2-1 存在しない登録番号
「その個体は――この地球に、本来存在するはずのない生物だ」
・・・
惑星から捕獲されたエイリアンはナンバリングされる。
「キャッチャー」と呼ばれる、エイリアンの捕獲を専門とする職業がある。
彼らは民間の捕獲業者であり、政府や企業、資産家から依頼を受けて、さまざまな惑星でエイリアンを捕獲する。
捕獲したエイリアンには、先端の尖った専用チューブを差し込み、微細なマイクロチップを体内に注入することが義務づけられている。
体内にチップが埋め込まれることで、エイリアンは初めて正式な商品として登録される。
一度埋め込まれたチップは意図的に取り除くことは不可能とされている。
ナンバリングとは、マイクロチップに登録される個体管理番号のことだ。
愛玩用、研究用、資源用などの用途に応じて、アルファベットを組み合わせた識別番号が割り振られる。
・・・
ぼくとジックは保健所に呼び出された。
保健所は4階建ての建物で、かつてこの町にあった警察署を改修して使われている。
髭の濃い男が自動ドアの前に立っている。
男が落ち着きなく身体を揺らすたび、自動ドアのセンサーが反応し、ギコギコと音を立てて開閉する。
油が切れているのか、ひどく耳障りな音だった。
「きたか」
ぼくたちを見ると、すぐに話しかけてきた。
「こっちだ」
男は続けて歩きだす。
廊下から見えるカウンター越しの太った中年の職員は紙巻きタバコをふかしながら、年季の入ったパソコンでエイリアンの通信販売の番組を見ている。
『さぁはじまりました。本日の目玉商品はこちらでえす!犬型エイリアン!首がなんと3つありまあす!…お値段は…』
髭の濃い男は、ぼくたちをかつて拘置所として使われていた檻の前まで案内した。
檻の格子は赤くところどころ錆びている。
ぼくは檻の前に来ると、なぜか緊張した。
「オノデラだ。」
髭の濃い男は唐突に挨拶をする。
「君たちの名前は何だったかな?」
オノデラはぼくの方を見て話す。
オノデラの表情からは、笑みも警戒の色も読み取れなかった。
「ミウラだ、こっちはジック」
ぼくは簡潔に言った。
かつて拘置所だった部屋の角には、先ほどの青い毛に覆われたエイリアンが丸まってこちらをじっと見ている。
脚には包帯のようなものが巻かれ、血が滲んでいた。
「このエイリアンはナンバリングされていない。つまり、どういうことか分かるか?」
「分かるわけない。いちいち、クイズをだしてくるな」
ぼくは苛立ちを隠さず答えた。
「野良のエイリアンを捕まえて、売る。それだけだ。それでいくらになるんだ?」
ジックは重ねて聞く。
「分からないか。このエイリアンには登録番号がないから売れないんだよ。残念だったな。」
オノデラは、こちらの事情など一切気にせず、ほくそ笑んだ。
「ちっ…」
ジックが小さな舌打ちをした。
報酬がないうえに、あの血まで使わされた。
ジックにしてみれば、割に合わない仕事だったのだろう。
オノデラは続けて言った。
「通常なら、チップから原産惑星や地球への到着日、管理施設まで分かる。ペットとか開発用とかの用途も登録されている。引き取り価格は、そうした情報をもとに決まるんだよ」
「それらの情報が、こいつにはないと?」
ジックは言った。
「そういうことだ」
オノデラは青いエイリアンに目を向けた。
「もっとも、正確には少し違う」
「どういう意味だ?」
ぼくは聞き返した。
オノデラは答えず、携帯端末を操作した。
オノデラが携帯端末の画面をこちらに向けた。
通常であれば、識別番号や登録情報が表示されるはずだった。そこには、個体情報を示す項目が並んでいた。
個体識別番号
原産惑星
登録年月日
管理施設
所有者
備考
すべて空欄だった。
「読み取りに失敗しているわけではない。そもそも、照合できる情報が存在しないんだ」
「そんなことがあるのか?」
「普通はない」
オノデラは短く答えた。
「地球に持ち込まれたエイリアンは、すべて登録されている。少なくとも、我々が把握している限りではね」
ぼくは画面を見つめた。
——だったら、こいつはどこから来たんだ?
「登録番号がないなら、この個体はどうなる?」
ジックはオノデラに尋ねた。
「さぁどうしようかねえ。面倒だから、なかったことにする、つまりぃ廃棄しちゃおうか」
「なんだと、ふざけるな。こっちは命をかけて、捕まえているんだよ」
ぼくはこぶしを握りしめた。
「もういい、ミウラ帰るよ。時間の無駄だよ」
「ちょっとまて」
オノデラはすかさず言う。
「少し前に、とあるエイリアンがこの地区の子どもを襲った事件は知っているか?」
——あの事件か。
白昼、突然エイリアンが子どもを襲った。すぐに捕獲され、子どもも命に別状はなかったはずだ。
「そのエイリアンは、同じようにナンバリングされていなかった。そのエイリアンがどうなったか知っているか?」
ぼくは言った。
「おいおい、いつから保健所はクイズショーを開催するようになったんだ?はやく言えよ」
オノデラは少しだけ笑った。
「処分されたと思っていたか?実は、ある女キャッチャーが秘密裏に買い取ったんだよ。まぁ、処分される前に、保健所の職員に賄賂を渡し、秘密裏に引き取ったってことだな。その女キャッチャーはこうも言っていた。」
『ナンバリングされていないエイリアンは、どんな利用をしても足がつかない。利用価値があるってことだ。このエイリアンか?誘拐に使用するのさ。私の血があれば、簡単に言うことを聞かせられる』
ジックの顔から、さっきまでの気だるさが消えた。
「……今、なんて言った?」




