第20話 心強い味方
「それなんですけどね……マンションのエレベーターに設置されている監視カメラと、
四十階のエレベーター前の監視カメラの両方に黒田皐月さんと、被害者のお母さんしか映ってませんでした。これも彼女が犯人だと決定づける有力な証拠です」
監視カメラには、皐月と修一さんのお母さん以外の人物が映っていないことを初めて知ることができた。
その状況であれば皐月が容疑者として浮上するのも分からなくはない。
こういう事を聞くのはあまり良くないのかもしれないが少しの沈黙の後、次の質問をした。
「あまりこんな事は言いたくないですけど……
修一さんのお母さんは、怪しくないんですか?」
「お母さんがマンションに入室する時間がエレベーター前の監視カメラに記録されています。
被害者の死亡推定時刻とズレがあるので、アリバイは証明されてます」
「そうなんですか……こっちから訊いておいてなんですが、色々な情報を私に教えて良かったんですか?」
三島は予想もしなかった言葉をかけられて、驚いた顔つきになる。
「確かに、あまりこういう情報って話さないほうが良いですよね。つい、うっかり話してしまいました」
あどけない笑顔を晴香に向ける。その様を見てつい笑ってしまった。
「なんか、三島さんって警察官っぽくないですよね。もちろん良い意味で、ですよ。私が警察官って人物像を勝手に決めつけてたのかもしれません」
笑ったことを誤魔化す為に、私もオムライスを彼のように頬張る。
「そうですか??確かに、同じ刑事でも色んな考えの人がいますからね。
上司からもたまに警察官っぽくないって言われることあります。
本当は俺が白峰さんに色々質問したいからこうしてご飯食べてるんですからね。事件当日のこと、もう一度話してもらっていいですか?」
私は、そうですね。と一呼吸を置いてから、
あの一日の行動をありのままに話した。
"当たり前ですが、調書と同じ内容ですね"と、
彼は答えたあとで、手品師にもう一度、聞き込みをしてみるのが良いかもしれない。
バーテンダーと手品師はグルになって何かを隠そうとしている気がしてならない。
真犯人が口止めをさせているなら、尻尾を掴む為にも尚更、聞き込みをする必要がある。と付け加えた上で、もし良ければ二人で真犯人を突き止めませんか?と提案してくれた。
捜査に私も加わっても問題はないのか訊いてみたが、そんな大それた事をしてもらうつもりはないし、彼自身も個人的に調べているのであって、
表立ってしていることではないから問題はないと言ってくれた。
「羽山さんぐらいは知っていますけど、基本的には内緒で調べてるんであんまり口外しないで下さいね」
三島は秘め事だからとお願いをして、私は分かりましたと承知した。
「まずは……手品師かバーテンダーを追跡調査してみようと考えています。張っていると、なにか収穫がある気がするんですよね」
「それって尾行するってことですか??」
晴香はまさか自分に尾行して欲しいと言われるのではないかと、身構える。
「尾行って程ではないんですけど、お店を出てから何処に行くのかとか、いつもはどういうルーティンなのかが分かれば怪しい行動を見分けやすいので……張り込みみたいな感じですかね。
大丈夫ですよ?白峰さんにはこんなことお願いしないです。俺がするので」
自分が尾行するのではないと知って安心して、
オムライスをまた口に入れる。
三島が食べていた洋食プレートに目を向けると、そこそこの量があったはずなのに皿は空っぽになっていて、あっさりと平らげてしまったようだ。
「あっ、全然気にせずゆっくり食べて下さいね」私の視線に気づいてフォローを入れてくれる。
なにも言われずに無言の圧力をかけられるよりはマシだが、そう言われるとゆっくり食べづらい。この状況での正解は食べる速度を女性に合わせて食事をすることだ。
ありがとうございます。と言ったものの、
ゆっくり食べるとは真逆の行動を取る。
「白峰さんに早速ですけど、お願いしたいことがあります」
「んっ?なんですか??」口の中にオムライスが入っているのに話しかけてくるので、口が開けられず、上手く話せない。すかさず、手で口元を隠す。
「連絡先を交換しましょう」
三島は冗談まじりの不適な笑みを浮かべる。
「んっ〜びっくりしましたよ」
晴香は口の中にあるオムライスを飲み込んでから、びっくりしましたよ。と言いながら、バッグからスマートフォンを取り出して三島と連絡先を交換した。
「ありがとうございます。じゃあ俺はドリンクバーに行きますけど、一緒になにか淹れてきましょうか?」
オムライスを食べ終わったことを待っていたようで、ドリンクの催促を促される。
「それじゃあ、ホットコーヒーをお願いします」
飲みたいなら、気にせず取りに行けばいいのにと心の中で呟きながらお願いをした。
三島は席を立ってドリンクバーがある方に歩いて行って、飲み物を注いですぐに戻ってきた。
両手にはホットコーヒーが入ったカップを持っている。
同じものを飲むんだなと思いながらお礼を伝えてカップを受け取った。
「やっぱり食後はコーヒーが無いと締まらないですよね〜」
三島はコーヒーを飲みながら呟いて、
その感性は私にもあると同調して、そうですね。と、一言だけを返して二人でコーヒーを飲む。
恐らくコーヒーを飲み終わったら、お会計を済ませて帰る流れになる。残された時間は少ない。
訊くタイミングは今だと判断して尋ねる。
「あの……私でも皐月と会えたりしますか?皐月がいまどうしてるのか心配で」
「それは面会ということですか?面会は可能ですよ」
三島は思っていたよりもあっさりと答えて、どういった手続きをすれば良いのか分からないと伝えたら、今度一緒に拘置所へ行って手続きしますよ。そう言って笑顔で快く引き受けてくれた。
「それじゃあ、そろそろ帰りましょうか」
コーヒーを飲み終えて一服した後に三島は伝票を取ろうとしたが、私も伝票を取ろうとしてお互いの手が触れてしまう。
お互いに"すみません"と言って、咄嗟に手を引っ込めたが、三島がすぐに伝票を手に取った。
私はしまったと思ったが、三島はすぐ座席に忍ばせたせいで伝票を取れそうになかった。
「それじゃあ、ご馳走になります」
私は軽く頭を下げて三島はただにっこりと笑った。
思えば、男性に奢ってもらったのはいつぶりだろう。というか、奢ってもらったことってあったっけ?記憶を呼び起こしていたが、三島の呼びかけで我に帰る。
「大丈夫ですか?気分が優れないなら、もう少しここにいましょうか??」
私は大丈夫です、行きましょうと伝えて席を後にした。
二人でレジに向かって歩いて行き、三島が清算を済ませてくれた。
ファミレスの扉を開けると空はとっくに真っ黒に染まっている。
三島は駐車場に車を停めているので、自宅まで送りますよ。と言ってくれたが警察官とはいえ車で二人きりになるのは一種の危機感を覚える。
「お気遣いだけありがたく頂きます、それじゃあまた。皐月のことでなにかあったら教えて下さい」
それだけを伝えて私はファミレスを去った。
数日後、皐月の起訴が決定した。




