第22話 仕切り越しの再会
スマートフォンの画面に映った応答のボタンを人差し指で押して耳元にあてる。
「あっ、もしもし。白峰さん聞こえますか?」
最初に声を発したのは大樹のほうだった。
「もしもし、聞こえますよ。すみません、こんな夜遅くに電話に付き合ってもらって」
「いえ、とんでもないです。それに謝るのはこっちですよ。結局、黒田さんが起訴されるまでなにも出来なかったんですから」
「……皐月、どうなってしまったんですか?」
「簡潔に言うと、黒田さんは起訴が決定しました。起訴されると裁判をして有罪か無罪かを決めるんですが、ほぼ有罪になります。
無罪にするには真犯人をすぐに捕まえるしかありません」
「"すぐに"とは大体どれくらいの時間が残されているんですか?」
「初公判はおよそ二ヶ月後です。それまでに捕まえないと」
「二ヶ月で本当に真犯人を捕まえられるんですか?」
「捕まえられる。というより捕まえます。
それしか彼女を助ける方法はありませんから」
大樹の想いがこもった力強い言葉に、晴香はなんとも言えない気持ちになって、言葉に詰まってしまった。
「もしもし、大丈夫ですか?聞こえますか??」
「あっ、すみません。聞こえてます。私も手伝いたいので出来ることがあれば教えてください」
「ありがとうございます。お気持ちだけでも嬉しいです」
「話が変わりますが、以前に皐月と面会が出来ると仰っていましたよね。
近々、面会の手続きを一緒にしていただけませんか?皐月に会って話がしたいんです」
「分かりました、一緒について行きますので日付を決めましょう。
面会は平日の限られた時間だけなので、土日祝は面会が出来ません。白峰さんのお仕事は土日がお休みじゃないんですか?」
「基本的には土日が休みなんですが、この前に休日出勤をしたので、代休として明日が休みなんです。もし三島さんの予定が空いていれば、明日に面会の手続きをしていただきたいです」
「明日ですか……分かりました。明日の午後十二時に***拘置所で待ち合わせましょう」
「無理を利いていただきありがとうございます。本当に助かります」
「いえいえ、それからもう一つ」
「はい、なんですか?」
「そんな堅苦しく話さなくてもいいですよ。俺ももう少しカジュアルに話しますので、白峰さんもカジュアルでお願いします」
「じゃあ……お言葉に甘えてこれからそうします。また明日、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい!」
耳からスマートフォンを離して、電話を切った。
三島さんは時折、警察官ではなく友達のような距離感で調子が狂ってしまう。
その狂いが不快かと言われたらそうとは言い切れない。
今まで接してきた男性の中では初めてのタイプなので少し動揺している。
身構えるつもりは無かったが、身体の力が抜けて、近くにあったベッドに寝転がった。
このまま瞼を閉じればぐっすりと眠れそうだったが、まだシャワーを浴びていないので重たい身体を叩き起こして浴室に向かう。
翌朝、目が覚めてスマートフォンの画面をぼんやりと眺める。徐々に焦点が合ってきて現在の時刻が頭の中に入ってきた。午後十一時を過ぎた頃であった。
スマートフォンで十時にアラームをかけていたのに、無意識に消してしまい二度寝をしてしまったということになる。
慌てて飛び起きて、最低限のメイクで済まそうとしたが、今日は念願の皐月と会う日だ。ばっちりメイクして会いに行くようなシチュエーションではないが、かといって手を抜くのもなにか違う気がして、結局メイクは怠らずにした。
しっかり時間を取ってメイクをしたので、待ち合わせには三十分ほど遅れてしまった。
***拘置所に着くと、三島さんは落ち着きがなく辺りをあちこちと見回していた。その様を見て申し訳ないと感じる。
「すみません、遅れてしまいました」
三島さんに駆け寄って頭を下げた。
三島さんはどこかで迷ったのか!トラブルに合ったのか?大丈夫でしたか?等とにかく心配だったと正直に伝えてくれた。
心配してくれたことを嬉しく感じたが、その余韻に浸る暇もなく、拘置所の受付へと案内された。
昨日の電話で言っていた通り、手続きは彼が既に済ませてくれていた。
本来なら面会は順番待ちになるみたいだが、待つことはなく職員に誘導されてロッカーにスマートフォン等を預けてから流れるように面会室に入室した。
目の前には透明の仕切り板があり、下部には丸い穴が空いている。皐月はまだ来ておらず、椅子に座って下さいと職員に指示されて部屋の置かれた一脚だけの椅子に座った。
面会室には異質な空間で漂っていて、否が応でも緊張せざるを得なかった。
腋から一滴の汗が横腹を伝って落ちる。
仕切り板の奥の扉がゆっくりと開く。
灰色のスウェットに身を包んだ皐月が俯きながら現れて、椅子に座ったことでようやく視線が合う。
皐月は物憂げな笑みを見せるが、それを見て私はどういう表情をすれば良いのかよくわからなかった。
「今日は来てくれてありがと。ついこの前まで飲みに行ったのに、なんかずっと会ってないようで変な感じ」
「そうだね。飲みに行ってから色んなことがあり過ぎたから……体調はどう?」
皐月の顔を見ながら話すと様々な気持ちが一気に押し寄せては喉につっかえて、言葉が上手くまとまらない。
「思ってたより、快適かな。ご飯もそこそこ美味しいし」
「それは良かったって言ったら可笑しいけど、
不便じゃなさそうで良かった。
差し入れも持ってこれるみたいだし。今度、皐月が好きな物持ってくるね」
「うん、ありがとう。出来たら食べ物よりも下着とか服の差し入れが嬉しいかな」
「分かった。それでね……皐月」
「うん、聞いたよ。私、起訴されてほぼ有罪確定なんでしょ」
「警察に皐月じゃないですって話しても、状況証拠が揃ってるの一点張りで……気持ち悪いよね。
変な話なんだけど、あの日一緒に飲みに行ったバーのマスターと手品を披露してた人が皐月はいなかったって言い張るの。
あと、フレンチを食べたお店の人達も見てないって。
この人達が証言してくれたら有力なアリバイになったのに。刑事さんと一緒に今も調べてるけど、どうなってるのかさっぱりで」
皐月が前のめりになって仕切り板に顔を近づける。
「刑事さんと一緒に?どんな人なの??」




