第1章 創造主の怒り
虚無の異次元空間――そこに、黄金に輝く荘厳な神殿が浮かんでいた。
これこそが創造主神の住まう唯一の居所である。
だが、今日の創造神殿は異様な賑わいを見せていた。創造主神とその兄である混沌の神が共に居り、しかもその原因は祝い事ではなく――創造主神が、配下の五大女神に激怒していたからである。
「美神、父神に言え。お前たち五人に、そんな大それたことを許したのは誰だ。言え――」
創造主神の気品ある面差しは怒りに歪み、玉座の前に跪く五人の麗人たちに鋭い声を浴びせた。
跪く五人の女たちは、世に「五女神」と称される創世の聖女たちである。
創造主神に仕えること一万年、その神力は創造主神に次ぐものであり――もちろん、創造主神の兄である混沌の神を除いては、だが。
先頭に立つのは、万物の容と呼ばれる美神である。
その艶やかな肢体は、創造主神の背後に座る混沌の神さえも羨ませるほどであった。
混沌の神は数え切れぬほどの女を持っているが、それでもこの古今に類を見ない美の女神を前にして、心の奥底で渇望を覚えずにはいられなかった。
美神こと美祺の顔には深い痛みと悲憤が浮かんでいる。
これは創造主神からの叱責のためではない――彼女自身が、自らの犯した取り返しのつかない過ちを、心の底から悟ったからである。
美祺の後ろに一列に並ぶ四人の女神もまた、後悔の色に染まっていた。
あの時、自分たちは余りの好奇心からこの大禍を招いたのだ。
今、四人の神女たちは悲しげな面差しを同時に上げる。その瞬間、創造神殿は一気に春雨のごとき香艶な情念に包まれた。
第一位は、情愛の神・愛奈である。
彼女の顔は、まるで未だ蕾の如き純情な花を思わせるが、その瞳の奥に宿る成熟した艶めきは、人の心を奪う。
数万年を生きてきた女神は、外見こそ少女のままとはいえ、幾度も変転を経た内なる深みを湛え、その肢体を格別に蠱惑的にしていた。
次の女神は、生命の女神である。世で最も慈悲深いとされる彼女は、今にも泣き出さんばかりだ。
姉妹たちの一時の好奇心が数千万もの命を脅かすと知り、その心は血を滴らせるように痛む。
もしこの瞬間、自分が犠牲となってあの大陸の民を救えるというなら、彼女は喜んで身を捧げるだろう。生命への愛着が、彼女を何よりも慈しみ深くしていた。
その隣は、月の女神である。最も優しいとされる彼女は、常に温かな心を失わない。
しかしこの時ばかりは、彼女も激動を超えた何かに震えていた。
この悲劇の発端となった案を思いついたのは、実は彼女自身である。一時の胸の高鳴りと空想から、姉妹たちに話したことが、美神がそれを実行してしまったのだ。
最後の一人は、精霊の神である。
他の女神が人間の肢体を持つなら、彼女は精霊族の体質である。そのため一際か弱く見えるが、それは外見に過ぎない。
実力で言えば、五女神の中で最も高いのがこの精霊の妹である。精霊の体質は魔法に対して天性の親和性を持ち、特に水元素の運用は神業に近い。彼女もまた、この災厄の間接的な原因を作った一人である。
突然、人群の中に一つの暗影が現れた。
それは本来、天界には存在しないもの――機械女神である。
創造主神にも混沌の神にも属さない、異質なる存在。
その姿は飄逸としており、くびれのある肢体は見事な曲線を描いている。
全身には無数の機械機構が巡っており、七色の鋼鉄が鈍く輝いていた。
その体表には光学迷彩めいた被膜が施されており、本来の色彩を隔絶された暗色に変えている。
生物ではない――機械の躯だ。
創造主神と五女神は、その微かな気配を感じ取っていた。
しかし、激しい感情の渦中にある彼らは、誰一人としてそれを声にしなかった。
――事の起こりはこうだ。
五女神はある時、集いの中で人間の発展の根源について語り合い、各々が異想天開な理論を繰り広げた。
その中で愛奈は、一時の好奇心から、創造主神の契約と戒めを破り、天地万物の繁衍の根本を顧みず、人の倫常・陰陽の序を投げ捨てて、自らが管理する一つの大陸の生活様式を強制的に変えてしまった。
すなわち、女だけの大陸――女兒大陸に変えてしまったのだ。その大陸の名は、豊豊ちゃり大陸という。
男性がいないわけではない。ただ、愛奈は他の大陸で男尊女卑の現実を目の当たりにし、この大陸だけはそれを逆転させた。
男女の生活と地位を完全に反転させ、女が支配する大陸に変え、国々はすべて恋姫の国となった。
「陰陽が交わり、万物は生まれる。だが――お前たちは知っているか? 豊豊ちゃり大陸は、今まさに崩壊の寸前にある。その原因は、お前たちが男女を逆転させたからだ。天地が次第にその均衡を失っているのだ」
創造主神は、宇宙のどこかで均衡を欠いた力が自身の支配を侵食し始めているのを感じ取っていた。
豊豊ちゃり大陸は沈み始めており、この流れを緊急に戻さねば、最後には自らその空間を破壊せねばならなくなるだろう。
創造主神は常々「女の好奇心は象をも殺す」と語ってきたが、まさか彼女たちの好奇心が何千万という人間の命を滅ぼそうとは思わなかった。
五女神はその言葉を聞き、自分たちの遊び心と好奇心がこれほどの大災厄を生んだことを悟った。
女神として生まれ、万物の敬仰を受ける身として、その責任を負わねばならない。
「父神様、わたくしたち姉妹が犯した過ち、豊豊ちゃり大陸と共に滅びる運命を、喜んで受け入れます。どうかお許しください」
五女神は心を通わせ、生死を共にしようと、声を揃えて言った。
「父神様のお言葉を聞いて、これはもう解けぬ縛りだと分かりました。ならば――姉妹でその運命を共にいたしましょう」
「……それは……」
これほど絶世の女神たちが覚悟を語るのを見て、創造主神は躊躇した。
本心を言えば、数万年も共に生きたこの麗しき女神たちを滅ぼすのは、惜しくてならなかった。
「コホン、コホンコホン……」
直後、創造主神の背後から一斉に咳払いが聞こえる。言うまでもなく、彼の妻妾たちである。
「また女に心を揺らすな」という警告だ。それに、こんなにも美しく永遠に変わらぬ五女神が夫の傍らにいることを、妻たちが快く思うはずがない。
彼女たちも五女神が元神まで滅びることを望んではいないが、せめてこの女好きの夫から遠ざかってくれるなら――それもまた良し、というのが本音であった。
創造主神は一瞬固まり、歯を食いしばり、心を鬼にして言った。
「よかろう――父神が、お前たちの願いを認める」
傍らの混沌の神が驚き、すぐに口を開いた。
「おい創さん、それはあまりに酷すぎるだろ。あの五人が灰燼に帰すかもしれないんだぞ。それに本体の神位すら失うかもしれない。もう一度考え直せよ」
混沌の神は本気で心配した。何しろ彼もまた、その五人の女神に憐れみの情を抱いていたからだ。そして――もし手に入れられるなら、という邪な考えもないではなかった。
「ゴホンゴホンゴホンゴホンゴホンゴホンッ!」
今度は先ほどより一段と大きな咳払いが響く。今度は混沌の神の女たちである。
彼女たちも異議あり、だ。混沌の神はここで思い出す――自分の女は創さんよりはるかに多いことを。
当然、その嫉妬の波も凄まじく、混沌の神は五女神のためにこれ以上口を挟むことができなくなった。
「……そうだな、創さん。俺、ちょっと用事を思い出した。先に失礼する。この件はお前が一人で処理しろ。手間をかける」
助けられないと悟った混沌の神は、この美しい女神たちが罰せられる場面を見続けるのも忍びない。
「見なかったことにしよう」
混沌の神が大勢の女たちを連れて退出すると、創造神殿は静けさを取り戻した。
創造主神は怒りを静め、改めて口を開いた。
「よし、ならば父神はお前たちを成全しよう。だが――お前たちも知っておけ。豊豊ちゃり大陸が生き残る唯一の道は、陰陽逆転の流れを戻し、天地の時空を正常に戻すことだ。
さもなくば、私であってもその破壊を止めることはできない。
一つ忠告しておく――豊豊ちゃり大陸に隣接する空間の安全のため、私はその崩壊の直前に、自らの手でその大陸を破壊する。その結果がどれほど重いものか、よく考えよ」
創造主神の最後の言葉は、極めて厳しいものだった。
「わたくしたちは女神として、この大禍を犯しました。罰を受けるのは本心からの願いです。ただ――どうか父神様、わたくしたちに償いの機会をお与えください」
五女神は、自分たちのせいで失われようとしている豊豊ちゃり大陸の数え切れぬ命を思うと、胸が裂けるようだった。
彼らは自分たちを崇拝する子のような存在――それを思わずにはいられなかった。
「よかろう。ならば教えてやろう。
古来、天は上、地は下。陽は上、陰は下。それゆえ空間は正常に繁栄し、万年を伝えてきた。
豊豊ちゃり大陸の厄災を救う方法は一つ――
男女の情愛の真髄を探し求め、豊豊ちゃり大陸に愛の息吹を満たすことだ。
お前たちと、大陸のすべての者たちが男女の情愛を得たなら、乾坤は逆転する。分かったな?」
少しの未練と、少しの愛情を込めて、創造主神は彼女たちに救済の道を示した。
「父神様、ありがとうございます。わたくしたち、必ず努力いたします」
美神は立ち上がり、新たな再生を受ける準備をした。それは過ちを犯した女神ならば誰もが受けるべき罰である。
しかし彼女の顔には、一片の未練もなかった。
「お前たちの神力は封印する。人間界で幾多の困難を経て初めて再び発揮できるようにする。あるいは――生涯、発揮できぬかもしれない。それは運命と機遇次第だ。父神はただ、お前たちの幸運を祈るのみである」
創造主神がそう言い終えると、手を空中に振る。
――「末日神罰」。神の戒律が空間に巨大な獣の口のような裂け目を開いた。
創造主神の手から放たれた無限の神力は五つに分かれ、五女神の胸にそれぞれ浸透する。
まばゆい神光がほとばしり、五女神の背中には一瞬で五対の羽翼が広がった。
神殿全体が風の中の小舟のように揺れ、その莫大なエネルギーの奔流がどれほど猛烈かがうかがえる。
しかし、やがて五つの神力が体内に収まると、女神たちの羽翼は次第に萎み、やがて完全に消え去った。
後に残されたのは、汗に濡れ、よりか弱くなった五人の麗人たちだった。
九割もの神力とエネルギーが一瞬で封印されたため、彼女たちは神族の羽翼を維持する力すら失ったのだ。
赤い光が走り、時空の門が開く。
一陣の風が、病弱な五女神の肢体と――あの黒い機械の暗影もろとも、強く吸い込んだ。
瞬く間に彼女たちはその扉の向こうへと消え去り、時空の門はすぐに閉じられた。
――五女神は、自らが作り上げた豊豊ちゃり大陸の戀姫の国へと送られ、その大陸と生死を共にする運命を課せられたのである。




