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別人  作者: 乾 優弥


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第21話 タイムリミット

ファミレスでお会計を済ませた後、扉を先に押し開けて白峰晴香をエスコートすると、軽く会釈をしてから自分の前を横切ってファミレスを出る。


すっかり夜の空になっていて、女性を一人でこのまま返すのは忍びないと思った。

車で家まで送りましょうか?と彼女に訊いたみたが、あっさりと断られてしまった。

一瞬で表情が変わったので警戒されているのだと察しがついたが、彼女は一言二言話をして既にその場を離れようとしている。


「それじゃあまた」と言い残して彼女とファミレスの前で別れて、去っていく背中を見送った。


ファミレスの駐車場に停めている車へと足を向けて車内に入る。

運転席に座りながら白峰晴香のことを考えていた。

一緒にご飯を食べて少し話しただけで判断するのは早計かもしれないが、感触は悪くなかったと思っている。

最初は会話に穴を空けないように心掛けて挑んでいたが、実際に会ってご飯を食べながら話してみると、そんなことはただの気後れだった。


率直に彼女と会話をしていて楽しかった。

彼女が気配りをしてくれたからそういう感想を持ったのかもしれないが、とても話しやすくて初めて会って話す人とは思えないほどリラックスしていた。事件の聞き込みという目的が曖昧になる程に。


エンジンをかけずに晴香のことを考えていたので、車内の寒さに身体がぶるっと震えた。エンジンをかけてエアコンのツマミを触り温度調整をする。

そらから車はゆっくりと動かしてファミレスから離れた。


* * *


三島大樹は現状、怪しいと思われるバーテンダーと手品師を張り込んで情報を得たかったが、仕事が想定よりも増えて忙しくなり、中々まとまった時間を作れずあっという間に一日が過ぎることが立て続けに起きた。


晴香には連絡先を交換したその日の内に、

"よろしくお願いします"というメッセージを

一言を送って、向こうからも似た言葉が返ってきた。

それ以降、一切の連絡をしていない。連絡したくても収穫がないので連絡のしようがなかった。


どうにかして、黒田の事件の捜査をしなければ……その為にも自分の仕事をもっと早く消化しないといけない。

忙しさから焦りが生まれて、警察署内の廊下を小走りしていると背後から自分の名前を呼ばれて足が止まる。


「おおっ〜三島。最近、忙しいみたいだが調子はどうだ?」


無精髭を触りながらだるそうに羽山刑事が歩いてくる。

いつもなら、今から一緒にメシでも行きませんか?なんて一言を言うところだが、今は絡まれる時間すら惜しい状況だ。

かといって、大先輩なので雑な扱いは出来ないし、したくない。


「それが、滅茶苦茶忙しいっすよ。なんで一気に事件が重なるんすかね」


「まぁ、事件ってのはそういうもんだ。空気を読むどころか、最悪の状況で畳み掛けてくる。

そんなに忙しそうにしてるから、恐らく知らないんだろうなと思ってさ。

貴重なお時間をわざわざいただきに来たわけよ」


羽山の言葉の意味が皆目見当もつかないので、眉間に皺を寄せて、首を左に傾けてしまう。

その様子だとピンときていないなと判断した羽山は早速、話を続ける。


「黒田皐月の起訴が決定した。検察が思ってたより早く動いたのは俺もびっくりだ、初公判は二ヶ月後だってさ。ここからもし、真犯人が現れでもしたら複雑になるぞぉ」


まるで真犯人が現れて事態が急変してくれることを願っているような声のトーンだった。


「なんか、羽山さん楽しんでません?」


「……そんなわけねぇよ。ただ、起訴になったからには“無罪でした”なんてことになったら面子が丸潰れだなって思ってな。

まぁ、警察の面子なんてとっくに潰れてるようなもんだけど。

とにかく、俺が言いたいのは黒田皐月の無罪を勝ち取るには相当な証拠が必要になるぞってこと」


黒田の再捜査の時間が少ないことは分かっているつもりだった。だが、自分が思っていたよりも時間は少なく、こうも早く起訴が決まってしまうとは想定外であった。

前科がつく前に、真犯人を見つけ出して不起訴にする算段が破綻してしまった。


心臓がひんやりと凍りついていく感覚がある。

心臓から冷えた血を送り出されて身体を巡り頭も冷めていく。

なんとしても、事件の再捜査を急がなければならない。


「それでも、捜査を諦めるつもりはありません。必ず何か掴んでみせます」


「おう。お前ならそういうと思ってたよ。でもあんまり無理すんなよ」


羽山さんは俺の肩を二回ほど軽く叩いてから身体をぐるっと回して来た道を戻っていった。


今、聞いた内容を白峰晴香にも伝えないといけないと思ってスマートフォンで要約した内容をメッセージにして送信ボタンを押す。

すると、しばらくして彼女から返信が返ってきた。

メッセージの内容は、"会って話したいが今日は仕事が定時で終わりそうにないので、会えないですが電話は出来ます。如何でしょうか?"

というものであった。特に断る理由もないので承諾して今日の夜に電話で話すことにした。


* * *


スマートフォンが振動して明かりが灯る。普段はメッセージが送られてくることはあまり無いので、スマートフォンが揺れるとつい手に取ってしまう。相手は三島大樹からだった。


皐月が起訴されてすぐに真犯人を見つけないと有罪が確定する。

という内容が送られてきて驚きを隠せず、その後の仕事の最中でもずっと頭の片隅にあって集中が出来なかった。社内で見る内容ではない。


これからのことも話したかったが、今日は仕事が立て込んでいて退勤するのは夜遅くになる。

仕事が終わって落ち着いてから家で電話をするのがベストだが、三島さんは応じてくれるだろうか?以前にご飯を食べた時は、そこそこ会話も弾んだし後を引くようなことはなかったと思っている。


きっと、前のような屈託のない笑顔で快く引き受けてくれる。そんなイメージがぼんやりと頭に浮かんできた。

今夜、電話で話せないか?とメッセージを送って訊いてみたら案の定、断られなかった。


電話の約束を取り付けたことで、精神的に少しだけ落ち着けたので、なんとか仕事に終わりの目処を立ち、パソコンを閉じて辺りを見回すと、オフィスにはもう数人しかいない。

最後まで残った人間がオフィスの戸締りをするという暗黙の了解なので、そうなる前に退散した。


仕事で思ったよりも疲れたので電車に乗ることが面倒くさく感じて、結局はまたタクシーを配車予約して職場の近くに来てもらって家までタクシーで帰った。

またいつもの悪い癖が出てしまったが、電話をする約束もあるので仕方がないと自分に言い聞かせて、まばらな光が通過するいつもの道筋を車窓から眺める。


タクシーから降りて自宅のマンションに入り、身の回りのことを軽く済ませて、「こっちはいつでも電話できます」とメッセージを送る。

本当はなにか食べたかったが、食べながら電話ができるような間柄ではないので控えた。


空腹感を遮るようにスマートフォンが震え始める。

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