第18話 飛び込み捜査
三島は公園で親子と別れて車に戻り、車内で一息ついた。
身体を動かしたこともあって喉が渇いてきたので
白峰晴香の勤務先へ向かう前に、まずは近くのコンビニに向かうことにした。
カーナビで近くのコンビニを検索して目的地に設定する。
コンビニに到着して、おにぎり二個とペットボトルのお茶を買って車内でおにぎりを食べる。
おにぎりを口に頬張り、今更ながらに考える。
白峰晴香が勤める会社は俗に言う大企業だ。
もちろんアポは取っていない。
中小企業であれば警察手帳を見せればなんとかなることも多いが、
大手企業となると警察手帳を見せた所でアポを取っていないのであれば難しいと受付嬢が待ったをかけることも少なくない。
なにがともあれ、じっとしていても仕方ない。といういつもの結論に至り、おにぎりを食べ終えた。
"止まらずに動き続ける"……という信条を三島はいつも心に掲げている。
捜査で壁にぶち当たっても、なにかしら動き続けていると関係性が薄かった点と点が繋がっていき解決へ導く線になったことは多々経験した。
今回もいつも通りにやるだけだ。
お茶を飲み干した後、車を動かして白峰晴香がいるオフィスビルに向かった。
オフィスビルは大通りに面していて、車は停められそうにない。
少し離れたパーキングエリアに車を停めて徒歩でオフィスビルに辿り着いた。
エントランスは広々としていて、とても綺麗な内装で流石は大手企業といったところだ。
座って暇そうに談笑している受付嬢に話しかける。
「すみません。いまちょっと宜しいでしょうか?警察官の三島と言います」
内ポケットに入れた警察手帳を見せる。
受付嬢の顔に少しの緊張が現れて、どうされましたか?と三島に質問を返す。
「こちらで勤務されている白峰晴香さんに少しお話を伺いたいのですが、お取次をお願いできますでしょうか?」
「事前にお約束はされていますでしょうか?」
「いえ、約束はしていないです。飛び込みです!」
受付嬢は苦笑いをしたが、受話器を取って内線で確認を取ってくれた。
「白峰はすぐこちらに参りますので、あちらのソファーにお掛けになってお待ちください」
ありがとうございます。と受付嬢に伝えた後、近くのソファーに座って白峰が来るのを待つことにした。十五分くらい待っていると、目の前に長身の綺麗な女性が現れる。
「あの……三島さんでしょうか??」
咄嗟にソファーから腰を上げて晴香の前に立った時、瞬間的に晴香の背の高さからくる違和感があった。
自分が高身長であることは自覚しているし、大抵の女性と話す時はかなり目線を落とすか、圧迫感を与えないように少し間隔を空けることにしている。
自分の目元のすぐ下に女性の頭が来ることは初めての体験であった。
「はい!三島です。白峰晴香さんですよね。急に押しかけるような真似をしてすみません」
「今、仕事を抜けて来ているので手短にお願いします」
「黒田修一さんの殺害事件について伺いたいことがございまして……」
「それでしたら、羽山さんという刑事に話せることは全てお話しましたよ?」
白峰は怪訝な表情で三島を見つめる。彼女の心をここで離れさせてしまうと、この事件を調べることが難しくなる。
彼女が唯一の手がかりと言っても過言ではない。
「それは分かっています。でも、もう少しこの事件を調べたいんです」
三島はそう言ったが晴香には全く響かず、仕事があるのでもう戻りますねと言い残してその場を立ち去ろうとしている。
一礼をして離れていく白峰の背中に言葉を重ねる。
「放っておけないんです、黒田皐月さんのことが。
もし彼女が無実だとしたら真犯人は別にいる。
貴方の友達はきっと無実です。だから黒田さんも真犯人も、そして貴方も放っておけないんです」
晴香の足はぴたりと止まって三島の方に身体を向けて少しの沈黙が流れる。
「……待っててもらえますか?」
白峰が沈黙の後に発した言葉がどういう意味なのか分からないので次の言葉にまごつく。
「仕事が終わったら落ち着いて話が出来ると思いますので、この近くにある"スターズ"ってファミレスで待っててもらえますか?十九時頃には行けると思います」
自分の気持ちに応えてくれた白峰に対して心理的な距離が縮まった気がしたが、十九時までかなり時間がある。
すぐにでも捜査をしたいという気持ちが先走っている状態の今にとってそれは待ったをかけられたような気分に感じた。
「今日のその時間にお会いするのは難しいですか?それでしたらスケジュールを合わせて後日……」
「大丈夫です!待ってます!!」
晴香が全てを言い終える前に承諾した。
渡りに船のこの状況を逃すわけにはいかなかったからだ。
こうして約束を終えると晴香は一礼してその場を離れて職場に戻っていった。
なんとか一歩を踏み出すことが出来たと安堵すると、猛烈な便意が三島を襲う。
エントランスの周りを見渡してトイレが無いか探していると、オシャレなトイレマークを見つけた。
こういう意識が高い系のオフィスはトイレマークまでオシャレなのか。マークが小さすぎて分かりにくい。
典型的な赤と青の色で分かりやすく表示してほしいものだ。
男子トイレの中に入ると洋式トイレは無事に空いていた。すかさず入ってドアを閉め鍵をかける。
すると、程なくして男性が話しながらトイレに入ってきた。ドア越しに男性の声を聞く限り、どうやら二人いるみたいだ。
「黒田さんを殺ったのがまさか奥さんだとは思わなかったなぁ〜いや、女は怖いね」
「お前も、奥さんに殺られないようにな」
男達は小便をしながら噂話をしている。
「今だから言えるけど、黒田さん苦手だったなぁ。自己中でさ。奥さんも内心では嫌気が差してたんだろうね。ちょっとわかる気がするよ」
「そうなんだ。俺は直接話したことないからよく知らないけど。でも刺しても良い理由にはなんないでしょ」
小便を終えて、男達がトイレから捌けていった。
黒田修一は周囲から自己中って評価されていたのか……便意をそっちのけで聞き耳を立てていたせいか便意はタイミングを逃してすっかりなくなってしまった。
三島は一度、警察署に戻って他の仕事をすることにした。




