美少女と殺し屋免許証
底沼駅。
そこは殺し屋労働組合本部がある駅。
ここは俺たちが住む地域からそこまで離れてもいないが、近いってわけでもない。
そして何故か、良いイメージがない。
何かあったわけでもないけど。
ここはそんな所だ。
商業施設もあるし、商店街、学校、マンションやアパートもあり普通の街だ。
「あの…四つ星さん何か考え事でもしてるんですか?」
不意に戸小谷さんが話しかけてくる。
「あっいや別に、ごめんごめん」
そんな事より今は戸小谷さんと本部に向かっているんだ。
「にしても本月の奴どこいんのかね? 学校行ってもいないし、古本屋行ってもいないしさ」
「本月さん……心配ですね……変な事に巻き込まれていなければよいのですが」
あいつの事だからそれは無いと思う。
「まっどーせすぐ現れるかっ」
本月がいないと淡々と物事が運ぶ。
それはそれで良いのだが、
やっぱり少し寂しい気もする。
それくらい奴の存在感は大きいのだろう。
それか単に暴れん坊なだけか。
そうこう歩いていると、繁華街というには少し寂しい街一番の大通りに出る。
やや大きめの道路を挟んだ商店街といった所か。
あまり昔来た時と変わってない気もする。
「ここを真っ直ぐいって右手のビルだよね?」
「あっ……えっと、そうですよ」
やはり、いつもの戸小谷さんだ。
「四つ星さん”殺し屋免許”持って来ました?」
「殺し屋免許?」
そういえばそうだった。
本部に入るには免許がいるんだ。
流石に”秘密結社”である以上、
合言葉や通行手形のような身内しかわからない秘密の何かが必要だ。
アメリカの諜報機関でもあるまいし、
指紋や目をスキャンするといった高度なセキュリティシステムなんてものあるわけない。
あるのは殺し屋免許というただの固い紙一枚だけ。
もちろん流行りのICチップなんてものは付いていない。
「そうだった、しばらく来てないから忘れてたよ。多分財布に……あったあった!」
「よかったです……四つ星さんの免許証……ボロボロですね」
「そうか?」
今まで気にもした事なかったが、
確かに角は折れてるしやや年季が入っている。
「ええ……随分と更新してないんじゃ……」
「まーな。上位ランクに入るとそういうのいいらしいんだ」
「そうなんですか……知らなかったです」
「あれ、戸小谷さんもザ・シックスの上位ランクじゃなかったっけ?」
何も考えずに話の流れで溢れてしまった。
「私はまだまだ全然です……」
あれ、ザ・シックスのトップランカーって戸小谷さんじゃなかったっけ?
「私もあったことは無いのですが、特殊部のトップランカーは……」
とても重要な事に気がつき、慌てて話しを遮る。
「あぁ!いや!なんでもない!折角だし、今度暇な時にでも新しいやつにしてもらうよ!」
完全に忘れていたが、特殊部通称ザ・シックスのトップランカーは戸小谷ウラであった。
オモテはその事を知らない。
「え、ええ……」
その後も俺は何でもない話題を出して、ウラの話に触れずに本部に向かった。
と、程なくしてそこまで大きくない商業ビルが何棟も見えてくる。
〇〇法律相談所とか△△クリニック、□□建設といった、どこの街でもありそうな会社が入っている。
その中の一つのビルが、殺し屋労働組合本部だ。
表向きは普通の商業ビル。
会社の看板もある。
1F九重歯科医院、
2Fローラン探偵事務所、
3F設楽武術学校、
4F薬師神生花教室、
5F労働組合本部、
6F本月古本倉庫、
あくまで表向きな看板で、
実際は実在しない……と思う。
6Fを除いては。
触れないぞ!絶対に触れない。
6Fだけには触れないぞ!
と、自分のツッコミ衝動を全力で抑えた。
ツッコんだらなんか本月に負けた気がするからだ。
子供が作ったバレバレの即席落とし穴にわざと落ちる感じ。
そんな気がしたから。
本部のビルは工事中のようだ。
完成間近といったところだろうか。
まぁそれもそのはず……
数ヶ月前に”マッドラバーズ”こと戸小谷ウラ&本月愛が本部で大暴れし、
ビルを半分ぶっ壊したと労働組合新聞で一面を飾っていた。
おそらくその修復工事だろう。
とは言っても何が理由でそんなことになったか。
あいつらなら理由なんていらないのかもな。
戸小谷さんを横になんとも言えない感情に見舞われる。
そんな痛々しいビルについて考えていると、本部ビルの隣りの”小さな商店”で男2人と”おばあちゃん”が話し合いをしているのが見える。
しかも、少し揉めているようだ。
戸小谷さんと俺はその商店で話を聞くことにした。
その商店は殺し屋にとって”深い関係”がある場所だから見過ごすわけにはいかなかったからだ。




