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第二十一話 豚襲来

 春から夏に季節が移ろうとしている頃。

 再び招かざる客が訪れた。


「どけっ!」

「なっ、なにをっ!?」

「ラーダス男爵閣下のお通りだ! お前達のような下賤な連中はとっとと道を開けろ!」

「っ! お貴族様かよ……」

「ちっ……」


 武装した兵士が停留所に居た冒険者達を追い払う。

 それにしても随分大人数出来たものだ。

 騎士はそこまで多くないものの、兵士だけでも二十人は居るのではないだろうか。

 ……。

 他所の貴族の領地に無断でこれだけの手勢を率いてくるとは。

 ミューゼル家を舐めてるのかね。


「ブヒッ……、ここが……、あの小僧のダンジョンか……」

「……」


 車体全体が金色に輝く馬車の中から現れたのは豚、もといラーダス男爵だった。

 そしてリリーさんだったか?

 奴の婚約者も続いて下車してきた。


「はっ、閣下の目に入れるには相応しくない下賤な連中がいることをお許し下さい」

「ブヒヒッ、仕方あるまい? ここの管理者は、なぁ?」

「ははっ」


 実に不愉快な連中だ。

 それにしても何しにやってきたのだろうか。

 ゲート云々のクレームならダンジョンではなく屋敷の方に来るだろうし。


「我々に任せていただき、閣下は朗報を待っていただきたかったのですが……」

「ふむ、そうは言っても前に送出した連中は帰ってこなかったしの」

「……、我々と彼奴らと比べないでいただきたいのですが」

「すまんすまん、まぁ私も奴らの希望が砕かれるところを直接見たかったからな」


 そう言って口元に笑みを浮かべるラーダス男爵。

 遠巻きに彼らを見る冒険者達は居ないものとでも思っているのだろうか。

 明言はしていないものの、貴族の管理しているダンジョンコアを勝手に破壊すると言っているようなものなのだが。


「そういうことでしたら」


 騎士は一礼するとダンジョンに視線を送った。

 おっと危ない、目があうところだった。


「レオ……」

「ああ、勘違いなら良かったんだけどな」


 あれだけ目立つ集団だ。

 事務所に居てもその存在ははっきりと分かる。

 と言うかはっきりと見えた。

 モーゼのごとく人が左右に避けて彼らのための道を作ったので。


「ベル、しばらくバックヤードで待機しててくれ。あれは俺が対応する」

「ん、わかったわ。気をつけてや?」

「おぅ」


 ベルと受付を交代しラーダス男爵一行が来るのを待ち構える。


「おい」

「……」

「おい! 聞いているのか!」


 一行に先立ってやってきたガラの悪い兵士が声をかけてくる。


「何でしょうか」

「何でしょうか? ではない! ラーダス閣下が畏れ多くもこのダンジョンを攻略するとおっしゃっている!」

「はぁ」

「下等なものには理解できないか? まぁ仕方ない。ともかくそういうことだからダンジョンに入らせろ」


 雇われの分際で随分とまぁ上から目線なことだ。

 下等だの下賤だのと言っているが自分も同じ平民だろうに。


「そうですか、ではあちらで冒険者カードの発行手続きをしてください」

「なんだと!? ラーダス閣下が入らせろと言っているのだぞ!?」

「規則ですので」

「っ! この平民風情が……! 無礼討ちにしてやるぞ!?」

「……、私の名はレオポルド・フォン・ミューゼル。平民ではありませんが?」

「なっ!?」

「聞かなかったことにしてやるから向こうで受付済ましてこい」

「くっ……」


 こちらを睨みつけるものの、結局兵士は黙って冒険者カードを発行しに向かったのだった。


「遅い!」

「お、遅くなり申し訳ありません! しかし受付の小僧が……」

「言い訳はいらん!」

「ぐえっ!?」


 受付を終えた兵士が一行の元へ戻るものの、騎士に殴り飛ばされた。

 ラーダス男爵はその騒ぎを諌めるでもなく

 まったく、もうちょっと大人しく出来ないものか。

 この人混みでも連中の周辺には誰も近づかない。

 お陰で彼らは実に快適にダンジョンへと足を進めたのだった。


「……」


 あー、俺はスルーですか。

 てっきり一言くらい声かけてくるかと思って身構えていたのだが。

 側付きの騎士が俺に入場料を渡し、ネックレスを受け取るとさっさと行ってしまった。

 ラーダス男爵はあれだからともかく、お付きの騎士達は注意力がないのかそれとも知識が足りないのか。

 どちらにせよダンジョンでは早死しそうだなー。

 ダンジョンの説明もまともに聞いてなかったみたいだし。

 まぁいいか。


◆◆◆

◆◆


 薄暗いダンジョンの中を一行は進む。

 中央のラーダス男爵達を挟むように騎士、兵士の順で前後に配置している。

 若干距離を取っているため罠等があっても最悪兵士だけの犠牲で済むというわけだ。


「早くこのダンジョンを潰さねばな」

「はっ!」

「まったく、余計なことをしおって」


 そう言ってラーダス男爵は悪態をつく。


 ダンジョン間を繋ぐゲートが出来てからラーダス男爵領の収益は半減どころではすまない状況になっていた。

 元々ラーダス男爵領にはこれと言った産業がなく、たまたまモブキャラクター家の鉱山から産出された鉱物の輸送ルート上に位置していたお陰でどうにかなっていた部分が大きいのだ。

 それが、ダンジョン間をつなぐゲートが出来たせいで鉱物運搬を行っていた商人やその護衛がまったく領内を通らなくなってしまった。

 通行税はもとより、彼らを当てにしていた宿場町は寂れ、商人達がついでに持ってきてくれていた商品も届かなくなった。

 ラーダス家は創家依頼の危機に直面していたのだ。


「そもそもダンジョンなぞという如何わしいものに頼るなど、貴族としての誇りが足らんのだ。リリーもそうは思わんか?」

「そう、ですね……」

「……ふんっ」


 ゴブリンやコボルドが散発的に出現し彼ら一行に襲いかかるもののあっさりと返り討ちに合う。

 まぁ低層だし、ヒザヤ閣下の部下達の様子を見てから少しレベルを抑え気味にしていることもあり彼らは順調に攻略を進めていった。



「しかし、お貴族様はいいよなぁ。あんな美人を連れてダンジョン散策なんだからよ」

「危険なことは俺達に任せて。な」


 後方で荷物を担いでいた兵士達が不満を口にする。


「それにしても良い体してるよなぁ……」

「閣下も上手くやったもんだぜ」

「いくら閣下の方が上位の貴族といっても、なぁ」

「孤児院だったか?」

「ああ、少し思うところがあるよな」


 そう言って二人は憐憫の眼差しを彼女に向けたのだった。


「まぁ、喋ってるのバレると騎士様達に殴られるからよ……」

「そうだな、少し黙るか。……ん?」


 苦笑い共に後ろに視線をやった兵士は訝しげに首を傾げる。


「どうした?」

「いや、誰か減ってないか?」

「……、そういえば……っ!?」


 そして更に一行の人数は減っていく……。



「まだダンジョンコアには到着せんのか!」

「申し訳ありません。あと半分くらいかと……」


 中層に差し掛かった辺りでラーダス男爵が不満の声を上げる。

 普段まともに運動していない人間が半日近く歩き通しならばそうもなるだろう。


「まだ半分もあるのか……」


 ゲンナリとしながらもここで撤退しようとは考えないらしい。

 一度撤退して明日は途中から始めれば良いものを、そういう頭はないのかもしれない。


「物は考えようですよ、もう半分まで来たと考えれば」

「うるさい! ああ、喉が渇いた。水を持て」

「はっ。おい、そこの部屋で休憩を取るぞ。閣下に水を……?」


 側付きの騎士が後方の兵士に水を催促するが、そこには誰も居なかった。


「どうした、早く水をよこせ」

「そ、それが……」

「何だというのだ」

「後続の兵士共が居ません……」

「なに?」


 ラーダス男爵が気がついた頃には一行は半分にまで減っていた。


「ど、どういうことだ?」

「わ、わかりません」

「わからないではない! 半数も居なくなっているのだぞ!?」

「い、いえ、まだ半数残っていると」

「先ほど貴様が言っていただろうが! もう半分も居ないのだぞ!?」

「はっ」

「一体どうなっているのだ……」


 しかし彼らは気がついていない。

 無くなったのは人員だけではない。


「ともかく、水をよこせ」

「はっ……」

「どうした、早くよこせ」

「そ、それが、物資を運んでいた者達が居なくなっておりまして……」

「なんだと?」


 そう、物資だ。

 何をするにも物資が必要なのは当たり前だ。

 その中でも特に重要な水、それを運んでいた者達までが居なくなっていた。


「ふざけるな!!」

「はっ、すぐさま彼らの捜索に当たります!」

「急げよ、私はのどが渇いているのだ」


 そうして部隊を分割し捜索に出したのだが、彼らは一人として戻ってこなかった。


「……、まだか……」

「はい……」

「クソ! クソクソクソクソクソ!! 私を馬鹿にしよって!! 私は! 私は貴族! それも男爵なのだぞ!?」


 ラーダス男爵はその怒りをリリーに向ける。


「きゃっ!?」

「ふんっ!!」

「も、申し訳ありません……」

「もうよい! お前も何か探してこい!!」

「そ、そんな……」

「良いから行け!!」


 あろうことかラーダス男爵はリリーを一人、ダンジョン探索へ向かわせた。

 女一人、それもまともな装備もない状態で放り出す。

 それは死ねと言っているようなものだと言うのに。



「うう……」


 薄暗いダンジョン中、リリーは一人あてもなく歩く。

 ただでさえ歩き通しで来ているのだ。

 足取りは重く、しかし止めることは許されない。


 そこかしこに感じるモンスターの気配が彼女の精神をすり減らしていく。


「ひっ……」


 また、通路の先をモンスターが歩いていった。

 なんとか見つからずに済んだようだがいつまでこの幸運が続くのか。


「誰か、助けてよ……」


 一人その呟きはダンジョンの暗闇に消えていった。

 助けを求める声は誰にも届かないのだろうか。


 トントン。


「え……?」


 誰かが彼女の落とした肩を叩く。


 捨てる神あれば拾う神在り。

 彼女の助けを求める声は確かに拾われた。


「モ、モンスター!? やめて!? 殺さないで!!」


 しかしそれは人ではなかった。

 振り返った彼女の視界に飛び込んだのは棍棒を片手に持った緑の巨人、トロールだった。


「あー、迷子ですか? ギブアップですかね?」

「え、えっと……、モンスター、ですよね……?」

「あ、はい、モンスターですよ」


 そう、モンスターである。

 ただし、このダンジョンのという接頭語が付くが。

 彼女はトロールに促されるまま、ギブアップしたのだった。



「く……、誰も戻ってこないとは……」

「もう、ギブアップした方が良いのでは……」

「あの小僧相手にギブアップなど!!」

「はっ……」


 その後、彼は四日間ほど粘り、復活の首飾りの効果で地上に舞い戻ったのだった。

 餓死と言うのはダンジョン始まって以来、初めての死因だった様に思う。

 憔悴しきった彼はその後何も言わずに自領に戻っていった。

 うん、その根性だけは認めてやらんこともないよ。


 なお、他の兵士や騎士達は早々にギブアップしていた。

 助けに行かなかった理由?

 入場料が払えなかったんだとさ。

 遠征資金は側付きの騎士が全部持っていたらしい。

 それでも普通は個人の資金から出すものだろうが、まぁそういう関係を築いていたラーダス男爵が悪いのだ。うん。

お読みいただきありがとうございます。

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