第32話 アグリカの混乱
翌日、朝食を終えた後、ゆっくりとギルドへ向う。
ギルドに着くと、少し慌ただしい雰囲気が見て取れる。
依頼カウンターにも、まだ冒険者が受付を行っていて、少し混乱した様子。
「何かあったのでしょうかね?」
「受付は混んでるから、買取りカウンターで聞いてみようか」
買取りカウンターへ行くと、職員が慌てて奥に走って行った。
不思議に思っていると、奥からギルマスが飛び出してきて、奥に引っ張り込まれる。
突然、ギルマスから「いい時に来てくれた!」と言われ、嫌な予感しかしなかったのは仕方がないだろう。
「急ぎの予定があるので!」
「逃さん!!」とお約束の"肩ガシッ"をきめられた。
ギルマスを落ち着かせ話しを聞くと、たちの悪い風邪が流行っていて、薬草が足りないらしい。
高熱が続き、薬草でも一時凌ぎらしく、対処方が見つかって無いそうだ。
薬草のストックも少なくなり、緊急依頼をかけているが、職員も罹患して人数不足の状況みたいだね。
オレなら薬草のストックがあり、大量採取が可能と判断して、引っ張り込んだみたい。
「そう言う事なら薬草を提供するよ」
「スマン、恩に着る。落ち着いたら謝礼するぞ」
「今の状況を聞いていい?」
「数日前、数人が高熱・咳の症状で教会に治療しに来たらしい。煎じた薬草で熱は下がったので、いつもの風邪と思っていたが、翌日症状がぶり返したそうだ。」
「一応、薬草で症状は落ち着いたんですね。」
「しかし、次第に同じ症状の患者が運び込まれ、薬草が足りなくなってな」
「ギルドに薬草採取の依頼を出しに来たが、ギルドでもストックが少なく、今に至ると言う訳だ」
「そして、患者はどんどん増えているのかな?」
「当たりだ。教会だけでは人手が足りず、協力者で賄ってるみたいだな」
「とりあえず薬草はあるだけ渡すよ。何処に出したら良い?」
「解体場に出してくれ。どれくらい有るんだ?」
「ん~~300ちょいだね」
「それだけあれば助かる!」
解体場で薬草を渡し、オレとレティシアは教会へ向かった。
「早速、【キュア】の効果が判るな」
「タイミングが良すぎませんか?」
「確かに、しかし今は【キュア】を試して見よう」
「判りました。効果があると良いですね」
教会へ着くなり、院長に面会を求めた。
院長は半信半疑だったが、今の状況でできる限りの方法を試す決断をしてくれた。
2人で大聖堂に向い、一番症状の思い患者をシスターに聞いた。
レティシアが【キュア】を唱えると、今迄苦しんでいた患者に変化が見られ、「苦しく無い」の一言で周りの雰囲気が変わる。
それからは対応が早かった。
症状の重い患者から順番に【キュア】をかけて行く。
シスターや協力者には、受付・整列・連絡の役割をお願いして、治療を進めて行く。
途中、貴族の横入りもあったが、オレが丁寧に断わった。
怒り浸透の貴族に対し、「貴族は横暴なので治療しない!」とキッパリ言うと、他の高位貴族からフォローが入る。
横暴な貴族を窘め、列に並ぶ様叱咤されると、謝罪しながら順番を待つようになった。
ぶっちゃけると、高位貴族の子供と奥さんが罹患してたので、裏でこっそり治し、下位貴族の抑止をして貰ったのさ。
後に、市民からの好感度が爆上がりしたらしく、お礼を言われたよw
時折レティシアを休憩させる為に、オレと交代して治療を続けた。
昼過ぎには治った人も協力し、動けない患者を連れて来てくれた。
夕方になると、症状の軽い患者は薬草で応急処置として、明日来て貰う様お願いした。
高位貴族が関わっているお陰か、皆んな素直に聞いてくれたね。
その甲斐あって、明日には目処がつきそうだ。
夜遅くまで薬草配布を行い、本日は終了。
鐘3つ以降、症状の重い患者は少なくなったので、魔力回復も兼ねて、治療は明日にして貰ったよ
今日は教会に泊めて貰い、明日の打合せをして終了。
シスター、協力者、子供達に[ホットケーキ]を作って労った。
疲れた時は甘い物が良いよね。
上位貴族も一緒に食べたのは、皆んな驚いていたね。
どうやら明日も手伝ってくれるそうだ。
翌日、オレとレティシアは別行動とした。
午前中レティシアは治療を行い、オレは薬草採取に別れる。
先にギルドへ行き、欲しい数を聞いた。
ついでに、ギルマスへお願いして、他の街でも患者がいるのかを確認しておいて貰う。
可能な限り薬草を集めギルドに行くと、応接室に案内された。
「薬草採取すまんな。患者も少なくなってきたから、薬草依頼は今回ので終了だ」
「それは良かった。ところで確認は取れたかい?」
「あぁ、魔道通信で確認したが、どうやらここだけみたいだな」
「ありがとう、参考になったよ。さて、教会に戻ってレティシアと交代するかな」
「何か気になる事でもあったのか?」
「いやぁ、タイミングが良すぎると思っただけだよ」
「偶然にしちゃあ、奇跡的なタイミングだったな」
「奇跡的ねぇ…」
「なんにせよ、2人には感謝してるぜ」
ギルマスと握手を交わし、ギルドを後にする。
(さて、答え合わせといきますか)
教会に戻ると、人集りが出来ていた。
見覚えある光景に、近くの人に尋ねると、「聖女様を見に来たんだ」の返答。
〔ブラクス〕に続き、ここでも聖女フィーバーとなっているので、裏手に周り院長から話しを聞いた。
「昨日治療した方が、お礼をしたいと訪ねて来ました。レティシアは、「お礼は要りません、きっと女神様の恩恵ですね。治療が必要な方がまだいますので、お礼なら女神様にしましよう」と言ったのですよ」
「感動して女神様に祈り始めたんだね」
「そうです。幸いにも治療する方が少なくなっていたので、大聖堂から移動しました。その内の1人が「聖女様ありがとう」と言ったのをきっかけに、噂が広まったみたいですね」
「それで、聖女様を見に来たと言う訳か」
「幸いにも、治療に来た方を邪魔する訳でもないので、お祈りをさせています」
ちょうど良いと思い、オレも女神像への祈りに参加した。
(女神様お久しぶりです)
(やぁ、レン久し振りだね)
(今回は怒ってないのかな?)
(いやだなぁ、いつも怒っているみたいじゃないか)
(前に不貞腐れた女神様がいらしたのでね)
(過去の事は忘れるように!)
軽く話しをした後、気になった所を聞いてみる。
(女神様、レティシアが聖女様と呼ばれるのは問題無いですか?)
(人々の信仰に口出しする気はないよ。いつの時代でも、奇跡的な事があれば聖女・聖人と崇めていたからね)
(奇跡が誘導されたものでも?)
(な、なっ、なにを言っているのかな〜)
(余りにもタイミングが良すぎだね。レティシアが【キュア】を覚え、俺たちが〔アグリカ〕に着いた途端だからね)
(か、考え過ぎだよ!ぐ、偶然じゃないかな?)
(動揺しすぎだってw 本当の事教えて)
(………まいったなぁ、バレているとは思わなかったよ)
(それで、病気を広めたの、理由があるんだろ?)
(本当は話しちゃあいけないんだけどね)
(巻き込まれた側からすると、理不尽なんだが)
(わかったよ。こっちも少し混乱してるから、今回は譲歩するよ)
女神様の話しを聞くと、事の始まりは〔サーエンド〕での奇跡かららしい。
教会で神様への祈りが強まり、厄神とのバランスが崩れたそうだ。
(厄神は対立する神様かい?)
(違うよ。光と影の様な、表裏一体といった感じだね。急激な強い祈りによって、厄神にも神力が注がれたんだよ)
急な神力の流入に驚き、一部コントロールに失敗。
漏れた神力が〔フィッシ〕に津波を引き起こす。
最悪の被害を出さない様、他の神々が威力を分散した結果、広範囲に被害が拡大したみたいだな。
何とか対応に目処がついてきた頃、今度は〔ブラクス〕で聖女様騒動。
また、強い神力が注がれた訳だ。
(だから、オレ達が向う〔アグリカ〕に目を付けた訳か。レティシアも【キュア】を覚えたしな)
(他の神々も、病気の威力を抑える為に力を使い、バランス調整させてもらったよ)
(確かに亡くなった患者はいないらしいな)
(〔フィッシ〕でも同じさ)
(経緯は判った。オレにも責任の一端がありそうだ)
(いいや、レンには感謝してるんだ。信仰の回復をしてくれたからね。だから、巻き込んでゴメンなさい)
(理由が判れば良いよ。それより、これからも同じ事が起きるのか?)
(それは安心して。2回の対応で厄神の階位が上がり、保有神力が向上したからね)
(それはなにより。じゃあ、祈りの人数が増えても問題無いな?)
(今回がイレギュラーだったのさ、我々神々の油断だよ)
(神様も完全ではねぇなw)
(そうだよ!お供えに一喜一憂する存在さw)
(判ったよ、まだレパートリーは少ないぞ)
(話しが判るね〜、お任せするよ)
(どんくらいだ?)
(協力してくれた神様が多いから……たっぷし!!)
(今は、人が多いから夜にな)
(楽しみに待ってる)
オレは一度お祈りを止めて、レティシアを休ませる。
教会に訪れる人も、患者より見物が多いし、もう大丈夫だろう。
シスターに患者が来たら呼んで貰う様にして、経緯をレティシアだけに伝える。
「院長には伝えないのです?」
「今回は、たちの悪い風邪が治まったで良いだろう。信じ難い話しだしな」
「そうですね、説明も難しそうですしね」
「さて、オレはお供えを作るかな」
「私はシャーベットで良いですよw」
「畏まりました聖女様w」




