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別人  作者: 乾 優弥


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45/51

第45話 犯人の過去②

職場では今まで通りの距離感で修一さんと話していた。急によそよそしくすると外野に変に勘ぐられてしまうかもしれないから。

職場から皐月がいなくなったことで少しだけ気がラクになっていた。


皐月とは変わらず二人で会っていて、修一さんの愚痴をたまに聞かされていた。

話を聞く限りでは、夫婦生活は上手くいっていないみたいで少しテンションが上がる。

二人の結婚を心の底から喜べていない私にとっては朗報だったからだ。


ある日、修一さんから会議室に来るようにと言われて会議室に入ると彼以外は誰もおらず二人きりの状況になった。


「やっぱり俺は晴香を諦めきれない……」


修一さんの左薬指についている指輪を視認する。


「指輪をしている人の台詞じゃないと思うけど」


言い終わる頃にはぎゅっと抱きしめられていた。

抱きしめられ慣れた彼の腕の中は安心感があった……なんで私ではなくてあんな女を選んだのだろう。でも、こうして戻ってきてくれて最後に私を選んでくれるのであればそれで構わない。


その日から修一さんと会うことを再会したが、今はマンションには皐月がいて中々会う時間を捻出するのも難しい。そこで修一さんから提案があった。


「今、住んでるマンションの真下の部屋が空いてるんだよ。基本的には分譲なんだけど、どうやら賃貸も出来るみたいなんだ。

もし、下の階に晴香が居てくれるなら会いやすくなるだろ?家賃の半分は俺も出すからさ」


三十九階の一室が空いていて、そこを会う為だけの部屋として利用できないかという提案だった。


「いや……同じマンションでしかも真下の部屋なんてばったり皐月と会う可能性高いと思うけど」


「あいつはあまり外に出ないし大丈夫だよ。とりあえず、契約はこっちでやっておくから」


軽く肩を叩かれてそこで話は終わってしまった。

まだ承諾はしていないのに。


その話をしてからまもなく、"部屋を借りたから見に来てくれ"と部屋の鍵を渡されてその部屋で落ち合うことになり、仕事が終わってからタワーマンションに向かって三十九階の一室に足を踏み入れる。


家具などはほぼなにも置かれておらず、真っさらな状態がそこにはあったが、寝室には既にベッドが置かれている。

不貞の愛を育む為の部屋が出来上がっていたのだ。


それ以降は頻繁にその部屋で修一さんと会うことになっていった。

自宅の真下ということもあって仕事を理由に自宅を出た彼とすぐに会えるようになったから。


肝心の皐月の様子は彼から聞く限りでは気付いている素振りはないと言っていたし、

私も皐月と会った際にはそれとなく探りを入れていたが自分の事ばかりで、修一さんの事をちゃんと見ていないように思えて、

これでは不倫にも気付かないだろうなと高を括っているとひやりとする事が起きた。


ベッドに横たわりながら修一さんから鞄にGPSが入れられていたと聞かされたのだ。

挙げ句の果てには皐月に跡をつけられていたと、さらっと言ってのけた。


「それで、どうなったの!?」


「その時は本当に一階のコワーキングスペースに行くつもりだったから、皐月にはよくコワーキングスペースを利用してるって言ったよ。

GPSもマンション内ならどの階にいるのかまでは分からないから大丈夫。心配要らない」


「いや、GPSを仕込まれてる時点で皐月は怪しんでるよ。……もう辞めようよ。やっぱり結婚してるのに」


言い終わる前に彼の唇で口元を遮られた。


「その事なんだけどさ、皐月とは"離婚"するよ。やっぱりずっと一緒に過ごしてきた晴香が良い。俺は選択を間違えた。

間違いは正さないといけない。だから離婚してから二人でやり直そう。お母さんのことはどうにかするから」


「……うん」


言って欲しかった言葉がようやく聞けて静かに頷いて布団の中で乳繰り合った。


長いトンネルから光が差してようやく出口が見えたような感覚だった。

彼が皐月と結婚した時は深い暗闇の中にいて息をすることすら苦しいぐらいに。


結婚した後もこうして私を求めるのは時間の問題だとどこか頭の片隅で考えていた。

皐月なんかでは修一さんを満たすことができないと漠然と分かっていたから。


でも離婚をするつもりまで考えているとは思わなかった。

精々、愛人程度の立ち位置に収まるものだと。


後は捉えた微かな光を目指して歩いていく。

それでようやく幸せになれる。


そう思っていたのに……


幾夜を越えても、修一さんは皐月と離婚することはなかった。

それはまだ許せた。そう、許せた。許せなかったのは……


皐月が最近可愛くなったとか、妻である皐月への欲情の気持ちがぶり返したことだ。

夫婦関係が冷めきっているのならなんの問題もない。

ただ、皐月を想いながら私と関係を持つことだけは本当に許せなかった。


だから、あの日に決断した。

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