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別人  作者: 乾 優弥


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35/51

第35話 逮捕

それからの数日は波風が立たない日が続いた。

まるで嵐の前の静けさのように……


ある日、羽山刑事から電話がかかってきた。


「白峰さん。いきなり電話をかけてしまって、すみませんね。

黒田修一さんを殺した真犯人を捕まえたいので、少し手伝ってくれませんか?」


"真犯人"その単語が頭に引っかかって、話している内容をはっきりと聞き取ることが出来なかった。


「えっと……どういうことですか?真犯人が見つかったってことですか??」


「見つかりましたよ。とりあえず私の言う通りにして下さい。追々説明しますから……」


そう言われて、次の日に指定された場所に向かうと、そこには大樹の姿があった。


大樹が皐月と繋がっていると分かった日から大樹とは連絡を断っていた。

彼の口から想像している真実が語られることが怖くて連絡を取れずにいた。


彼から私を心配する連絡は頻繁に送られてきたが返事することを先延ばしにして今日を迎えている。だからこそ、今は彼に会いづらいし会いたくない。


「あっ、晴香……」


近くで足踏みをしている私に気が付いて大樹が小走りに駆け寄ってくる。


「連絡してたんだけど、全然返信がないからさ。なにか言えないことでもあったのか?そんな感じだからマンションにも行きにくくてさ」


「うん。まぁちょっと色々あって……」


鎌をかけているのか、私が皐月との関係について検討がついたのだと気が付いていないのか。


「ここで待ち合わせって羽山さんに聞いたけど、まさか大樹も一緒なんだ」


大樹の質問には上手い返し方が思いつかないので話題を切り替えることにした。


「俺も晴香が来るとは聞かされてなかったよ。俺もここで待ち合わせとしか羽山さんに聞いてないんだ」


すると、二人の前にタクシーが停まって、後部座席のドアが自動で開く。


「お待たせしました。どうぞ、乗ってください」


タクシーの後部座席には山田刑事が乗っていて二人に乗車するように声をかける。

タクシーの後部座席に大人三人が座るのでいささか窮屈だったが、言われるままに晴香と大樹は乗車した。


タクシーは山田が伝えた行き先に向かって動き出して程なく運転手の宮田が口を開く。


「今から、事件のアリバイを証明する人と待ち合わせしてるんでしたっけ?こんなドラマみたいな展開に立ち会えるなんてなんか緊張するなぁ」


「宮田さんが会うわけじゃないんだから緊張しなくても良いですよ」


山田が前の運転席に向かって言う。


「黒田修一さんが殺害されたあの夜のバーに居た人の中で、まだ話が聞けていない若い男女のペアと中年の女性がいましたよね?

先日、中年の女性の方が見つかったんです!その女性と待ち合わせをしてるので向かってるところです」


山田は二人の顔を見ながらこのタクシーがどこに向かっているのか簡潔に説明してくれた。


「あの、どうしてその事を山田さんがご存知なんですか?」晴香は咄嗟に質問をした。


「それは、三島さんから羽山さんに、羽山さんから僕に情報が流れてきた感じです。なにかいけませんでしたか?」


どうしてそんなことを訊かれたのか分からないと山田は不思議そうな顔をする。


晴香はそうですか。としか言えず、それからは口を閉じた。

とはいえ、探していた人の手掛かりがようやく掴めたと聞かされて心が引き締まる。


宮田に伝えた目的地に到着してタクシーが停まった。

そこは“ビストロフルール”のすぐ近くで、数日前の火事によって焼け落ちたお店が痛々しく残っている。


「この辺りで停めて下さい。ありがとうございました」


山田はタクシー代を精算しようと宮田に話しける。


「しかし、酷いなこりゃあ。お店がまる焦げだ。それでも店主はどうにか助かったんですよね?奥さんはダメだったとはいえ、拾った命は儲けもんだ。

おっと、いけない。無駄口でしたね……代金はちょうど頂きます。これ領収書です」


晴香と大樹はタクシーから降りて、後は山田が降りるだけだったが、最後に山田は宮田に一声かけた。


「お相手はまだ来ていないみたいですし、この事が終わったらまた送ってもらいたいので、ここで車を停めて待ってていただけませんか?……

自販機でよければなにか奢りますよ。どれが良いですか?」


山田はぎこちない笑みで宮田に言うと、宮田は滑らかな笑みで快く承諾した。


二人がタクシーから降りると待ちくたびれていた羽山が登場して、不適な笑みを浮かべ宮田に向かって歩いてくる。


「どうも〜お久しぶりです。時間がもったいないので手短に行きましょうか。はい、これ」


羽山はポケットから密封袋を取り出し、中にはSDカードが入っている。


宮田はあっ!と声を上げながら目を見開いたと思いきや、なんで……と俯きながら呟いた。


「なんでお前がこれを持ってるんだって訊きたいんでしょうけど、詳しいことは署で話し合いましょうよ」


宮田の肩を羽山が叩くと、観念したように肩を落とす。警察署までの連行は山田に任せることでその場を収めた。


宮田は山田に手錠をはめられ、あらかじめ用意されていたパトカーに誘導されながらとぼとぼと歩く。刹那に宮田の目は晴香を捉え、晴香も目が合ったことを認めた。


「一体どういうことですか?」


晴香と大樹が全く同じ質問を同じタイミングで発してお互いに顔を見合わせる。


「ハモってるじゃん。まぁ、今わかっていることだけを言うと。宮田が提出したドライブレコーダーの映像がすり替えられた形跡があったんだ」


「えっ、すり替え?どうしてそんなことが分かったんですか??」大樹が食い気味に掘り下げる。


「すり替えが分かったからじゃなく、"ある線"であの事件を辿っていくと宮田から提出されたドライブレコーダーに綻びが出るんだよ。

つまり、事件当日の映像には白峰晴香さんと黒田皐月さんの二人が映っていないといけない。映っていて当たり前なんだよ。

このSDカードには本来の事件当日の映像が記録されていて、二人ともばっちり映っていた」


「……ってことは!?」晴香が羽山の次の言葉を催促する。


「そう、黒田皐月さんのアリバイはこれで証明出来ます」羽山がにっこりと笑って黄ばんだ歯があらわになる。


「さっきの人……宮田さん?でしたっけ??あの人があの日に乗ったタクシーの運転手だったなんて」


「あれ?気づかなかったんですか??」羽山が髭を触りながら晴香にツッコむ。


「タクシーにはよく乗りますけど、毎回タクシーの運転手の顔まで見てないので」


「でも、なんですり替える必要があったんですかね。理由がよく分からないです」

大樹が目を細めて言う。


「まぁ、それについては俺も憶測でしか物を言えないから宮田の口から直接訊くしかないな」


「あの……バーにいた中年の女性の方は見つかったっていうのはまさか」

晴香が二人の会話に割って入る。


「あぁ、おびき寄せる為の嘘です。だって情報が少なすぎて見つかるわけないじゃないですか」


羽山は冗談混じりの膨れっ面を見せながら、晴香の目を見つめて言った。


「えぇっ?嘘だったんですか。てっきり本当に見つかったって思いましたよ」


あからさまに落胆する晴香は大樹と目が合って何とも言えない気まずい雰囲気に陥る。


「なんか一番お邪魔なのは俺みたいなんで、後はごゆっくり」


羽山は気を遣ってその場を去ろうとしている。

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