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小さな箱庭のスノーホワイトは渡り鳥に恋をする  作者: 望々おもち
番外短編集② -side short story-
282/283

第282話 修学旅行〈前編〉(4)

前回の更新から間が空いてしまい申し訳ないです……!



 午後も引き続き、日本史の教科書にも写真つきで出てくるような有名処を見学。とっぷりと暮れた夕刻には大阪に移動し、ホテルにチェックインした。


 もう夜も始まる時間なので街の風景はいまいちわからなかったが、泊まるホテルはものすごく立派な建物だった。


 広いロビーではうちの学年全員が泊まるほかに、大きなスーツケースを引いた旅行客や外国人、家族連れなどもチェックインのためにフロントで手続きをしている。


 ホテルの部屋決めは、生徒に委ねられていた。


 ベッドがふたつあるツインルームと、三つあるトリプルルームのどちらかを選ぶのだが、ツインルームのほうが多いので大抵は二人組。勿論、碧は湊斗と決まっている。


 荷物を受け取り、ロビーで代表者がカードキーを貰ったあとは解散だ。


「私たちは十階だった! そっちは? あとで遊びに行きたい!」


「俺らは六階だ。来てもらうなら寝る前の自由時間とか? 碧もそれでいい?」


「うーん」


 いいかどうかでいえば、よくはない。


「湊斗がいいって言うならつばめさんはいいけど」


「あーはいはい。くるみんは駄目ってね? この彼女想いめー」


「そういうこと」


「でもくるみんが寂しそうにしてるよ?」


 見れば、くるみが抗議したげにじとーっと目を眇めている。


「寂しいって表現だと重たい気がするけれど。私だけのけものだなーっと」


「そういうつもりじゃないけどさ。ええと……でもやっぱ駄目。会うならロビーにしよう」


 百歩譲った提案だった。


 寝る前の自由時間、つまりは寝巻きになっている時間。そんな頼りない格好のくるみを、たとえ分厚いカーディガンを羽織っていたとしても男だらけのフロアに来させたくない。そんなことをしたら、人の彼女にも関わらずこっそり妄想力を働かせるならず者が確実に何人かは現れる。碧もまた男だからこそ想像がつくのだった。


 でもかと言って、のけものにするもの可哀想なのも事実で。せっかくの修学旅行なんだから、くるみだっていつもの四人でお喋りでもして思い出を残したいだろう。


 とまあ、平たく言えば彼女を独り占めしたいがゆえの葛藤なのだが、それが表情に出ていたのかくすりと笑って、くるみは物分かりよく一歩退いた。


「でもいいの。私はただふたりで話せる時間がちょっとでもあったらいいなって、思っただけだから。わざわざ修学旅行中じゃなくても、東京に帰ったらいくらでもあるしね」


 つばめと湊斗が、何も言わずにこっちを見る。


 わがままを引っこめて聞き分けよくされるとものすごく健気なかんじがして、余計に放っておけなくなるのは、碧も同じだった。それが世界一大好きな彼女ならなおさらに。


「ならあとで電話するよ。誰もいない静かなところにいって。それでもいい?」


「え。でも」


「僕が喋りたいんだ。くるみと二人きりで」


 こんな発言、誰かに聞かれてたまるか。なんて気持ちで彼女だけに届くように耳打ちをすると、小さな肩が一瞬くすぐったそうに震える。


 おもざしを上げて返ってきたのは、目を細めて嬉しさいっぱいに口に弧を描かせる様。


 交際半年でも彼女の表情にさえいちいちドキッとしてしまうのは、くるみの表情ひとつひとつに心をかっさらっていく魅力があることの証左でもあり、碧が彼女に惚れていることの証拠でもあった。


「うーん。しかたがないから、それで手を打って差し上げる」


 と、掌を返すくるみ。


「あれ? 手を打っちゃっていいの?」


 さっきとは違う珍妙な発言をした。


 理解がいかずに瞬きをするくるみに碧は続ける。


「これでもだめで、もしもっとわがまま言われたなら、東京に戻ってからも寝落ちするまで電話につきあうつもりだったんだけどなー」


 くるみの目がぱちりと開いた。


「……やっぱり手は打ってあげないことにしようかな?」


「あはは。どっちにしたって電話はいつでもするよ。それでくるみが喜ぶのなら」


「私が喜びすぎて逆にお釣りが出るけどいいの?」


「じゃあそのお釣りは取っておいていいよ。お小遣いにでもしておいて。とりあえずあとで電話かけるね。十一時ごろまではなるべく寝ないようにすること。できる?」


「も……もちろん。今日はクラスの子たちとお喋りする約束なんだから。コーヒー淹れてがんばりますっ」


 修学旅行でもいつもの掛けあいをこなし、一度別れてエレベーター六階のボタンを押す。


 降りてからホールからそう遠くない六○九の鍵を開けて、ルームキーを壁の差しこみ口にいれると明かりが灯った。ユニットバスつきでベッドがふたつ並んでいる、よくあるホテルのレイアウトだ。


 ボストンバッグをソファに放り、揃っているアメニティーを確認してからWi-Fiのパスワードを打ちこむ。制服から、私服のラフなプルオーバーにさっと着替える間、湊斗はどぼどぼと湯船に湯を溜めはじめていた。


「もうはいんの? 早くない?」


「一日歩き回ってくたくたなんだよ」


「明日は今日以上に歩くぞ」


「だからこうして英気をやしなおうとしてるんだろ。あ、バスボムいれていい? つばめから貰ったやつ」


「お好きにどーぞ。はー……僕、今から湊斗連れてホテルの探検行こうと思ってたのに」


「それは彼女と行けよ」


「あっちは今荷物出してゆっくりしたいだろうし、くたくたなんだからいたわってやらないとだろ」


「俺はいたわらなくていいみたいなのやめてくんない?」


「はいはい。僕はそこのローソン行ってくる。ほしいものある?」


 財布を手に持って訊ねれば、ドアから湊斗が上半身だけをにゅっと見せる。


「みんなでシェアするシュークリームとポッキーとのり塩ポテチを頼む」


 なんかやけに注文が多いな、と言おうとしたら、湊斗が先にねたばらしをした。


「今日は真夜中までおきてるだろ? 颯太と夏貴も晩めしの後こっち来るらしいぞ。まあ俺が誘っておいたんだけど」


「らしいって……ああ、さっき言ってた修学旅行の夜の密談をするってこと?」


「そゆこと。いつもはしない深い話をしたいってさ。気の利いたやつヨロシクなー」


 と返事するなり、湊斗は音のくぐもったバスルームにこもってしまった。


 皆の密談と言いつつ結局は、彼女のいる碧と湊斗に話がフォーカスされることになるんだろう。夏貴はあまりそういうのに関心がないようで浮いた話はないし、颯太も当分はそういう事は考えずに志望校に全力投球! と言っていた。野球じゃなくてテニスだけど。


 もちろん大っぴらに話していないだけで、好きな相手くらいはいるのかもしれないし、いないのかもしれない。こんな話ができるのはきっと今日を逃せばとうぶんは来ない。


「将来のこと……か」


 修学旅行の、夜が来る。


 なんとなく高揚した気分のまま、カードキーの片われを手に外へ出た碧は、オートロックの扉をぱたんと閉じた。




 そうして晩ごはんの後の、就寝までの自由時間。


 さっそく颯太たちが集まってきていたのだが、ふたりの視線は、狭い壁づけデスクに盛られたお菓子の山——ではなく、その隣のやたら分厚い鈍器のような雑誌に注がれていた。


「……あんさ。これなに?」


 二人が驚くのもむりはない。雑誌の表紙では、モデルさんが緑のガーデンで白いドレスをまとい、幸せそうに笑っている。男子高生しかいないこの空間に、およそもっとも縁の遠い存在のはずだったオブジェクトなのだから。


「これあれだよね。結婚する人が式場とか探す、あれだよね」


 彼の発言に答えを与えるならば、それはいわゆるウエディング雑誌とかいうやつだ。


 備えつけの湯わかしポットで眠気覚ましにインスタントコーヒーを淹れながら、湊斗が呆れて肩をすくめる。


「碧が、修学旅行のハイテンションで買ってきたんだよ。まったく、こんなでかくて重いやつどうやって持って帰るつもりなんだか……」


 ぶつくさとおかんみたいなことを言う彼に、碧は腕を組んで言い返す。


「だって要るだろ。いつもはしない深い話がしたいって言ったのは湊斗なんだから」


 というのは半分言い訳。


 実際のところは湊斗の言うとおり、ちょっと調子にのった買い物だ。


 昼間に彼から将来に関する相談をされて、あとは夜にそういう話ができるまたとないチャンスが来るということで、気づけばお会計してしまっていたのだ。レジでバイトのお兄さんにまじまじと見られるのも気にならなかったのは、まさしく碧の胆が座っているからに他ならないのだが。


 ちなみにお兄さんは「近頃の高校生は結婚の予習までするのか?」とジェネレーションギャップに震えていたのだが、碧が知るよしはない。


「いやたしかに深い話に違いはないけど……話がさきに行きすぎじゃね?」


「俺らとくだん好きな相手もいないんだが?」


「いないからこそ、真剣に恋愛の話をしたら結局は僕と湊斗ばかり話すことになるだろ。これならふたりの意見も聞けるかなと思って」


「一理あるのが腹立つな……」


 と、夏貴が頬杖をついてページをぱらぱらと捲る。


 やがてその手が止まり、彼が振り返った。


「なあ。なんか婚姻届がついてるんだけど」


 後ろから三人が、並んでくい気味に覗きこむ。


 フェミニンなコーラルピンクのみで印刷がされた、シンプルな届け。


 妻になる人、というおそらくこの世でこの書類にしかないと思しき欄があるそれが、分厚い雑誌の真ん中あたりに挟まっていた。まさか雑誌を買ってこれがついてくるとまでは知らなかったので、碧もちょっとめんくらってしまう。


「これ本物……だよな?」


「婚姻届……初めて見た」


 夏貴から渡されたそれを上から下まで眺めて呟くと、颯太ににんまりとせっつかれる。


「碧っち出してこいよ」


「いや……でもこういうのは同意を貰って出すものだろ。デザインも、くるみさんが好きなのがあるかもしれないし。あとまだ僕ら十七歳だからあと一年しないと出せないし」


 本物は今日初めて見たが、実は婚姻届にはいろんなデザインがあることは知っていた。今回のはおそらくかなりシンプルなもので、探せば花のイラストがあったり、ご当地系のものもあるんだよね——と、ブライダル系の専門学生の従姉が言っていた。


 どうせならば、くるみの好みのデザインで出したい。


「いつか出すこと自体はいいんだ?」


「なーんかずれてるんだよなお前……」


 すっかり呆れ返った彼らの隙間から腕を伸ばして、碧は分厚い雑誌を取り上げる。


「それより三人も、いつか新婚旅行(ハネムーン)に行くならどこがいいとか考えなよ。ほら、このホノルルで十日間のリゾート暮らしとかいいんじゃないか?」


「勝手に話を展開するな!」


「『旅行のときに旅行の話されると旅行だなーってなるな』って言ったのお前だろが」


 夏貴と湊斗に口々に叱られた。


 静かにしんみりしているのは颯太だけだ。


 ぽすり、とふかふかのベッドに腰を落としてぼやく。


「どうしたんだよ」


「いや、碧っちがこうなのはいつもどおりだしおいといてさ……湊斗っちも白綾さんとカップルになってから、ちゃんとそういう話をしてるんだろ?」


「まあ……高三にもなるとやっぱ考えざるをえないというか」


 つばめも、今の交際関係をその時限りのものとはきっと考えていないはずだ。


 卒業してからのことも真剣に考えている。だからこそ湊斗も今日の昼、いつになく神妙な様子で相談をしてきたのだろう。


 その時のことを思い出してか頬をかく湊斗に、颯太は手を後ろに突いて天を仰ぐ。


「高校生なのにすげーよなー。誰かと同じ将来を目指すってさ、格好いいよ」


「いやいや。俺のはただ余裕がないだけだよ。最低限つばめと同じくらいがんばらないといけないからさ。今までだらけてたぶん……」


 褒められた湊斗がまんざらでもなさそうに笑い、それから颯太にばさっと上掛けをかぶせて、肩に腕をのっけながら提案する。


「その誰かが、颯太にも現れると思うけどな。なんならいい人がいれば紹介しようか?」


「え!? 紹介って」


「うちのお客さんだけど、彼氏ほしいって言ってる女子を何人か知ってるよ。余計なおせっかいだし、よければだけど考えてもいいんじゃないか?」


 颯太は珍しく口をはくはくさせたあと、想念するように床を見つめた。


 ややあってぽつりと呟かれたのは、おそらく本音なんだと思う。


「気持ちはすごく有難い……けどさ、俺らこれから受験で忙しくなるわけじゃん? 同年代ならともかく、そうじゃない限りはしばらくは放ったらかしにしちゃうと思う。焦ることでもないし、そういうのは大学に行けたら考えることにしようかなって。まずは目の前のことに全力で打ちこむことにするよ」


「そっか……。まあでも、そうだよな」


「なにより夏貴がいるだけで、わりと毎日充実してるし学校もたのしいから、それでいいんだ。な?」


「え。お……おう?」


 狼狽を見せる彼に、碧と湊斗はいっせいに噴き出した。


「夏貴照れてやんの」


「なっちゃん可愛いなー」


「うるせーばかにするな!! っておいこら撫でてくんなその腕へし折るぞ!!」


 赤くなって憤慨する夏貴を湊斗と碧が一緒になってわしゃわしゃに弄ると、それを見ていた颯太もくつくつと、腹の底からおかしそうに笑った。


 手を振り回して反撃してくる夏貴をあしらい、狭いシングルベッドの隙間でしばらく取っ組みあいのような束の間のじゃれあい。


 体格のアドバンテージで難なく丸めこんだ湊斗が、話の取りまとめをする。


「まあとにかくだ。その婚姻届は取っておいてもいいんじゃないか? こういうのって区役所に出すのと、自宅に記念に保管しておくやつの二枚を貰う人もいるみたいだしさ」


「湊斗っちもやけに詳しくね?」


「俺のはドラマからの知識だから。碧はそういうの見なくてもいろいろ自分で調べてるだろうし、心配ないだろ」


 事実をぴたりと言い当ててきた湊斗に沈黙を貫いていると、ベッドの隙間からぼさぼさになった髪を直しながら、夏貴がのそりと立ち上がる。


「……まあ碧なら、なにをどうしたって勝手に幸せになるだろ」


「なっちゃんも応援してくれるんだ?」


「お前のことはべつに好きじゃないけど……応援くらいならまあ……」


「素直じゃねーなー夏貴っちは今日も。ほんとは碧っち大好きなくせにー」


「あーもう颯太まで……」


 こうして一緒に修学旅行の、今後二度とない夜を深めて、思う。


 湊斗も、颯太も、あいかわらずな夏貴も——やっぱりかけがえのない大事な友達だ。


 いつ出番がくるかもまだわからない婚姻届は、折らないようにノートに挟んで、バックパックに戻した。スマホだけを手に取る。


「そろそろくるみとの約束してた時間だから、ちょっと外出てくるよ」


 なんだかんだ関心を隠さず、雑誌を物珍しげに眺めている三人が、振り返った。


「ちゃんと婚姻届持ったか?」


「だからそれはまだだってば」

 

                *


 その日、ほたるは自宅で、ルカからの電話をじいっと待っていた。


 急に「旅行に行こう」なんて誘われたのがつい昨日のこと。あの時は眠気で会話の中身をよく理解していなかったけれど、たしかほたるが「修学旅行羨ましい!」と魂の叫びをして、それを見かねたルカが情けで誘ってくれたはずだ。


「というか、話の成り行きでなんとなくで決まったわけで、あれが本気かどうかも分からないんだけど……」


 いや、嘘ではないはずだ。ルカはしょうもない嘘は決して吐かない男。


 でも旅行と言ってもせいぜいいつものようにルカが日本に来て、碧とかを交えていつもどおり関東を一周するくらいで終わるんじゃないだろうか。


 旅行というより、ただの恒例のお出かけ。


「それじゃルカちーもつまらないよね。ならやっぱ海外? どこに行きたいか考えておいてって言われたけど……私社会人になってから時間も取れないし、パスポートも期限切れてるし、ルカちーのところまで飛んでいくのはさすがに厳しいのでは……?」


 ならば、そもそも早めに断るべきなんだろう。


 カレンダーを見つめつつぶつぶつとぼやいていると、着信が鳴り響いた。


 もう電話で会議の時間がやってきた。


 なんて事情を説明すべきか迷いつつおそるおそる出ると——


『やっほー。候補考えてきた?』


 と、開口一番、心做しかいつもより明るいかんじのルカ。


 ほたるは衝撃を覚えた。


 ——あれ!? もしかしてルカちー旅行、相当心待ちにしてる!?


 同情で誘ってきたんじゃないのか、というのはそもそも勝手な思いこみによる計算違いなのかもしれないことに気づいたほたるだが、とはいえ時間が取れないことにかわりはない。


 社会の現実は手厳しいもので、取れたとしてもせいぜい連休の三日間そこらだ。


「うう。ええとね……ルカちーごめんなんだけど実は……」


 その事情を正直に話すと、うーんとライトな口調で考えてから、彼はこう言った。


『こっちが日本に行けばいいよね? それなら問題ないでしょ』


「でも……それじゃルカちーばかり負担だよね? いつも来てもらってばかりで」


『別にいいよ。日本好きだし。あとほたるにお金出させたくないし』


「え。私そんな貧乏じゃないよ? ちゃんと社会人になって稼いでるもん!」


『……そういうつもりで言ったんじゃないけどまあいいや。じゃあ日本で、ほたるの行きたいところって何処?』


「私の行きたいところ……」


 制約は最大で三日間。碧は大阪に行っているみたいだが、ほたるのなかでは〈修学旅行と言えばここ!〉とまっさきに思い当たるところがあった。


「じゃあ——沖縄がいい!」


『オキナワ?』


「日本屈指のリゾートだよ。海がすっごい綺麗なんだよね。沖縄そばもおいしーし。私も高校のときの修学旅行で行ったなあ〜」


 眩しい砂浜とエメラルドグリーンの美しい海を思い出しながらうっとりしていると、ルカがさらっととんでもないことを言った。


『へーいいね。でもふたりきりで水着ってやらしくないか?』


「え?」


『え?』


「え……フタリキリ?」


「あれ? 言ってなかったっけ?」


「聞いてないって!」


 ほたるは当たり前のように複数人で行くと思ってた。


 でもちょっと冷静になって考えてみよう。碧は今、受験勉強が大事な時期に差し掛かっている。どう考えても「夏に沖縄行かない!?」なんて誘える空気じゃない。冷たい目で「どうぞ勝手に行ってください」とあしらわれるのがおちだ。


 ——ちょっと考えれば分かることだったのになぜこんな勘違いを!?


 でもこのままじゃまずい。なんとかフォローをしないと、せっかく誘ってくれたルカちーに申し訳ない。


「ちょ待って! 弁明の時間をください! 二十秒だけ!」


『どうぞ?』


「ふたりでもぜんっぜん! ぜんっっっぜんやらしくないよ!! 私は別にルカちのことそういう風に思ってないしっていうかそんなんせっかく友達でいてくれてるルカちに失礼だし!? だから沖縄に行けるよ! 行けるもん!!」


 叫んだ後、妙な沈黙があたりを支配してしまう。


 よもや発言を間違えたかと危ぶんだが、しばしあってから長い沈黙を破って、どこかやけになったようなルカの返事が、重たいため息まじりにあった。


『はぁー。じゃあーいいよ二人で沖縄ね。…………ただしその失礼だのどうこういう発言はあらゆる手段をとって撤回させるから覚悟しておくように』



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