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シェフの処方箋  作者: ソルファ
22/27

殺し屋労働組合本部と美少女


今日は戸小谷さんと本部に向かう日だ。

持ち前の足の遅さを考慮して余裕を持って家を出ることにした。


ふと思ったのだが戸小谷さんと2人でどこかに行くなんて、初めてじゃないか?


ファミレスでは一瞬あったけど、あれは本月を待っている間の、あくまで一時的なことだし。


デートか? いやまさか。


ここ最近戸小谷さんと本月とよく一緒にいるが、

正直2人のことはあまり知らない。

本月はまだ知ってる方だけど。


少し緊張する……なんてことはないが、

なんだか少しそわそわする。

高校時代の初デートのそわそわ感を1/4にした感じだ。

ひょっとすると1/3かもしれない。


そんなたわいもない考え事をしながら、駅までの道を歩いている。


今日は風がいつもより強い。

心なしか涼しい気がする。

真夏のこの時期なのに。

なにか不吉なことでも起こったりするのか?

なんて思っていると、程なくして駅が見えてくる。


すると、目の前に清楚感で溢れる女の子がこちらに向かって歩いてくる。


戸小谷さんにしては少し弾けてる感じがする。

徐々に近づいてくる。

その姿が完全に視界に入る距離ーー10メートルくらい。


「スタイルいいな」

思わず声が漏れた。


淡い薄ピンクのスカートには花模様が描かれている。

やや大きめのバスケットバッグ、

真っ黒なスラッとした髪に、

光輝く綺麗な花の髪飾り。

統一感がある。

そこには清楚な美少女の姿が。

神々しく、美しい光を放っているようだ。

天使というか、巫女さんというか。


「まさか? いやないよな」


と半分の期待ともう半分の希望を持ち近づいた。

どちらも同じようなものだが。


そして完璧に顔が伺える距離になって驚いた。

そこに立っていたのはいつもの姿からは全く想像もできない、戸小谷さんだったからだ。


正直、言葉を失った。

いや良い意味でだけど。


なんなんだこのいつもとのギャップは。

言っちゃ悪いがいつもは静かでオドオドしていて地味な女の子だぞ。


しかし目の前にいる戸小谷さんは可愛い、可愛すぎるくらいだ。

頭が混乱して仕方がない。


すると、目の前の美少女=戸小谷さんが話しかけてきた。


「おはようございます四つ星さん」

「お、おう。おはよう。戸小谷さんだよね?」


再度確認。

頭を整理するため必要だったからだ。


「はい。そうですけど」


まあそうだろう。


「なんか雰囲気いつもと違うねっ。いつもより明るいというか弾けてるというか……こっちの方がいいよ」

「そ、そ、そうですか……。恥ずかしいです」


なぜかお互い顔を少し赤らめながら下を向いてた。


高校生の初デートのそわそわ感が1/2まで上昇していたと思う。


暫しの沈黙の後、切り出したのは俺の方だった。


「じゃっそろそろ向かおっか!」


今はラブコメをしている場合じゃないんだ。

そう、もたもたしていられない。

今日は初々しいデートの日なんかじゃない。


死神を倒すのが先だ!

余命を止めるのが先!

ターゲットを、見つけるのが先!

なんなら本月を見つけるのが先!



本月の存在が薄れ始めて来たから、

ちょいちょい名前を出してやる俺の優しさな。

とはいえ自業自得なのだが。



だから先を急がねば。

そう自分に喝を入れるが、横を見ると美少女がそこにいる。

戸小谷さん可愛い。

ダメだ!だめだ!駄目だ!

理性を抑えつつ戸小谷さんと電車に乗り込んだ。


席はまあまあ空いているが立つことにした。

隣になんか座ったら鼓動の音が伝わってしまうかもしれない。


車内は冷房が効いていてかなり涼しい。


「すぐだけど戸小谷さん座る?」

間を持たせるため、何気なく聞いてみた。


「いや、大丈夫です。若者は立っているべきです。座席はお年寄りや必要な人のためにあるのです」


戸小谷さんて意外と真面目というか、なんというか。

最近ピシッとしてきた感じがする。

うまく言葉に表せないけれど。


「そうだよね」


電車に揺られること4〜5分。

俺たちは沈黙していた。

それは気まずいからではなく、

緊張しているからでもない。

ただ、冷静になっているだけなのかもしれない。

今後の不安と期待に。

戸小谷さんは何を考えているか、わからないけど。


「次は〜底沼駅〜底沼駅〜」


俺たちが降りる駅だ。

殺し屋労働組合本部をそばに、

なんとも言えない感情がこみ上げてくる。

生ぬるいような、どんよりした感じが。

そして電車のドアが開き、しばしの極楽の終わりを感じた。

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