179 『虹の乙女』アナイスの断罪 3
それから2日後、玉座の間でアナイスと会うことになった。
権威の象徴である玉座の間で会うと決めたことに、フェリクス様の対決姿勢が表れているように思われ、緊張が高まってくる。
時間になると、アナイス、彼女の兄であるテオ・バルテレミー子爵、『虹の女神』の強力な信者であるヘル伯爵とその取り巻き達が入室してきた。
10年振りに見たアナイスは、27歳になっていた。
地方で暮らした期間が長いためか、その苦労が顔に表れているように思われる。
じっと見つめていると、アナイスも私に気付いたようで、ギラリとした目で見つめ返された。
静まり返った玉座の間で、まずはギルベルト宰相が口火を切る。
「アナイス嬢、長年にわたるお勤めに感謝いたします。しかしながら、痩せた土地に加護を与える仕事は道半ばとの報告を受けています。本日は何か目覚ましい成果でも上がり、その報告に参られたのでしょうか?」
ギルベルト宰相が言外に『何も成果が上がっていないのに、なぜ王都に戻ってきた』との嫌味を込めたけれど、アナイスは気にする様子もなく、3色の虹色髪を後ろに払った。
「私は多くの土地に、十分な加護を与えました。成果も出ています。私が加護を与えたからこそ、各地の被害はあの程度で済んでいるのです。そうでなければ、全ての土地は何一つ実らない不毛の大地になっていたでしょう」
アナイスの姿は堂々としており、彼女は自分の発言を信じているように見えた。
けれど、ギルベルト宰相はアナイスの言葉にちっとも感銘を受けなかったようで、冷静な表情のまま辛辣な言葉を吐く。
「それはまた、何とも独善的な発想ですね。目に見える成果は何一つ表れていないというのに、悪化した土地を見て成果が出たと主張するのですか。何ともまあ、『虹の乙女』ともあろう者がお粗末なことですね」
さすがに言葉が過ぎると思ったようで、アナイスの後見役として付いてきたヘル伯爵が、怒りに満ちた声を上げる。
「ギルベルト宰相、それはあまりに口が過ぎるのではないか! 相手は虹の女神に選ばれた『虹の乙女』であるぞ!!」
しかし、宰相は気にした様子もなく、淡々と言い返した。
「だからこそです。女神に選ばれたのであれば、正しく、分かりやすい形で与えられた力を示さなければなりません。力を出し惜しみしている場合ではないのですよ」
ギルベルト宰相はアナイスが力を出し惜しみしていないことは百も承知だろうに、残念そうな表情でそう言った。
意外なことに、宰相の嫌味や当て擦りは鋭かった。
普段の宰相は頓珍漢なことばかり言っているので、こんなに辛辣なことが言えるのねとびっくりする。
いえ、そういえば、10年前のギルベルト宰相はこんな感じだったかもしれないわ。
「アナイス嬢はこれまで何度も王都に報告に参られましたが、一度たりとも満足いく結果を持ち帰られたことはありません。私は温厚な宰相ですが、さすがに苦言を呈したくなるものです」
まあ、自分で温厚と言ったわよ。
宰相の厚顔さにびっくりしていると、宰相は手に持っていた書類をぱしりと叩いた。
「既にご自身で確認されているのでご存じかとは思いますが、地方の状況は逼迫しています。このままにしておけば、次の冬には飢える者が大量に現れるでしょう。もはや一刻の猶予もありません」
ギルベルト宰相の言葉を聞いて、状況は思っていたよりも随分深刻のようだわ、とひゅっと息を呑む。
季節は春になったばかりだけれど、次の冬が来るまであと一年もない。
そして、ギルベルト宰相は物事を正確に表現するから、彼が次の冬と言ったら、本当に次の冬には飢える者が出てくるのだろう。
そうであれば、急いで何とかしなければいけないわと思ったところで、ヘル伯爵が好戦的な表情を浮かべた。
一体どうしたのかしらと訝しく思っていると、彼は馬鹿にしたように私を見つめ、声を張り上げた。
「恐れながら、私は『虹の女神』を信奉するこの国の住人として、滅私の心で進言いたします! 女神から与えられた土地が痩せ始めたのは、女神がお怒りだからです! これまで国王陛下の大切な日には、必ず王宮の上空に虹がかかっていました。しかしながら、結婚式では虹がかかりませんでした。虹の女神は王妃を認めていないのです!!」






