処方箋同盟と憂鬱な朝
余命残り28日か……
さすがに殺されるとなるとまともにはいられない。
その点、本月と戸小谷さんは普段通りに接してくれるから少しは気がまぎれる。
二人を選んだ理由はそこなのかと、
考えながら早朝の静かな街を歩く。
薄っすらだが遠くから小さな”何か”が物凄いスピードで向かってくる。
嫌な予感。
まだ朝の6時だっていうのに。
ドタドタドタドタ
「おっはよーーーーっ! よーーーつーーぼ……」
その“何か”は俺めがけてすっ飛んでくる。
俺は左へ避けた。
多分、というか確実にわがままプリンセスだ。
ーードガン!!ーー
タクシーに跳ねられる何か。
ーーヒューンーー
遠くへ飛んでいく何か。
帰ってくるのを待つこと1時間。
「痛たたた……全く何すんのよ!怪我でもしたらどうするつもり?」
「それはこっちの台詞だ」
「普通暖かく抱きしめるもんでしょ!もう頭きた! 怒ったわよ!」
朝から相当なハイテンションぶりの本月。
なぜどうしたら、どう育ったら朝からこんな活発に行動できるのか俺にはわからない。
「で、怒ったらどうなるんだ?」
「そりゃあ、身体が緑色になって、大きくなってあんたを捻りつぶすわ」
「それハルクだろ。お前にそんな潜在能力があったなんて知らなかったよ」
「えっへん!」
「褒めてないわ」
自信あり気に、無い胸を張る本月。
ひらひらと風に流されるパステルカラーのスカートと、
胸を張ったことにより強調された貧しい乳、
そして極め付けに大きめの真っ赤なランドセルが俺のロリコン度を上昇させる。
なんとか舌を噛み潰し、理性を保つ。
「で、なんかわかったことあるか?」
すると人を小馬鹿にするように、
その小さな身長で上から物を言ってくる。
「わかったもなにも、あなたからターゲットのスペックを何一つ伺ってないんですけど。これじゃあ、これだけ優秀な私でも探しようがないですわっ」
確かにその通りである。
昨夜は本月にペースを乱されまくったおかげで話しそびれたんだった。
「そうだったな。まず外見は一般的な成人男性よりやや痩せてて、身長は俺より少し小さい。髪型は短くてボサボサ。服装はグレーのパーカーに黒のジャージ姿。歳が20代後半くらいかな……」
目を閉じて真剣な表情で身体を上下し出す本月。
「って耳を傾けながら寝るな!! あたかも『私聞いてますよ?』感出して寝るな!」
またもやペースを乱される。
ーーパチンーー
今度は勢いよく瞼を開き、目を覚ます本月。
そしてランドセルから何かを取り出した。
なんだ何かと思えば
例のGPS機能がついた安心お子様専用携帯か。
本月はおもむろに電話し始める。
「もしもしアルフレッド?」
いやお前の執事だろ。
お前の執事の名前はアルフレッドじゃなくて影野さんだ。
どうやら俺のための電話らしい。
全く可愛いやつだ。
これで生意気じゃなかったら完璧な小学生なんだが。
2〜3分の簡単な受け答えでをした後、携帯をランドセルにしまう。
「ありがとな。影野さんに頼んでくれて」
「え?あ……いえいえとんでもございません。困っている人を見ると……その、助けずにはいられなくて」
なんだか歯切れが悪いプリンセス。
「影野さんに伝えてくれたんだろ?」
すると、本月はばつが悪そうに口を開く。
「いやぁ、アメリカのトイメーカーに明日発売のスパイダーマンの新刊とバットマンのフィギュアをそれぞれ保存用・鑑賞用・使う用で3つずつ手配して置くように言っただけですわ……」
期待を裏切られ、怒りが込み上げてくる。
俺の事なんか全く眼中になく、
お目当てのものを待ち遠しそうにしている本月。
「お前、人を期待させておいてーー!!」
怒りで我を忘れそうになる。
完全に忘れていた。
走って逃げる本月。
それを追いかける俺。
「待てチビ助ーー」
「そうそう、ついでにターゲットを探すよう影野に頼んでおきましたわ」
そう言うと本月は校門をくぐり学校に走っていった。
「ったく、可愛くねえな」
いつも自分勝手に暴れん坊してるくせに、どこかしっかりしててなんだかんだ頼りになる奴、それが本月だ。
少し汗ばんだ身体が心地よく、妙に清々しかった。
どうして素直になれないかな全く。
まっお互い様か。
そう思いながら、本月の通う学校を後にする。
「クククッやってるねぇ。時間がないよ四つ星君」




