでも見ていたら……悔やみながら逃げるように自宅に向かって歩き始めた。


自宅に戻ってからすぐに大樹にこの事を伝えた。

なにかあったらすぐに話したい相手なんて今まで居なかった。

そんな私でも大樹の顔が浮かんだ自分自身に少し驚く。


受話器越しに大樹の声を聞いて気持ちが落ち着いていく……

大樹は会話の中で、“ビストロ フルール”の奥さんが事件のことを話してくれそうだと言っていた。こんなにタイミングの良いことはない。


日にちまで聞けなかったが、明日にでも動いた方が良い。警察よりも先に情報を聞き出して、始末する必要がある。

静かな暗闇の部屋の中で静かに目標を定めた。

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