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お金

「おい、起きろ。いつまで寝てんだ」


体を揺さぶられ、誰かに起こされる。


「あと5分」


「あ?今すぐ起きねぇとぶん殴るぞ」


仕方なく、嫌がる素振りも隠さずに上体を起こす。

ここのところ落ち着いた長時間睡眠はできていないので、あと半日は眠りたい気分だ。


「今から朝飯を作るからお前も手伝え」


「……ぐぅ」


パコンと頭をはたかれ、観念する。


「しかし、飯まで用意してくれるなんて親切だな」


「一人も二人も大して変わらねぇよ」


「そんなものか?」


立ち上がり、リビングへと向かう。


「お前は取りあえず皿洗いをしてくれ」


昨日よりさらに砕けた口調で話すジュノ。

実はあの後、夕食までいただいて寝床まで用意してもらった。

その際に自己紹介も済ませ、今では少しだけ打ち解けている。


「なぁ、どうしてそんなに親切にしてくれるんだ?」


皿洗いをしながら疑問をぶつける。

ここまで親切にする理由が思い浮かばず、どこか腑に落ちないからだ。


「親切?何を勘違いしているんだ。もちろん金は貰うに決まっているだろ」


「使えないんじゃなかったのか」


「使い道は支払いだけとは限らん。偽造だとしても価値がある」


「なるほど」


納得がいった。

これで堂々と朝飯を食べることができる。


「なるほどって、いいのかよ」


「価値が分かる奴に使ってもらった方が良い。それに、世話になったのは事実だし」


「……はあぁ〜。お前、この国では生きていけないな」


「問題ない。ただの旅人だし」


なんて話していると、隣からいい匂いが漂ってくる。

見たところ、何かの卵と何かの肉を焼き始めたようだ。

別に珍しくもない組み合わせだが、いつもとは違う場所であるというだけで、どこかの映画にでも迷い込んだ気分になる。

完璧にあれの影響だ。


「皿を取ってくれ」


「うい」


簡素だが朝食が完成する。

それをテーブルに並べ、いただきますと一言。

うん、味は文句なく美味い。

肉の塩分と脂が淡白な卵によく合う。

これでご飯があれば文句なしなのだが、そこまで図々しくはなれない。

そもそも、この世界に米があるかも定かではない。


「んで、今日の予定は何かあるのか?案内してやってもいいが」


「まだ金が欲しいのか」


「当たり前だ」


ジュノがあまり裕福ではないのは、住まいを見れば一目瞭然だ。

しかし、ここまで金に執着するのは何か別の理由があるように思える。


「特に予定はないな」


「なら、せめて装備と荷物ぐらい整えたらどうなんだ?旅人なんだろ」


確かに、彼の言うことはもっともだ。

これまで誰の助けもなかったのなら、とうの昔に野垂れ死んでいただろう。

一人では買い物すらできそうにないので、ここまでは素直に力を借りよう。


「うん、それでよろしく頼む」


「決まりだな」


空になった皿を洗面台の水桶に浸ける。

そして、一通りの身支度を済ませた後に予定を考える。

だが、ジュノはすでに目的地を決めているようだ。


「それじゃあ、まずは質屋だな」


「質屋?」


「行けばわかるさ」


それだけを告げられ、出発する。

入り組んだ路地裏を歩き、辿り着いたのは薄暗く怪しい場所。

目の前には内側を黒い布で覆われたガラス張りのカウンターがあり、そこに小さい口があるだけ。

特に看板なども見当たらない。


「本当にここで合っているのか?」


「ああ。その貨幣を換金してもらうなんて、非合法じゃなきゃできないからな」


「え」


いつのまにか犯罪者一歩手前まで来ていたらしい。


「何用だ」


「ん、拾ったこいつを換金してほしくてな」


「少し待ってろ」


低くしゃがれた声が聞こえ、小さい口から細い腕が伸びてくる。

ジュノは慣れた手つきでその手の上に一枚の貨幣を載せる。

なんというか、如何にも悪事を働いているような光景だ。

実際、その通りなんだろうが。


「もしも貨幣が偽物だった場合はどうなるんだ?」


「それはそれで買い取ってくれるさ。使い道はいくらでもある」


まともな使い方をされないのは間違いないのだろうな。

はぁ、生きるためとはいえ、気が重い。


「お、来たぞ」


再度腕が伸び、そこに積まれたのは分厚い紙幣の束だった。


「300万だ。受け取りな」


「これは、本物ってことだな。だが、少し安くないか?」


「不景気だから仕方がない。それに、これを扱うとなるとこっちも危ない橋を渡らなきゃいけねぇ。これが限界だ」


二人は当たり前のように話しているが、こっちは驚きで一瞬声を失った。。

この国の金の価値はわからないが、貨幣一枚で300万は相当ではないだろうか。


「あの、300万って十分高いんじゃ……」


「ああ、大金だ。一昔前ならその倍以上はしたって話だがな」


信じられない。通りでジュノがこんなにも親切になるはずだ。

いや、ちょっと待て。その貨幣はあと十数枚入っているぞ。


「さぁ、さっさと帰れ」


「ま、こんだけありゃ十分か。ユウ、早速装備を買いに行くぞ」


「……ああ」


こんな高価なものを渡すなんて、セミスさんは一体、何者なんだろうか。

そんなことを考えているうちに、あっという間に目的の店へと着く。

路地裏を抜けた大通りに面しているため、先ほどのような危ない店ではないようだ。


入店すると、これぞファンタジーとでもいうような武器や防具が並んでいる。

それらを物色しているのは厳つい人物ばかりだ。


「さてと。まずはそのダサい恰好から変えないとな。ここは服もあるから、防具に合うものも選んでもらえ」


「ダサいって……」


もっと優しい言い方があると思うのだが。


「いらっしゃいませ。本日は何をお求めで?」


鼻下に綺麗な髭を生やした人のよさそうな店員が話しかけてくる。


「こいつの装備一式をそろえてほしくてな。とりあえず服と防具からだな」


「ご予算はどのくらいで?」


「200万だ」


店員の顔が一瞬だけ歪んだが、すぐに笑顔に戻る。

こんな見た目で大金を持っているとは考えもしなかったのだろう。


「かしこまりました。採寸等をしますので、こちらへどうぞ」


「はぁ……」


色々といきなりすぎて戸惑ってしまうが、勝手がわからないので従うしかない。

ジュノの言いなり、加えてこの格好だ。ファッションに無頓着だと思われているようで、恥ずかしい思いになる。


店内と隔離された小部屋で簡単な採寸を終えた後、戻るのかと思いきや、また別の場所へと案内される。

その部屋はメインの店内の騒々しさとは真逆で、静謐な空気が流れており妙に緊張してしまう。

そこには、先ほど並んでいたものとは格が違いそうな服や鎧が一つずつ丁寧に飾られている。


それから数十分ほどかかっただろうか、購入するものが決定した。


「はぁ、まったく、どれだけ時間をかけているんだ。ってなんですでに装備してんだよ」


「持ち運ぶより楽じゃないか?それに、装備しないと意味がないんだぜ」


「は?」


カウンターの前でジュノと合流する。


「しかし、似合っているような似合ってないような、微妙なラインだな」


「まぁ、そうだな」


確かに、自分でも若干衣装に着られている感はある。


現在、着用している服は、青を基調としたスマートなもの。

装飾なども最低限でシンプルなところが良い。

派手な衣装ばかりだったが、このくらいが丁度良いと思い、購入に踏み切った。


そして、腕や足、胸など要所に付けるタイプの防具も装備している。

金属にしては非常に軽く、旅に最適。

強度も十分で、かなり丈夫な素材を使用しているとのこと。

ここまでお膳立てされたら、これにしない理由が思いつかない。


最後に、護身用として一振りの剣も購入する。

刀身は長くはなく、扱いやすい初心者向けのものだ。


「で、肝心の値段はいくらなんだ?」


「店員さんが来てからだな」


「まさか、金額の話はしてないのか?」


「うん」


やってしまったような顔で天を仰ぐジュノ。

予算は200万と言っていたから、てっきりそれに収まるだろうと思っていたのだが。


「お待たせしました」


丁度、先ほどの髭の店員が現れる。


「お会計ですが、全部合わせて230万となります」


「えっ」


少しだけ、足が出ている。

いや、少しではないな。


「はぁ、ほら、丁度だ」


「確かに、頂戴いたしました」


もの凄い形相で睨まれているものの、何の文句も言わずに素直に金を払うジュノ。


「ほら、さっさと出るぞ」


「ああ、うん」


そして何事もなく、店外へと出る。


「あの、よかったのか?予定より多くなってしまったけど」


「いいわけないだろ!予算より多く吹っかけてくるのは常識だから、こっちが主体的に金額を把握しなきゃいけないっていうのに、お前は!!装備しなければまだ何とかなったっていうのに!!!」


そんなの、知らなかった。

と言いかけたが、誰の庇護もない今、それは通用しない。

見知らぬ世界で頼れるものが自分だけなら、こうして説教してくれるだけでもありがたいと思わねば。


「ごめん、悪かった。完全に俺の不注意だ」


「……はぁ、俺の取り分が減っちまうじゃねぇかよ」


ああ、余った金額から報酬を貰うつもりだったのか。


「なぁ、もしあれだったら、もう一枚換金するか?」


「ばか。2枚も持っているなんて知られてしまえばいつ強盗にあってもおかしくないだろ。

こういうのはな、偶然一枚拾いました、ってことにしといた方が良いんだよ」


「それもそうか」


自分の無知を痛感する。

もう少し危機感を感じなければいけないようだ。


「俺の100万が70万になっちまった。あとは貸しにしとくか」


「待て待て。もしかして、全額もらうつもりだったのか?」


「当たり前だろ。誰一人として泊まったことのない俺の家に宿泊するなんて、世界でたった一つの貴重な体験をしたんだからな」


間違いなく世話にはなったが、なんて言いがかりだ。

しかし、反論する材料がこちらにはないので何も言い返すことはできない。


「ま、そう深刻になるなよ」


自分の情けなさに落ち込んでいてもどうしようもない。

ここは気持ちを切り替えて、自分の意思を持つようにしよう。

なんて考えていると、大通りの喧騒がだんだんと大きくなる。


「ん、なんだか騒がしいな」


「何かイベントでもあるのか?」


その騒めきは賑やかと言うより、どこか戸惑いを含んでいるように思える。

波紋のように広がるそれは、俺たちをも飲み込んでいく。


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