第51話 模擬戦
侯爵様が到着した所でルール説明を行う。
審査は執事が行い、第1試合目の準備が進められた。
相手は騎士団の10名。
若手が選ばれ、見下した目線を送っている。
武器を持っているが、構える気は無いらしい。
「始め!」の合図があっても腕を組んで笑っている。
「自業自得と思って、怒られてくれ」
そう言い放ち、オレは【ネット】で拘束する。
ゆっくり近づくと、ようやく状況が理解出来たのか、慌てて動こうとするも時既に遅し。
相手の喉笛に剣先を突き付け、ゆっくりと押し付ける。
相手の表情がみるみる変わり、恐怖に震えていた。
「早くしないと声も出せなくなるよ」
ボソッと言った言葉に被せて「参った」の声が上がる。
一人ひとり場所を変え、剣先を突き付けると、次から次へと「参った」の声が上がっていく。
10人目の声で試合終了。
騎士団長を見ると、顔を真っ赤にして怒鳴っていたよ。
10分の休憩後、第2試合開始。
騎士20名、魔導士10名の編成だね。
今回は、初めから剣や杖を構えて狙いを付けている。
同じでは面白みが無いので戦法を変える。
「始め」の合図と共に【瞬歩】を使い、魔導士の後ろへ回り込む。
【サンダーショット】で魔導士10名を痺れさせ行動不能にすると、続けて騎士20名も同様に沈める。
麻痺した1人に剣を突きつけると、執事から「それまで!」の合図が聞こえた。
対戦した相手は何が起こったのか判らないまま試合終了となる。
騎士団の顔は赤から青に変わっていた。
痺れが取れてから、10分間休憩を取り3回戦を開始する。
騎士団長は終始怒鳴っていたが、次は参加する様だ。
騎士30名、魔導士20名の50人戦。
魔導士を真ん中に配置し、その周りを騎士で取り囲んだ。
騎士団は一番前だ、其処は評価出来るね。
「始め」の合図と共に、魔導士が詠唱を始める。
詠唱の完成を待ってみるが、確かに遅い。
完成した魔法は【ファイヤーボール】【ウォーターボール】【ウィンドカッター】【ウィンドウォール】【ロックニードル】と様々。
オレを目がけて放つも、スピードが遅く精度も悪い。
少し動くだけで避ける事が出来た。
相手は驚いた様子だったが、次はオレのターン!
相手の上空に小さな火の玉を作る。
騎士達は笑っていたが、魔導士は驚いていた。
だって無詠唱だもんね。
徐々に火の玉を大きくしていくと、笑っていた騎士達の表情が変わる。
騎士団長は動こうとするが、目の前に壁がある様に進めない。
こっそり【結界】を張っちゃった。
次第に膨れ上がる火の玉は、遂に相手全体を覆う大きさとなり、パニックに陥る。
「さあ、防御の準備は良いかな〜」
満面の笑みで言葉をかける。
「5を数えたら落とすからね〜」
相手は益々パニック。
「5」
「魔導士、早く防御を!」「間に合わん、自分で護れ!」
「4」
「団長、どうしますか、ご命令を!」や怒号が飛び交う。
「3」
「もう駄目だ!」「終わりだ」
「2」
既に言葉が無くなった。
「1」
全員が上を向く。
「0」
自分達を覆い尽くす火の玉が落ちてくる。
"ズガガガガァン"
目の前まで接近した火の玉が、突然爆発し飛び散った。
土煙が収まり視界が開けると、全員気絶している。
「それまで!」冷静な執事の声が響き渡り試合終了。
侯爵様を見ると頭を抱えていたので、やりすぎたかな?
侯爵様の提案で4戦目は中止。
「森を焼かれてはかなわん」と言っていたが、時間の無駄だと考えたのだろう。
本当は5戦目も中止となる予定だったが、ある提案で行う事となった。
「5戦目に攻撃魔法は使いませんよ」
その一言が侯爵様の興味を引いた。
「ほう、それでも勝てると豪語するか。よかろう、受けて立とうぞ」
侯爵様は楽しそうだが、騎士達は意気消沈している。
5戦目は防衛戦。
審判の執事を騎士が30分間守り抜けば勝ちとなる。
「最初の5分は動かないので、好きに攻撃して良いよ」
その言葉に"カチン"ときたのか、騎士達の怒りが上昇。
「始め!」の合図と共に、一斉攻撃をかけてくる。
自分の周りに最小限の【結界】を張り騎士達を見ると、騎士団長の鼻息が一番荒かった。
時折魔法も飛んでくるが問題無し。
5分経った頃には息も上り、攻撃の回数も減っていた。
「さて、そろそろかな?」
オレは【結界】をトンネル状に伸ばし、その中を歩いて行く。
攻撃は続いたが、見えない壁に阻まれ、歩みを止められない。
執事の周りには魔導士が配置されていて、周りにはウォールの魔法で壁が出来ているが、気にせず歩いていく。
魔導士達は、突然ウォールに空いた穴を見て動きを止める。
慌てて詠唱を行うが間に合わないだろう。
執事の周りにも【結界】を張っている為、近寄れず焦っている魔導士を横目にゆっくりと進んで行く。
とうとう執事の横にたどり着い時、騎士や魔導士の攻撃が止んだ。
"カキン"と脇腹付近で音がなり、執事を見る。
「流石レンさん、油断はしてくれませんか」
執事がオレにナイフを突きつけていた。
「裏の団長に気を抜くわけ無いじゃないですか」
耳元に小さな声で囁くと、大きく目を開けたが、一瞬でポーカーフェイスに戻り「それまで!」と試合終了を告げた。
「レン殿の完全勝利です」
無情の宣言に相手は膝から崩れ落ちた。
去り際、「何故判ったのですか?」と執事に聞かれ、「身のこなしから、カマを掛けただけですよ。当たりましたか」と誤魔化した。
正体は【鑑定】で判っていたが、正直に答える必要も無いだろう。
「恐れ入りました」と素直に引いてくれた。
屋敷に戻り、侯爵様は呆れた様子でオレを見る。
「まさか無傷とはな。して、何を望む?」
「王家の抑止」
「完全には難しいぞ」
「義理を果たしてくれれば良いよ。後はそれぞれの自己責任」
「賞金首になったらどうする」
「実力は示した。何人いようが無意味。頭を潰すだけ」
「Sランクを差し向けられるぞ」
「問題無い。オレのレベルは158」
「な、何!本当か?」
「今はね」
「今はか」
「信用しなくても良いよ」
「道理であの結果か」
「執事さんに試させてみる?Sランクでしょ」
「もう試している。敵わないとの報告もな」
「流石判断が早いw」
オレは侯爵様の少し後ろに声をかける。
「脅威は取り除く?」
執事は【隠行】を解いて姿を現した。
「敵いませんな、侯爵様への【結界】を解いてくだされ」
侯爵様は驚き、【結界】に手を伸ばす。
「いつの間に…」
「不条理には不条理を、義理には義理を返す鏡になろう。敵対するならご自由に」
爽やかな笑顔を侯爵様に向けると、少し青ざめていた。
「お主はこの国を支配するつもりか?」
「そんな面倒臭い事しないよ。あっ、侯爵様が王様になる?」
「降参だ!王家を説得する方が、被害は少ない」
「何処に逃げても、見つけるスキルもありそうですしな」
「執事さん、鋭いね」
「中止した森林戦闘の意味を考えましたら、判りますよ」
「隠れても無駄か……恐ろしいな」
「強さは引き金にも抑止にもなる。正に鏡ですな」
「判った、我が領はお主に敵対しない事を約束しよう。約束を違えた者は好きにせい」
「ありがとう、友好の証にコレをあげる」
オレは〔ブラクス〕で作成したネックレスを2つ渡す。
宝石と彫金をあしらったネックレスだ。
「ほぅ、見事な宝石の加工だな。誰の作品だ?」
「オレだよ、奥さんの分とで2つ」
「なっ、生産でもこのレベルか」
「敵いませんな。宝石加工の職人は、数える程しかいませんぞ」
「アクセサリー作成は趣味だから、商売はしないよ」
「金や名誉に興味は無いか…」
「そう言う事!ではこれで失礼するよ」
「これからは何かあったら頼れ」
「ありがとう、そうさせて貰うよ」
侯爵様が馬車を出してくれて、オレはガディ商会に戻った。
「レンをどう見る?」
「触らぬ神に祟りなしでしょう。味方に付ける方が得ですな」
「制御は出来んか」
「無理でしょうな。力が違い過ぎますぞ」
「お主でもか」
「誰でもです。私のレベルは118ですが、Sランクトップで122ですよ。ここ迄のレベル差は覆せません」
「何者か?」
「本当に神の使徒か悪魔の使いかも知れませんな。〔サーエンド〕以前の経歴が追えません」
「王家がどれだけ理解するか……」
「レン殿の言う通り、義理を果たせば、後は本人次第では?」
「滅ぼされなければ良いがな」
「余程の事が無ければ、手加減するでしょう」
「慈悲を願うか」
「〈クリスタルウルフ〉然り、このネックレス然り、人を狂わすには充分ですがね」
「試されてるのかもな」
「あり得ますね、監視は続けますか?」
「情報収集位で構わんよ。どうせバレるのだろう?」
「ではそのように」
「さて、騎士団を慰めてくるか」
「今頃意気消沈してるでしょうな」
「これも自業自得か」
2人は深い溜息をついた。




