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別人  作者: 乾 優弥


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第42話 犯人の工作③

タクシーの運転手としての仕事を終えてクタクタになりながらオンボロアパートに帰ってきた。


疲れ切った身体が畳の上になだれ込んで寝そべって傷んだ天井を見ながら思案する。


あの子……白峰晴香のアリバイを確実なものにするには決定打が足りない。

でもその決定打が中々思いつかないが猶予は残されていないので後回しにすることは出来ない。


首を傾けると、いつも使っているデジタルの目覚まし時計の液晶が消えていることに気が付いた。

手に取って中の電池を取り出しても映らない……電池がなくなったのか。

身体を起こして新しい電池を取り出して嵌めると液晶は映ったが、年月日を設定し直さなければならなかった。


日付や時刻を自在に変更できることに気が付いて閃いた。

今、乗っているタクシーは長年愛用している旧車だ。だから車内のドライブレコーダーは旧型の外付けタイプを付けている。


もしかしたら、ドライブレコーダーの日付を今日にして、あの子を乗せて全く同じルートを辿ればアリバイとして成立する映像が出来上がるのではないか。


あの子が都合よく乗って全く同じルートを辿る可能性は低いが、全く無いわけではないはず。

何故なら、今日の出来事で必ずあの子がもう一度お店に足を運ぶことは確信していたからだ。


上手くいけば黒田皐月が夫殺しの罪を問われ、店員の証言はあの子一人で行動していたと口を揃える。虚偽の証言に疑問を抱くあの子は直接お店に出向いて店員と話すことになるはず。

後は俺がなんとしてもあの子を拾って送迎しなければいけないってことだ。


目覚まし時計の初期設定を終えると、既に深夜の時間帯であることを認識して寝る支度を始め、カップラーメンを食べてからシャワーを浴びて布団に入ると沈むように深く眠った。


午前十時頃に目が覚めて、目覚まし時計の上部のボタンを叩くように押す。

布団から出て三つ折りにしたあとお湯を沸かし、パックご飯をレンジでチンしている間に顔を洗う。それからインスタントの味噌汁のカップにお湯を入れて、いつもの朝ごはんが出来上がる。

飲み込むようにかきこんで朝ごはんを済ませ、着替えてから駐車場に向かった。


タクシーの車内に取り付けられているドライブレコーダーを“昨日の日付”にできるか試してみると、読み通りに変更することができた。

それからSDカードを新しい物に交換した。

あとは白峰晴香を車内に乗せられるかが問題だ。

時刻に目をやると就業時間まであとわずかだったので急いで車に火を入れる。


最悪の場合、今日にあの子がタクシーを手配しなくても明日にもチャンスある。そう都合の良い方に考えていると、十九時すぎに進展があった。

あの子が配車予約を出したのだ。

自宅の近くをウロウロしていた甲斐があり、すぐに向かうことができた。


タクシーに乗り込んできたあの子の第一声は"今すぐ“ビストロフルール”に向かって下さい"だった。あからさまに焦燥している。


自分が殺したのに何故か親友が殺したことになっているんだ、無理もない。

そして今から昨日行った店に聞き込みに行くのだろう。全てが予想通りに事が運んで怖いくらいだ。


”ビストロフルール”の店の近くで降ろしたが、昨日と同じ場所に路上駐車してあの子が一人で店に入っていくのをばっちりとドライブレコーダーに収めた。

さすがに昨日と服装が違うがそこまで合わせるのは不可能だ。


あの子は"すぐに戻ってくるのでここで待っていてください"と言い残したのでその通りに待っていたが、気持ちは全く落ち着かない。

本当にあの夫婦は口裏を合わせてくれているのか……


割とすぐにあの子が帰ってきたが、釈然としない顔つきをしていてあの夫婦は約束通りに噤んでくれたことを悟った。


次は“エミール”に行くように言われて車を走らせる。

“エミール”の店の近くに停めてタクシーから降ろして、ここでも一人で店に入る姿を収めることができた。


今度は待てと言われていないが、しばらくその場に待機して様子を見ていた。

やきもきしながら待っているとあの子が往来に出てきたが肩を落とし、物思いに耽ってふらふらと歩いていった。

その様を見てバーテンダー達も同様に噤んでくれたようだと理解してホッとしてペットボトルのお茶を飲み干す。


ドライブレコーダーは昨日の日付けで夜にあの子が二店舗に一人で入る姿を収めた。

二店舗のスタッフに黒田皐月の目撃者はいない。


やれることは全てやった。あとはあの子の行く末を見届けるだけだ。あの子には幸せになってもらいたい。

気持ち悪く歪んだ願いであることは自覚している。


その翌日に警察官が捜査として職場にやって来たので、ドライブレコーダーの映像記録が役に立つかもしれないと手を加えた映像を提供した。

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