第57話 真似出来ない想像力
翌日、領主邸に行くと、奥様が複雑な表情をしていた。
廊下ですれ違ったのだが、期待・悔しさ・喜びが入り交じった表情に見える。
挨拶すると、「レンさん、昨日はしてやられたわ。美味しいデザートをありかとう」と言われた。
料理長は成功したみたいだね。
「お口にあえば幸いです」
「今後も期待しているわね」と去って行く。
機嫌を損ねたかな?と思いつつ厨房に入ると、料理長が疲れた顔をしている。
パルさんに聞いて見ると、晩餐の後でメイドさんと料理人にフルーツ入りを作らされたらしい。
パルさんは、レシピの説明で難を逃れたそうだ。
料理長を労い、奥様の機嫌を聞いてみると、「大丈夫、おかわりしてたからね。少食気味の奥様だけど、お菓子は別腹みたいだよ」と笑っている。
「今日は何を作りますか?」
パルさんに聞かれたので、新しい道具を披露。
「これを使って更に工夫しましょう」
「えっ、更に工夫出来るんですか?」
「デコレーションをやってみましょう。見た目が変わりますよ」
早速試してみることにした。
用意した道具は3つ、轆轤・ヘラ・絞り袋だ。
3個の[ホットケーキ]を重ね、間にフルーツと[ホイップクリーム]を挟み、周りを[ホイップクリーム]で円筒形に整える。
「轆轤を回しながら、ヘラを固定すると形を整えやすいぞ」
轆轤とヘラの使い方を教える。
「次に、レラ先のギザギザを軽く当てて、轆轤を回し模様を付けていく。少しヘラを上下させれば、波模様の完成!」
「綺麗ですね」
「上は絞り袋に[ホイップクリーム]を入れて軽く絞る」
縁に小山が並んでいく。
中は絞りながら円を描くと棒状のクリームが出てくる。
「最後は真ん中をフルーツで飾れば完成だ」
「うわぁ、綺麗です!食べるのが勿体無いくらい」
「同じ食材で、こうも見た目が変わるのか。こりゃあ真似出来ない想像力だ!」
「フルーツを挟むのは、ここで教えようと考えていたのさ。さて、切ってみるかい?」
「ちょっとお待ち下さい!」
突然入口付近から声がかかる。
「その状態を奥様に見せて頂けますか」
メイドさんからお願いされた。
「判りました。ここに呼ぶのは失礼ですか?」
「大丈夫です。きっと飛んできますよw」
話している間に奥様登場。
ケーキを見るなり目を輝かせた。
「レンさん、素晴らしいです。まるで芸術品のようですわ」
「特別な日やお茶会などには見栄えが良いかと思います」
パルさんも目を輝かせていた。
「是非、今度のお茶会に使わせて下さいな」
「領主様の承認が取れれば大丈夫ですよ」
「直ぐ連れて来ます!誰か旦那様を呼んで来て!」
「畏まりました」
数分後、領主様が厨房に来た時には、メイドさん達で溢れていた。
「これは凄いな、芸術品と言った意味がわかるよ」
領主様も驚きを隠せなかった。
「お茶会用なら、こんなのもアリかな?」
一口サイズの[ホットケーキ]に[ホイップクリーム]とフルーツを乗せる。
「一口サイズで食べ易く、フルーツを変えれば食べ比べも可能」
周りで歓声が上がる。
「[ホイップクリーム]1つでこんなに種類が出来るとは……」
領主様と料理長が感心している中、説明の追加をした。
「材料が同じならば、作る手間も廃棄も少なくなるからね」
「そこまで考えているとは恐れいった」
「[クッキー]の上にクリームを乗せたり、[クッキー]を砕いて混ぜると、違う食感も楽しめるのさ」
「味・見た目・食感……工夫次第で種類が増える……」
料理長がトリップしてしまったw
「あなた、これを次のお茶会で使わせて下さいね」
「いや、しかし、公開にはまだ早い…」
「下さいね!」
「……」
「ね!!」
「判った、降参だ」
奥様の迫力勝ちだったw
後日、お茶会が奥様方やお嬢様方の戦場に変わったと聞いて驚いたよw
お子様達も呼んで試食会。
切り分けると断面に目を奪われる。
挟んだフルーツが綺麗な色を出していた。
料理長とパルさんは、デコレーションの練習。
「以外と繊細な力加減が必要だな」
「集中力も試されています」
失敗分はメイドさんの試食に消えていく。
「美味しい〜」「太る〜」「別腹〜」が途切れる事は無かった。
練習中に呼ばれ、応接室に行くと、領主様と奥様が待っていた。
「何かあったのかい?」
「呼び出してスマンな。相談があって来て貰った」
「レンさん、今日のケーキですが、先行して貴族に販売しようかと思います」
「それは構わないけど、どうしたの?」
「お茶会に出すと隠しきれなくなるからな、先行販売してインフラのプール金を前倒しで貯めるぞ」
「インフラ整備も前倒し?」
「あぁ、目処が付いたら始めて行く考えだ」
「ただ問題がありまして、貴族用に販売してしまうと、一般用の金額が高過ぎてしまいます」
「何か良い案は無いか?」
「それなら、フルーツの使う量や、デコレーションを少なくすれば良いと思うよ。クリームに色を付けるのも良いかな?」
「クリームに色を付けれるのか?」
「フルーツを搾って混ぜ合わせると可能。豪華な物は貴族用、シンプルな物は一般用て差別化するのさ。口金の形状でデコレーションも変えれるからね」
「よくもまぁ、次から次へと案が出てくるものだ」
「オレの場合は特殊だからね」
「本当に唯一無ニですわ」
「先ずは下水道の整備だな。決まったら打ち合わせに参加してくれ」
「判った、それまでに案を考えておくよ」
「助かる。以上だ」
「最後に良いかしら?」
「何だ」
「色付きのクリームが気になるの!晩餐に出せるかしら」
「分かりましたよw 2種類用意しますね」
「うふっ、楽しみだわ」
厨房に戻り、先行販売を伝える。
「暫く別チームを組む必要があるな」
「練習も必要ですね」
「まぁ、暫くは限定数販売しかないね。明日も練習かな?新しい道具を作りますか」
「新しい道具ですか?」
「まあ、大したものじゃないよ。切り分けたケーキをすくうヘラと、種類の違う口金だね」
「慣れるまで頑張りますか」
「そうそう、慣れるのが一番早いからさ。頑張って」
パルさんが練習している間に、料理長と打ち合わせ。
「今日の晩餐に、色付きのクリームを披露するから手伝ってね」
「色付きですか、どうするのですか?」
「搾ったフルーツを混ぜればオケ。色を見たいから何種類か作ろう」
数種類試したが、発色の良いフルーツは[イッチゴ][ブッド][メッロ][ミッカ]だった。
[モッモ]も美味しいが、色の変化が少なく次点。
今回は酸味とのバランスが良い[イッチゴ]と[ブッド]をケーキに、他を[クッキー]に乗せて出す事にする。
ケーキには、外側を色付きにして、中を少し甘めにした白で決め、切り分けた時のフルーツが綺麗に見える様に調整。
晩餐に出すと、奥様の目の色が変わったらしいwww
数点[クリームケーキ]を持ち帰り、教会へ向う。
(お久し振りです、お供えをどうぞ)
(ウホホッ新作だね!美味しそう)
(元は[ホットケーキ]だけどね)
(そうなの?見えないね〜)
(皆んなで分けて食べるんだよ)
(わ、わかってるよ。独り占めなんてしないさ〜、あはは…)
(それはそうと、聞きたい事があったんだ)
(何だい?)
(女神様ならカカオが有るか判る?)
(カカオか〜、こっちの世界でも[カッカオ]で呼ばれてるけど、食べ物外の扱いだよ)
(採取は難しい?)
(レンの居る南地方なら、野生種がなってるよ)
(ラッキー、チョコレートが作れるかも)
(本当かい?一度食べてみたかったんだ)
(まあ、簡単じゃないけどね。【検索】を使っても、完全には判らないのさ)
(発展の違いだね。でも頑張ってね)
(それと、新しい物を教えていって大丈夫?)
(こっちの素材で出来るのは、基本的に大丈夫だよ)
(まあ、全く同じとはいかないけど、こうも反応が過剰だとね)
(狙われる可能性があると)
(オレは何とかなるけど、知り合いが標的にならないかが心配なのさ)
(ん〜〜、全員を守るのは難しいね。方法が無いわけじゃ無いんだけど…)
(あるのかい?)
(【テイム】と【リンク】だよ。身近に多くいる虫や動物を使って、監視網を築くんだ)
(苦手な人や、覗かれて不快に思う人が居るんだね。衛生面の心配もあるか…)
(情報収集にはもってこいだけどね)
(候補に挙げておくよ。情報は大事だからさ)
(まあ、全員守るのは現実的じゃないから、何かあったら対応するしかないね〜)
(わかった、ありかとう)
(どういたしまして)
(新作の料理かお菓子出来たら、また遅お供えするよ)
(期待して待ってるね〜)
今日も女神様は元気だった。
「さて、確認も取れたし、明日からガンガン行きますか〜」




