第2章 戦狼伝説
俺の名前は 岡見 ――いや、人には 戦狼 と呼んでほしい。
「岡見」も悪くない名前だ。確かにいろいろと運を運んできた。
だが、戦狼 の方が断然いい。何せ、あれは何百回もの死闘を勝ち抜いて得た称号だからな。
そう呼ばれると、心の底から気持ちがいい。しばらくは悦に入っていられる。
何せ、俺が 戦狼 じゃなかったら――悪魔みたいな「三無」の社会のクズが、南部大学 なんてところに来られるわけがない。
三無とは、金がない、家がない、将来がない。典型的なチンピラだ。
だが、そんな俺にこんな機会が来たのには理由がある。いつも世話になっていた町内会長に、感謝しなければな。
あのデブの町内会長が俺にこの知らせを伝えに来た時、俺は信じられなかった。
空から餅が落ちてくるとはな。
「おいデブ、お前頭おかしいんじゃねえか。俺は一年も学校を休んでて、試験すら受けてないんだぞ。そんな俺を取る大学があるわけねえだろ」
するとデブは汗を拭きながら、慌てて言った。
「いや間違いない、戦狼。これは 南部大学 の推薦枠だ。うちの町内には一つしかない。それをお前にやる。お前への配慮だ」
俺は勉強なんてまるで興味がない。
だが、南部大学 は美女がごろごろいると聞く。今や最も艶やかな国家第一のアイドルも、ここから出たとか。
もし俺が――俺は妄想にふけった。
まあ、あの女たちがどういう方法で有名になったかはともかく、あの動く艶姿と麗しさには、興味はある。
男として、その興味だけは絶やしちゃいけねえ。
人間の極上の果実を好かない男がいるか?
だから俺はデブ会長の好意を遠慮なく受け取った。礼の一言もなしに。
一年のブランクを経て、再びランドセルを背負ったわけだ。
ただ、後で分かったんだが――俺にこのチャンスが回ってきたのは、あのデブ会長の分厚い眼鏡をかけた息子のせいだった。
あいつはパンダみたいな本の虫で、俺はそういう奴が一番嫌いだ。
俺は本が嫌いだから、本の虫は特に気に食わない。
それに、あの親父は町内の住民から金を吸い上げる吸血虫だったから、その息子に八つ当たりしてやるのは当然だ。
だから、あのデブの息子は何度かボコボコにされた。
中でも酷いのは、前歯を二本も折られたことだ。俺の 戦狼 の威名からすれば、これくらいは子供の遊びだ。
しかし、あのデブパンダはそれでビビってしまい、通学にお供を連れるようになった。
町内会長は頭を悩ませた。俺がやったことは分かっているが、証拠は掴めない。
何せ俺には仲間がたくさんいる。デブを殴るのに、俺自身が手を出す必要はない。
そうして俺は、あの町内会長にとっては目の中の棘、毒瘤となった。
彼は俺を排除したくてたまらない。
だが一つは証拠がない。二つは俺みたいな三無人間は、近所の連中に可愛がられているし、国からの保護政策もある。
そこでデブ会長が思いついたのが、この 南部大学 送り込み作戦というわけだ。
俺が去ったのを知ったデブは、一ヶ月も祝杯をあげていたとか。
さて、ここに来て――俺は本当に魅了された。
美人がクソほどいる!
おっ、また来たぞ。
細い腰に大きな尻、しかもグイグイと腰を振って歩いてやがる。
あのピチピチのジーンズが、今にも爆発しそうなほど引き締まってる。
だが、俺がじろじろ見てるのに、なぜ裂けないんだ? 俺は心の中で苛立っていた。
「あの女のジーンズ、裂けそうか?」
耳元で低い声がする。
妄想に夢中だった俺は、つい答えた。
「いや、まだだ。もうちょっと――って、あいたっ!」
言い終わらぬうちに、耳を引っ張られた。
「誰だよ、俺に喧嘩売ってんのは!」
まだ来て三ヶ月だが、俺はもう 南部大学 を制圧していた。手下も山ほどいる。
だが――振り返ってみると、一気に気が抜けた。
ああ、この二人には、どうしても怒れない。
むしろ怒られるのはこっちの方だ。
彼女たちこそ、南部大学 新入生の二輪の院花―― 達美 と 雪里 である。
彼女たちは俺の彼女じゃない。
彼女の付け方なんて、俺は知らない。
ナンパしてベッドに連れ込むのは得意だが、彼女は別だ。
だが、この二人の小娘は、俺の嫁と言い張っている。
自分の亭主を叱る権利がある、と。それが彼女たちの言い分だ。
確かに、彼女たちの赤い実(処女)を奪ったのは俺だ。
だが、それも彼女たちに強姦されたようなものだ。だから心の中ではかなり不満だ。
それでも、全校の男子が誰一人として羨まない者はいない。
何せ二輪の校花クラスの美人だ。
「おいしい?」(達美)
達美 が柔らかい微笑みを浮かべて言う。だが俺は知っている――それは悪魔の微笑みだ。
答えを一つ間違えれば、蜂の巣にされるかもしれない。
「おいしい、おいしい! 嫁さんたちほどおいしい女はいない!」
俺はすぐに二人を抱きしめて、怒りを鎮めようとした。
実際、家柄で言えば――一人は国内大手の 全力グループ の令嬢、もう一人は中央政府の部長の娘だ。
こんなに良くしてくれる必要なんてないのに。
だが、あの事件が起きてから、彼女たちは俺を本物の亭主のように扱うようになった。
今では学外に二部屋一リビングのガーデンマンションを借りて、俺をヒモにしている。
俺がイケメンなのが悪いのか?
それなのに毎日通えと言う。
「お前は悪い男だから、女を守らねばならぬ」と。
だが――女を守るために、毎晩二人揃って俺を強姦する必要があるのか?
ああ、男の尊厳が……俺は昔の仲間たちにどんな顔を向ければいいんだ。
これだけ一緒にいれば分かる――この二人の女はとても扱いやすい。
ちょっと甘い言葉をかければ、何時間も浮かれてる。
今もそうだ。大学の構内で男に抱かれていることすら気づかず、甘い言葉の余韻に浸っている。
「戦狼、止まれ」
実に嫌な声が俺の耳に届き、二人の女も我に返った。
「あんたか――この禽獣、よくも顔を出せたな」
達美 が目を覚ますと、すぐに罵声を浴びせた。
「美姉さん、あの人は元々禽獣ですもの。顔なんて、最初からありゃしませんよ」
雪里 も即座に合わせる。息ぴったりだ。
これこそ、俺がこの二人に手を出せない理由だ。この二人が組んで人を貶めると、本当に死ぬ。
案の定、その声の主―― 呂井 が怒りに顔を歪めて現れた。
あいつは俺よりも図々しい奴だ。
何せ、あいつは春薬を使おうとして、しかも一発で二兎を狙おうとした。
それを俺が邪魔して、先に獲物を奪ったわけだ。彼が怒るのも無理はない。
今度は仕返しに来たのだ。
しかし、二人の娘は少しも怖がらない。
彼女たちは俺の腕前を知っているし、家柄もある。正々堂々なら、誰とでも渡り合える。
呂井 は一人じゃなかった。三人の腰巾着を連れている。
彼らが囲むように近づき、包囲網を敷く。
俺は動いた。
何百回も喧嘩してきた俺は、先手必勝をよく知っている。
俺は二人の細い腰から手を離し、拳を振りかぶって襲いかかった。
容赦はしない。こんな奴らに手加減は無用だ。
最初の一撃は、正面の男の顎を捉えた。
「グッ」という音とともに、その男は地面にバタンと倒れ、動かなくなった。これが俺の狙いだ。
残り二人が左右から襲いかかる。
俺はまったく気にしない。かつては十人の大男を相手にしたこともある。
この病弱なチンピラ二人ごとき、眼中に入らん。
電光石火の反撃で、俺は一方の腹に肘打ちを食らわせ、もう一方の蹴りを片手で受け止める。
そして斜め蹴りを放つ。この一撃を磨くのに、俺は何年もかけたんだ。
小柄な奴には耐えられるはずがない。
だが――その小男は、俺の猛烈な一撃を耐えながら、必死に俺の脚を抱え込んだ。
もう一人も同時に俺の片腕を押さえ込む。
これは予想外だった。
背中に激痛が走る。
鋭い短剣が、俺の体を貫いていた。
呂井 の目が嗜血の光を放ち、手は短剣の柄を離さない。
俺の意識が遠のく。
この場所は――心臓だ。
俺は……死ぬのか?
まだナンパもしてねえぞ。
たくさんの美女を味わっていない。
死にたくない。
その瞬間、その願望がこれほど烈しくなったことはなかった。
耳に、二人の鈴のような咆哮が響く。
泣き声でさえ、俺を酔わせる。
どうやら俺は、本当にこの二人の小娘を好きになっていたようだ。
だが、死ぬ間際になって気づくなんて――遅すぎるか?
俺は沈んでいく。体も、心も。
「綺麗な妹たちよ、永遠の別れだ。俺をナンパできなくて、残念か? 気にするな。来世でまた会おう」
その時――異様な彩色の光が、俺の周囲に立ち昇った。
時空の扉が開いたかのように。
あるいは落雷のように。
人々は轟音を聞き、俺の身体は倒れた場所から消え去った。
ただ、泣き叫ぶ二人の耳には、はっきりとした声が届いていた。
「悲しむな。お前たちが学業を終える日、それが再会の時だ」
その優しい言葉が終わると、すべての異象は消えた。
地面には大きな穴だけが残された。
後に学者たちはこれを「宇宙人の痕跡」と呼び、とんでもない議論を展開した。この穴のおかげで、南部大学 には新しい学問――宇宙人学――が生まれたのだ。
しかし、達美 と 雪里 だけは知っていた。
あれは幻でも偽りでもない。
自分たちの男は、遠い場所へ行った。数年後、必ず戻る――と。
彼女たちは互いの手を握りしめ、共に努力し、共に待つことにした。
彼女たちはこの男を愛している。
まだ言い足りないことが、たくさんあった。
俺は風に漂う感覚を覚えた――いや、魂が漂うのだ。
死体に身体なんてあるわけがない。
この道は、いわゆる黄泉の道だろう。目の前が黄色一色だからな。
惜しいのは、あの二人の女だ。
新婚早々、生き別れとは。
ああ、損した。
俺は両手を頭の後ろに組んで、妄想にふける。
地獄に美女はいるのか?
せめて牛頭馬面だけじゃありませんように!




