第19話 まずはお食事から
三島は退勤して約束の十九時をまだかまだかと待ち侘びていた。
白峰晴香が勤めているオフィスビルの近くにある"スターズ"というファミレスに車で向かった。早めに着いてしまったので、ファミレスの駐車場に停めて車内でスマートフォンをいじったりして時間を潰している。
約束の時間が近づいてきたので、倒していた運転座席のシートを起こすと、さっきまでは空いていた駐車場が満車になっていた。
ファミレスの空席が気がかりになって、車から降りて駆け足で店内に入ろうとしたが正面のガラス越しの扉から店内が見えた。
店内には入店待ちのお客さんが座席に連なっている。やってしまった、出遅れたと自責したがこの行列を待たなければいけないという事実は消えない。今、出来ることは少しでも早くウェイティングボードに名前を書くことだけだ。
お店に入って、入り口近くに設置されているウェイティングボードに<三島、大人二名>と記入した。
あと、どれだけ待っている人がいるのか横線が引かれていない名前に目を通す。
大人数のファミリー層が先約で座席に座っているのが恐らくそのファミリーなのだろう。
だとすれば、大きめのテーブル席が空けばそこに一気に流れる。
すると残りの待ち数人は数名で大した事はない。
思っているよりも早く順番が回ってくるかもしれないと考えたが、
そもそも白峰を待たせてしまうことが申し訳ないし、悪い印象を与えてしまうのではないかと心配になった。
せっかく時間を割いてくれたのに、いざお店に来たら待たなければならない。
ここはスマートな振る舞いをして良いスタートを切りたかった。
名前を呼ばれるまでまだ時間がかかりそうなので、お店から出て外の空気を吸いながら待とうと考えて扉の前に立つと、扉の向こう側には白峰晴香がいた。
向こうも扉越しに気が付いて目が合う。
白峰は扉を開いて店内に入り、軽く会釈を交わす。
「凄い混んでますね、夕ご飯の時間帯ですから仕方ないですけど。もっと他の店を選べば良かったですね、すみません」
「いえいえ、俺も今日は洋食系を食べたいなぁって思ってたんで、ファミレスのチョイスはありがたいです!こっちこそ、先に座席を取れてなくてすみません」
「そんなこと気にしないで下さい!なんか色々と考えてくれて、優しいんですね」
彼女が柔和な微笑みを浮かべてくれる。
今日ひと目見ただけだが、張り詰めたような顔つきをしていて、お世話にも愛嬌があるタイプではないことは分かった。
常に笑顔で愛想を振り撒く女性も悪くはないが、ムスッとしている女性が時折見せる笑顔にときめく男性は多いはず。俺もその一人だ。
「じゃあ……少し座って待ちましょうか。そこ、空いてますし」
白峰のひと声で我に返り、相槌を打って二人で座る。
彼女が隣に座ると座高はほぼ変わらず、お互いの目の位置も同じぐらいの高さで、妙な安心感があり思わず口にした。
「自慢じゃないですけど、背が高いので女性が隣に座るといつも斜め下を見ながら話すんですが、白峰さんには真横を向いて話せるので楽です。
結構、身長高いですよね?」
「ヒールを履いてるからだと思いますよ。それと、……斜め下を見ながら話すのめっちゃ分かります!
同僚の女の子に見下してるみたいで怖いって言われたことありますし、女性ならまだいいんですけど、自分より背の低い男性の場合だと本当に見下してるように思われてないか心配になります」
「俺も女性に、隣に来ると威圧的って陰で言われてるの聞いたことがあったんで気をつけるようにしてます」
雑談をしていると店員から名前を呼ばれたので、話は切り上げて店員についていき、テーブル席に案内へとしてくれた。
テーブルに備え付けてあるタッチパネル式の端末で注文するようになっていて、晴香は迷う事なく、ドリンクバーを二つと押して確定ボタンを押そうとしたが、三島の待ったが入る。
「えっ?ご飯は食べないんですか??」
「えっ?皐月のことについてお話しする為に来たんですけど……」
「いや、それはそうですけど。時間も時間なのでお腹が空いてて……一緒にご飯も注文しませんか?」
何故、初対面の男とご飯を食べなければいけないのかと考えたが、"空腹で今にも困ってます"とでも言うような純粋な顔を向けられては仕方がない。
「じゃあ……私はオムライスで」
あからさまにウキウキしながら、三島は洋食プレートとオムライスを追加で注文して確定ボタンを押す。
晴香が"飲みものはなにが良いですか?"と訊いてきたので、オレンジジュースを頼み、晴香は席を立ってドリンクを調達しに行った。
オレンジジュースとジンジャーエールを両手に持って席に戻ってきた晴香に"ありがとう"と礼を言う。
「なんで、今日は会おうと思ってくれたんですか?」三島が話を切り出す。
「嬉しかったんです。皐月のことが放っておけない、事件をちゃんと調べたいって言葉が。
羽山さん達は皐月を犯人に決めつけてさっさとこの事件を終わらせようとしか見えなくて……」
「一応、状況証拠は揃ってますからね」
「じゃあ、やっぱり三島さんも皐月が犯人だって思ってるんですね」
「いや、まだそう決めつけるのは早いと思ったのでこうして白峰さんと会ってます」
「他の刑事さんに当たってみようかと考えていたんですけど、どうしたらいいか分からなくて。でもこうして三島さんが調べてくれるなら本当に嬉しいです」
店員がテーブル席に来て、注文した洋食プレートとオムライスを配膳してくれる。
"まずは食べましょう!"と言ってすぐに三島が食事を始めた。
皐月のことについて本当に訊く気があるのかと疑問が浮かんだが、悪気が無いことはすぐに分かったので、食事をしながら話をしても良いかと判断した。
彼は本当に美味しそうに洋食プレートの中のハンバーグやエビフライを頬張る。
そんなペース配分で食べると後半は足りなくなるぞ言いたくなるほど白ごはんをかき込む。
「なんか、食べてる姿が子どもみたいですね」
頭で考えていることがつい口から溢れた。
すぐに、ごめんなさいと謝罪をしたが、
彼はたまに言われるんですよね〜なんでなんですかね?と気にも留めていない様子で、少し馬鹿っぽいなと同時に悪い人ではなさそうな印象を受けた。
その後も食事を続けながら雑談をしてそこから本題に入った。
「あの、聞きたいことがあるんですけど。
皐月のマンションの監視カメラにはなにも映ってなかったんですか?」
私の質問を聞き終えると、三島は箸を止めた。




