第56話 最初から作るのは難しいと実感
数日後、ミリーと共に領主様へ報告。
報告を終えると、領主様は何故か頭を抱えていた。
「ハッシュに聞いてはいたが、これ程とはな」
「以外と苦労したよ」
「苦労の感覚がズレてると思うが……まぁいい。さて今迄を含めてどう活用して行くか…」
「提案があるけど聞く?」
「言ってみろ」
「この街の特産にするのはどお? レシピを非公開にして、契約した工房・飲食店のみ販売するのさ」
「そこに行かなければ買えないか……」
「勿論、品数は増やさないとだけどね」
「出来るのか?」
「ポーション類は難しいけど、料理やお菓子なら何とかなるかな?」
「まだ新しい物を作れるのか」
「【料理】スキルを持った人を、付けてくれれば考えるよ」
「期間と報酬は?」
「90日以内に出来る限り、利益の5%で」
「5%は少な過ぎるぞ」
「その分、充分な報酬と重い罰則でレシピの流出を防いで欲しい。残りは軌道に乗ったらインフラ整備をしないかい?」
「インフラか、何を変える気だ?」
「先ずは下水道と北地区の区画整理だね。今のままでは、気温が高いと臭いが気になるからさ」
「ふむ、その為のプール金か」
「元手が無いと、増税になるだろ?」
「確かに、別枠で資金が出来れば問題無いか。しかも、事業は成功の見込みが高い……」
「宿泊施設も増やさないとね」
「忙しくなる未来しか見えんな」
「頑張ってね」
「他人事だと思いよって」
「街の発展になるんだから良いよね」
「返す言葉が無いな……」
具体的な案を領主様と確認し、厨房へ向う。
フォローに付けてくれる料理人は、副料理長だった。
料理長に挨拶をして、副料理長を紹介して貰う。
「これから宜しく、レンです」
「宜しくお願いします。副料理長のパルです。一緒に仕事が出来て光栄です」
「畏まらなくていいよ、只の冒険者だから」
「只の冒険者が[砂糖]や、あんなお菓子を作れるもんか。パル、技術を盗んでこいw」
「任せて下さい、料理長!」
「本人の前で堂々とw」
「キッチンや食材は自由に使って良いと、領主様からのお達しだ。食事準備の時間を外してくれればOKだ。パルはレシピ作りに集中してくれ」
「了解!味見役も大勢いるねw」
「違いないw」
入口の向こうで、メイドさん達が覗いていた。
「足りない食材があれば、2の鐘までに書き出しておいてくれ、特殊じゃなければ翌日届く」
「じゃあ、明日から宜しく」
「宜しくお願いします。明日お待ちしています」
一旦ミリー工房に戻り、明日からの調理器具を作成する。
作るのは2種類のミキサーだ。
小さいミキサーと大きなミキサーを魔道具で作成。
ついでにガラスボウルを2種類用意して完了。
明日は[ホイップクリーム]に挑戦だ。
翌日、朝食準備を終えた厨房で調理スタート。
「今日は[ホイップクリーム]作りをするよ」
「初めて聞きますね。どんな料理ですか?」
「料理前の具材作りかな?色んなお菓子作りに役立つから、作成してみよう」
「わかりました。何を用意しますか?」
「豚皮、砂糖、ミルク、氷、水を使うよ。分量は作りながら探っていこう」
「お菓子作りに豚皮ですか?何が出来るかが想像出来ません」
「だよね~、先ずは豚皮で[ゼラチン]を作ろう」
「豚皮を煮込むと、脂肪部分とコラーゲン部分が分かりやすくなるのが判るかい?」
「この透明な層がコラーゲンという物ですか?」
「そう、このコラーゲン部分を切り分ける」
「結構境目が分かり難いですね」
「慣れれば簡単さ。取り除いたコラーゲンを細かく切り、水で煮るとゼラチンの出来上がり」
「[ゼラチン]って何ですか?」
「温度が高いと溶けて、低いと固まる素材さ。でも、最適な分量が判らないから、記録しながら作ろう」
「記録は任せて下さい」
料理長も興味津々で、手伝いを申し出てくれた。
なので、コラーゲンの作成までをお願いする。
水の量とコラーゲンの量、煮込む時間を記録して行く。
「次は[ホイップクリーム]を作るよ。温めた[ミルク]に砂糖を入れて、混ぜ合わせたら[ゼラチン]を投入」
ここでも[ミルク]の量、[砂糖]の量、[ゼラチン]の量を記録。
温めている間に道具を用意。大きめのガラスボウルに氷水を作り、小さいガラスボウルに混ぜ合わた[ミルク]を投入。
冷やしながらミキサーを使って行く。
「先ずは、小さいミキサーで[ミルク]に空気を含ませる」
数分もすると、体積が3倍程に膨らんだ。
「ここで大きいミキサーに交換。膨らんだけど、まだ水っぽいのが判るかい?」
「分かります、サラサラしてますね」
少し氷を足して、冷やしながら混ぜて行く
「小さいミキサーだけだと時間が掛かり過ぎるし、大きいミキサーだけだと、空気を充分含ませきれないから、2種類のミキサーを使うよ」
「このミキサーも初めて見ますね」
「昨日作ったケド、成功だね」
「レンさんが作ったのですか?魔道具ってもっと大きい物じゃ……」
驚くパルをよそ目に、ミルクが固まってきた。
「そろそろ良いかな?ミキサーを上げて、ツノが立てば出来上がり。これが[ホイップクリーム]さ」
「こんなの初めて見ます。[ミルク]から作ったなんて信じられません」
「俺も料理を長年やっているが、初めてみるぞ。どうやって使うんだ?」
「先ずは味見してみよう。甘さと固さを覚えて行ってね」
「柔らかい。甘さは少しですね」
「少し固いかな?今度は[ゼラチン]を少なく、[砂糖]を増やしてみよう」
「これで固いのか?」
「イメージ通りなら、もう少しフワフワになるよ」
「フワフワがイメージ出来ません」
最初から作るのは難しいと実感したよ。
何度か分量を変更して、5回目には納得のいく[ホイップクリーム]が完成した。
「確かにフワフワで甘いです」
「この食感は初めてだな。口の中で溶ける」
「コレを[ホットケーキ]に塗ったり挟んだりするのさ」
早速、[ホットケーキ]を焼き、冷ましてから[ホイップクリーム]を絡ませる。
「食べ慣れた[ホットケーキ]がどう変わったか試食してみてよ」
「何だコレは、同じ[ホットケーキ]とは思えんぞ」
「フワフワの意味が判りました。口の中で溶けて甘さが広がります」
「とりあえず、[クリームケーキ]と呼ぼうか。ちょっとの工夫で別物だろ?」
「どこがちょっとの工夫だ!」
「考えも出来ない工夫ですよ。豚皮がお菓子の材料なんて」
「じゃあ、練習がてらメイドさんの味見用を作ってね」
入口の向こうで歓声と、何人かが走って行った。
当然、試食には奥様とお子様達もシレっと参加していたよw
「食べ慣れた[ホットケーキ]が別物ね」
「今日の晩餐デザートの予定でしたのに」
「我慢出来ると思いますか?レンさんの作るお菓子は、貴族の女性や子供達を虜にしているのですよ」
「まあ、新鮮味は無くなりましたが、今日の晩餐に領主様を驚かせましょう」
「それは良い考えね、楽しみだわw あなた達も内緒よ」
子供達も頷き、面白そうな顔をしていた。
「どうやって、こんな知識を覚えたんだ?」
「スキルに関する事だから内緒さ」
「それじゃあ詮索出来ないな」
「[ホイップクリーム]は色んな応用がきくから、楽しみにしてくれ」
「あぁ、こちらも覚えさせて貰うよ」
「パルさんはレシピ作成宜しく。[ゼラチン]と[ホイップクリーム][クリームケーキ]を分けてレシピ作ってね」
「わかりました、お任せ下さい。晩餐後に領主様へ出せる様にします」
「宜しく!メイドの皆さんも、外部に漏れない様にお願いだよ」
「「「…「勿論です!!」…」」」
「レン、ボウルはガラスじゃなければ駄目か?」
「いいや、冷やし易い素材のボウルなら大丈夫だよ。今回は、状態が見える様にガラスにしただけ」
「判った。晩餐用にもう少し練習するぞ」
「疑問があれば聞いてくれ」
「助かる」
一同が解散すると、オレは料理長とパルさんに耳打ちする。
2人は"にや"っとして、「面白い」と一言。
その後、厨房の料理人にも内緒で試作を重ね完成させた。
晩餐の時間となり、食事を終えデザートが運ばれる。
「これは初めてのデザートだね」
「レンさんが考えたお菓子です。どうぞお試し下さい」
料理長自ら説明を行う。
「食べ慣れた[ホットケーキ]に[ホイップクリーム]を絡めた[クリームケーキ]となります」
奥様や子供達は、驚く様子を期待している。
「これは凄いね、[ホットケーキ]なのに別物だ!」
驚く様子を見て、奥様も子供達も喜んでいた。
「何と言っても、挟まれたフルーツの酸味が甘さと絡み、より一層芳醇な味になっているね」
奥様と子供達の動きが止まる。
「フルーツですって?」
奥様が料理長を見る。
「あれから、レンと工夫したのですよ。どうぞご賞味下さい」
「お母様、凄いよ、全然違う」
「お母様、味に酸味が加わり、一層甘さが引き立ちます」
「はぁ、やられたわ。まさかあれから、更に工夫するなんて予想外よ。本当に美味しいわね」
してやったりの料理長だったが、メイド達の視線に気づき、寒気が止まらなかった。




