第59話 予想以上の発展
ようやく体制が出来、北地区を開店させる準備が整った。
3日後、南地区の伯爵以上を招待して、プレオープンを行なう。
新しくオープンするストリートの名前は〔ネオ〕。
新しいという意味だが、「ネオの◯◯」の様に、呼びやすく覚えやすい名前とした。
「レン、急に呼び出して何かあったか?」
オレは主要メンバーに集まって貰った。
ハッシュの疑問も当然だろう。
「最終調整で忙しい中、集まって貰ってすまない。新たに完成した物があって、連絡した次第だ」
「また、新しい物を作ったのか!」
「レンさん、何処にそんな時間があったんですか」
「なんでまた、こんなギリギリに……」
それぞれ思う所はあるようだが、興味は隠しきれていない。
「して、何が出来たんだ?」
「お酒だよ」
「酒?[ミード]や[エール]とは違うのか?」
「うん、[ミード]は甘ったるく、[エール]は物足りない感じがしたから、新しいお酒を作った」
テーブルの上に3種類のお酒を置く。
「[ラガー]と[ウィスキー]と「ブランデー」と言うんだ。飲み比べてみて」
全員お酒は好きな方みたいだね、出した途端目の色が変わったw
瞬時に宴会モードに入る。
「ぷはぁ~、この[ラガー]ってやつは飲みやすいな。後味もスッキリだ!」
「[ウィスキー]は見た目も良いね。何?氷や水で飲み易さを調整出来ると」
「[ブランデー]の香りが好き。えっ、[ブッド]から出来るんだ」
「摘みもあるけど出す?」
「「「「出す!」」」」
「[ピリ辛唐揚げ][イモーチップス][バターソルトナッツ][カリカリベーコン][スモークチーズ]をどうぞ」
「「「「!!!!」」」」
「まてまてまてまて、どれも食べた事ないぞ?」
「領主様、レンに常識は通用しねぇよ。そのまま受け入れるしかねぇ」
「ハッシュは何気に非道いね。食べたく無いのかな?」
「勿論食うぞ!食べない選択肢は無い!!」
「正直使えるな。作る量はどうだ?」
領主様が本気モードに入る。
「[ラガー]は大量生産出来るから、大衆向けにも大丈夫。[ウィスキー]と[ブランデー]は時間が掛かるから、貴族向けかな?」
「販売は?」
「ネオの酒場や高級宿で提供しよう。店売りは無しで。[ピリ辛唐揚げ][イモーチップス]は大衆酒場、[バターソルトナッツ][カリカリベーコン][スモークチーズ]を高級宿かな?」
「よし、それで行くぞ。高級宿の差別化にも約に立ちそうだ」
そこにハッシュがやってきた。
「本当の話、いつの間に作ったんだ?」
「[メガポーション]の後、ミリーに投げかけたら、喜んで作ってくれたよw」
「作る為の道具はどうした?」
「クレイルさんに魔道具で作って貰った」
「場所は?」
「一軒家を買い取ったけど、今後を考えると工場が必要かな」
「よし、生産ギルドで対応しよう」
「販売は任せて」
生産ギルドと商業ギルドのギルマスも加わった。
生産ギルドのギルマスは〈メッサ〉
商業ギルドのギルマスは〈レイミー〉
どちらも元ギルド職員だ。
それぞれ生産系と商業系を担当していたので、工房主や組合長と馴染みがあり、抜擢されている。
「取り急ぎ、酒の増産体制が急務だな」
招待客用は確保出来ているので、本格的なオープン迄に量の確保が必要だった。
「砂糖用の倉庫が余ってるからそこを使おう。売れすぎて全部埋まらんからな」
「装置は増産して貰ってるけど、売れ過ぎたら足りないかな?」
「間違いなく足りん。間違いなく売れる。全然足りん」
ハッシュの言葉に全員頷く。
その後、連絡役となるフェイさんを呼んで、会議と言う宴会は続いた。
いつの間にか、領主夫人も加わり女子会が始まっている。
「あっ、もう一つ出すの忘れてた。[シュークリーム]もどうぞ」
一口食べて全員が固まる。
最初に言葉を発したのはフェイさんだった。
「このタイミングで甘い物は反則です!」
「あぁ、甘いの、しょっぱいの、甘いの……」
レイミーは呪文を唱え、
「これでまた、皆様に喜んで頂けますわ」
夫人は算段をしている。
男性陣といえば、「以外と甘い物も酒に合うな…」
と酒が進んでいたよ。
晩餐時、執事が領主様を呼びに来たが、既に満腹状態。
子供達に「ズルい」と言われたので、[シュークリーム]をあげると、領主夫妻は見て見ぬ振りをした。
まぁ、「ご飯が入らなくなるから、お菓子は駄目」とは言えないよね〜w
翌日から酒プロジェクトがスタート。
商業ギルドで材料確保の間に、生産ギルドで装置の設置。
冒険者ギルドは人員確保に動いている。
余程お酒が気に入ったのか、速やかな連携だったよ。
予定通り、招待客を迎え入れる。
初日は侯爵様夫妻と、南領地の貴族数名だ。
領地の運営上、一度に全員を招待出来ないので、数回に分けて招待している。
北門で出迎えた後、先ずは宿に案内。
休憩を挟んでからネオストリートを紹介して行く。
高級宿は15組が宿泊可能。
7階建てとなっていて、1階がフロント・ロビー・売店が建ち並ぶ。
2階から4階が各4組宿泊可能のフロア。
5階が飲食店のフロア。
6階が2組宿泊可能のフロア。
7階が1組宿泊可能のフロアとなっている。
各階への移動は魔道エレベーターを採用。
3基のエレベーターを設置し、2〜4階用、6階用、7階用だ。
案内係を1人づつ配置。
機器の使い方やサービスの種類、宿のシステムを説明しながら部屋に案内する。
高級宿に慣れている面々だが、初めて見る魔道具やサービスに驚きを隠せていない。
エレベーター・照明スイッチ・水洗トイレ・空調システム・湯沸かし器を魔道具で再現。
スリッパ・【クリーン】・タオルをサービスとした。
全員から「魔道具を当家に付けてくれ!」と頼まれたが、人手不足と宿の売りを理由に、お断りをしている。
タオルとトイレペーパー、湯沸かし器は売店で購入可能だよ。
興奮冷めやまぬまま、全員をネオストリートに案内。
尚、今回の招待は、宿代と朝食・夕食は無料とし、オプションや他飲食代は支払って貰う事にしている。
初めて聞く料理やデザートの名前。
ここでしか買えないポーションや魔道具を見て、興味が尽きない様だった。
特にお菓子類は女性陣と子供達が、料理や魔道具は男性陣が目を輝かせている。
家族でシェアする姿が目に付いたが、全て試すのは難しいだろう。
リピート確定だね。
夕食の時間となり、レストランに案内する。
コース料理を提供するが、今回は量を控え目で出した。
昼間にあれだけ食べたら、夕飯はキツいしね。
最後に、バーを紹介。
新しいお酒ともあり、話のネタに大人は全員立ち寄った。
ネオストリートの夜景を見ながら、お酒を堪能している。
お酒の販売は、作成量が少ないので行っていない。
[ウィスキー]と[ブランデー]は宿泊客の特典とさせて貰う。
翌日、朝食はバイキング形式。
基本従者が取りに行くが、子供達は自分で選びたいらしい。
一生懸命選ぶ姿は微笑ましかった。
魅力的なのは、アイスやプチシリーズ。
[ケーキ]や[シュークリーム][クッキー][ゼリー][プリン]が一口大で食べれるのは好評だ。
色々な味を試せるのが良いらしい。
今後の参考にしよう。
朝食後は意見交換の筈だったが、レシピの開示要望ばかりだった。
侯爵様からは、「予想以上の発展だ。今後も我が南領地の発展に寄与してくれ」と言葉を頂いた。
招待客が帰路につき、大きなトラブルも無く"ホッ"と一息。
領主様がスタッフに労いの言葉を掛けて終了した。
時は少し遡り、夕食後のバーでこんなやり取りがあった。
「バルドよ、此度の変革はレンの仕業か?」
「侯爵様のおっしゃる通り、新しい取り組みは全てレンが関わっています」
「ここまでの変革だ、資金確保は出来ているのか?」
「レンの構想は、資金調達も含めた計画です。実際、税金からの拠出は行っておりません」
「何だと!これだけの工事なのにか」
「あやつは税金を使用すると、増税で民が負担となると言いましてな。新規事業で資金確保を行い、それを循環させて費用を賄いました。」
「初めから計画されていたと……」
「レンの取分は利益の5%。それでも莫大な金額と、なっていますよ」
「本当に欲のない事よ」
「侯爵様も、この北地区がスラム街だったのはご存知でしょう。それを見事に解消したのもレンですよ。新規事業は資金調達だけでは無く、雇用拡大も計画の内でした」
「……」
「レンが来てからは、騎士団の纏まりと強化、神父と貴族の汚職摘発、スラム街の消滅、不衛生の対応等、長年の問題が次から次と解消されています」
「どうやら騎士団以外にも実力者が居るようだな」
「【身体強化】を覚えた者は、他領の騎士団より強いかもしれません」
「何もかもレンか……」
「あやつを制御出来る者は居ないでしょうな」
「その点、お主は良くやっているよ」
「ほぼ放置状態てすがねw」
「嫌ならとっくに出ていってるさ。こんな美味い酒を作る前にな」
「問題は王家と公爵家ですな」
「下級貴族も野心があれば注意が必要だな。王家と公爵家は任せろ、実際に手を出すと潰されるからな」
「侯爵様の騎士団もやられましたか」
「影も含めてな。しかもレン1人にだ」
「こちらは一般人に完敗ですよ」
「難儀な事だ…」
「では、王家をお任せする見返りは、お菓子のレシピ数点で」
「頼んだ!別荘を建てて住みたいと言い出しよった」
「まぁ、他に広まらなければ、レンは反対しないでしょう」
「助かる」
「南領地の発展の為に」
「南領地の発展の為に」
2人はグラスを"カチン"と鳴らし、美味い酒を堪能した。




