机下の空論と処方箋同盟
友達ではないし、友人でもない。
仕事仲間であって同僚ではない。
でもごくたまに会っていることは確かだ。
何故俺と一緒にいるんだろうか。
俺に構ってくれるのだろうか。
本月にも戸小谷さんにも友達はいる筈だ。
そんな疑問がどんどん広がっていく。
「いるに決まってるでしょ!って聞いてんの?」
「あっあぁ。悪い」
「全く、あんたのために集まってあげてるんでしょ」
今、俺のためと言ったか?
普段そんな言葉を発しない本月に内心驚いた。
「じゃあ次、戸小谷さんは何かいい案ありまして?」
「えっ私ですか? そうですね……えっと……えっと……」
本月と戸小谷さんに視線を向ける。
「えっと……」
視線を向け続ける。
「えっと…………」
「って日が暮れちまうわーー!」
大声に合わせてテーブル返しする。
すかさず外を指差す本月と戸小谷さん。
「それを言うなら日が昇るわ、ですわ」
「え、えっと、そうですね……」
その的確な指摘をかき消すかの如く、さらに大きな声を出す。
「やかましいわい!」
ぶきっちょな関西弁が飛び出す。
「あの……四つ星さん……髪、乱れていますよ……少し切りましょうか?」
戸小谷さんは無表情でハサミと櫛を構えている。
「おいちょっと待て!さりげなく俺を殺そうとするな!」
殺し屋は裏切りは御法度だが、
常日頃の殺し合いは腕が鈍らない様にと許可されている。
ウラが出てきたらまずい。
瞬時にメニューで壁を作る。
そこに本月が割って入ってくる。
「ちょっとツボシにトコっちゃんも……」
「一文字抜いて俺を干した小魚みたいに呼ぶな」
「メニューで遊ぶなんて見っともないですわ」
無視だ。
この12歳、倍は生きてる俺をシカトしやがって。
次無視や子供扱いしたらタダじゃおかねえぞ。
「これでも読んで大人しくしてなさい」
クソガキめ、調子に乗りやがって。
こうなったら……と、たかだか12歳の女の子に殺意を燃やしている中、あることに気がつく。
それは本月に渡された本。
確かメニューを取り上げられて、
代わりに渡されたんだっけ。
なになに『真冬の雪山殺人事件』
なんでこんな本が?
頭の中からクエスチョンマークが飛び出しそうになる。
そういえば戸小谷さんも本を渡されてたっけ?
逆さだと読みづらいが、
えっと……『連続放火魔の悪夢』?
「ヨツボに戸小谷さんも良い事件があったら教えてくださいね。私が忠実に再現して(殺して)あげますわ。ちなみにその本には被害者しか出てきませんことよ」
「だから一石二鳥って感じに、戸小谷さんと俺を殺そうとするな。それとヨツボまで言ったらシを言え!」
「あ……是非……」
「やめとけ戸小谷さん」
急な殺し合いが始まるところだった。
この仕事をしているとこういうことは日常茶飯事で
職業病の様なものだから仕方がないが
だからこそなるべくなら避けたいのが心情だ。
「じゃああんたが良いチーム名決めなさいよスルメ!」
誰がスルメだ。
しかし頭を回転させないと延々と出発地点から離れられない。
我に返り真剣に考えた末
ひとつだけ頭に浮かんだ。
それはお世辞にも良案とは言えないが
考えている間に口からこぼれてしまった。
「えっと、”処方箋同盟”とかはどうかな?」
2人とも沈黙する。
流石に投げやりすぎたか。
半ば反省しかけていたところ、
口を開いたのは戸小谷さんだった。
「えっと殺しの依頼の時にもらうあの紙の事ですね。それがないと私達殺せないですものね……いいですね」
やったー。
棚ぼたにもラッキー票獲得だ。
しかし本月の反対票でイーブン。
これで振り出しに戻るというわけだ。
負け戦を覚悟しつつ本月を見る。
「まぁツボシにしては良い案じゃない。中2の思考っていうか、ガキの発想というか、でもまあ妥協点だわね」
貶し方に余念がない。
だがそれ以上に得たものは大きい。
「よし決定!今日からあたし達は処方箋同盟!気張っていくわよー」
仕切り方に磨きがかかったところで
時刻はとっくに深夜2時を過ぎている。
こいつが戸小谷さんみたいに静かになる時なんてあるのだろうか。
いや、ないだろうな。
どんな怪獣も自分らしさを失うときは
もうすでに怪獣ではないからだ。
これが本月らしさであり、
それはいつまでも変わらないでほしい。
「じゃっ続きはまた今度っ!今日は解散!」
まだチーム名しか決まってないだろ!と言いそうになったが今日のところは辞めておこう。
本当気分屋な姫だけれど夜まで付き合わせてしまって、申し訳ない気持ちが先走る。
「お客様ご注文はお決まりですか?」
店員さんが遅すぎる注文を取りに来たところ
俺らの気持ちは少しだけ一つになっていた。
「いや、帰ります」
「帰りますですわ」
「えっと……帰ります」
「は……はい。かしこまりました」
困惑する従業員を背に俺らは店を後にした。




