憂鬱な朝と調味料
ん?
今誰かに見られてたような。
確かに誰かいた様な……。
気のせいだろうか。
何はともあれ、本月のおかげで一歩前進といったところだ。
何気なく時計を見る。
まだ8時にもなっていない。
出勤時間にはまだ早いと、
戸小谷さんに会いに行って
ターゲットの情報を伝えに行くことにした。
また騒ぎになると面倒だから、
今回は近くの公園で待機することにした。
この公園には静かに揺れるブランコと、
何年も置いてあるせいで
完全に錆び付いているジャングルジムがしかない。
それから今にも壊れてしまいそうな木製のベンチが一つあるだけ。
子どもの頃はここに何度も足を運んでいた。
当時は、まるで光り輝くテーマパークのようにも感じていた。
しかし今はその面影すらない。
子どもの目に映るものはなんでも光り輝いているものだ。
そんな思い出に浸りながら
そのボロボロのベンチに座って
携帯電話をいじり出す。
「もしもし、戸小谷さんはいますか?」
「はい今日は出勤予定ですが、まだ出社しておりません。ていうかあの、失礼ですがその声、四つ星さんですか?」
一瞬の沈黙の後、すかさずそれに答える。
「そうですけど」
「キャーーー! 四つ星さんだって!」
「なになに四つ星さん? 」
「変わってよー! 」
「本当いい声」
「いいから変わりなさいよー」
女性達が言い争いをしている。
ガチャッ……
勢いで電話を切ってしまった。
いつもこうだと反応に困る。
空をぼっーと眺めたり、
通りを歩く人を見て時間を潰していると、
目の前の交差点で信号待ちしてる戸小谷さんを発見。
「おーーい! 戸小谷さーーん!」
トラックや乗用車のエンジン音でかき消される声。
信仰待ちをしている戸小屋さんに向かって、
さらに大きな声を出す。
「戸小谷さーーーん!」
やっと戸小谷さんがこっちに気が付き、
キョロキョロ辺りを確認しながら小走りで向かってくる。
「おは……おはようございます」
「おはよう。昨日は夜遅く呼び出しちゃってごめんね」
「別に……その……全然平気です私。ところでこんなところで何されているのですか?」
戸小谷さんのオドオド感は今日も健在だ。
「いやあ、昨日言いそびれちゃったことがあってさ。ターゲットの特徴なんだけど……」
俺は戸小谷さんにターゲットの特徴を事細かに話した。
「それで、少し痩せてて、身長が俺より少し小さくて、髪はボサボサで20歳前半くらい……」
やはりわがままプリンセスがいないとスムーズに話が進む。
日常の業務連絡のように淡々と話を続ける。
「というわけだ。どう? なんかわかったこととか気づいたことある?」
すると戸小谷さんがゆっくり口を開く。
「あ……いや別に大した事じゃないのですが、四つ星さんの殺し方って、その……毒性の調味料を使って殺す方法でしたよね……どういったものを使ったのかお伺いしてもよろしいですか?もしかしたら何かヒントが……その……」
いつもながらのモジモジも健在だ。
「なんだそんな事か。詳しくは話せないけど赤と紫と緑の調味料を混ぜたものなんだ……」
メモりながら俺の話を聞いている戸小谷さん。
「なるほどですね……具体的にどういった作用があるのですか?」
「今回の依頼内容は急を要するもので、死亡時間操作、行動操作、死亡原因操作の3つの調味料を使った基本調合なんだ。まあ味付けのさしすせそみたいなもんだよ」
「なんですか、そのさしすせそって」
「えっ戸小谷さん知らないの?」
「は……はい。」
「味を決める調味料の頭文字を取ったもので、さは砂糖、しは塩、すはお酢で、せは醤油、そんでもって、そは味噌のことだよ」
決して早く無い鉛筆を走らせる戸小谷さん。
それに答えるかのようにゆっくりと喋る。
「まあそれはそうと、必ず死ぬはずなんだけどな。赤、紫、緑、分量もぴったしだし」
赤、紫、緑の調味料…………
すると、俺の脳裏に電気が走る。




