心拍数
城門を抜け、人気のない山道へ入る。
先頭を歩く恒一は、何度も背後を振り返っていた。
追手の気配はない。
だが彼女たち、特に綾姫の足取りは目に見えて重くなっている。
巴は歯を食いしばりながら歩き、胡桃も肩で息をしていた。
その時だった。
「っ……」
小さな声とともに、綾姫の身体がふらりと揺れ、前のめりに恒一の背へと倒れるようにもたれかかった。
「申し訳……ありません……」
「大丈夫ですか?」
「ええ……少し足がもつれただけです」
気丈に振る舞ってはいるが、顔色は明らかに悪い。
恒一は額へそっと手を当てた。
「……少し熱いな」
「や、やめてくださいっ……」
綾姫は力なく恒一の手を跳ね除けると、すぐに身を離し、再び歩き始めようとする。
その瞬間、視界の端へ青白いホログラムが現れた。
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【クエスト更新】
救出対象の身体状況が悪化
しています。
《身体機能調査 Lv.1》の取得
を取得して調査することを推
奨します。
取得ポイント:100
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(身体機能調査……?)
恒一は歩きながらメニューを開く。
現在ポイントは500。迷う理由はなかった。
(取得)
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【ポイントの消費】
100Ptを消費しました。
【スキルの取得】
《身体機能調査 Lv.1 》を取得
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再び綾姫へ視線を向ける。
今度は彼女の横へ半透明の情報が浮かび上がった。
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【対象:畠山 綾】
体温 36.9℃
心拍数 122bpm
疲労 94%
精神ストレス 98%
推定歩行可能距離 約100m
推定歩行可能時間 約1分
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恒一は思わず眉をひそめる。
(疲労が限界に近づいてるのか)
その下へ、新たな表示。
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【クエスト更新】
対象の搬送を推奨します
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「姫様」
恒一は綾姫を呼ぶと、その場で屈んだ。
「運ぶので乗ってください」
「……え?」
「このままじゃ倒れます。運ぶので乗ってください」
綾姫は困ったように首を振った。
「そのようなことは……できません」
「遠慮してる場合じゃない」
「ですが……その…殿方にそのような……」
言葉にならない。
巴も苦しそうに息を整えながら口を開く。
「姫様……このままでは、お身体を壊されます」
巴は静かに頭を下げた。
「どうか、今だけはお耐えください」
綾姫は唇を噛み締める。
そして、小さく頷いた。
「……わかりました」
(お耐えくださいって失礼だな)
恒一は心の中で愚痴をこぼした。
綾姫は恒一の背に身を預けた。
「立ち上がりますよ」
そう言って恒一が一気に立ち上がると、綾姫は驚いたのか、慌てて恒一の胸の前に両手を回した。
その瞬間。
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【対象:畠山 綾】
心拍数上昇を検知
122
126
131
138
145
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「……やっぱり限界だったんですね」
恒一はそう呟き、ゆっくりと歩き始めた。
綾姫は何も答えない。
耳まで真っ赤に染まり、汗が額を伝っている。
(ち、近い……この人の背中……こんなにも……)
綾姫は心臓が破裂してしまいそうだった。
もちろん恒一に気があったわけではない。
ただ、彼女はこれまで姫という立場にあった上、見合いも断ってきたため、家族以外の男性にここまで近づくこともなければ、ましてや触れることなどなかった。
しかし恒一は気付かず、疲労によるものだと思い込んでいた。
恒一は山道に入ってもスピードを落とすことなく歩き始める。
自衛隊で鍛えた脚は、少女一人を背負っても歩幅をほとんど変えない。
しばらくして、綾姫がおずおずと口を開いた。
「……そのように、人を背負って長く歩けるものなのですか?」
「まあ、そうですね」
恒一は前だけを見たまま答える。
「昔、人を助ける仕事をしていたので、こういう訓練……鍛錬もしていました」
「人を……助ける?」
「助けたり、戦ったり」
それ以上は語らない。
綾姫は小さく目を伏せた。
(この方は……人を救うために生きてこられたのですね)
彼女は少しだけ柔らかい笑みを浮かべた。
山に入って約20分。
木々の向こうに、朽ち果てた山寺が姿を現す。
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【クエスト更新】
目的地に到着しました。
目的地:廃寺
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寺の門前。
腐臭が鼻を突いた。
地面には僧侶と思われる男の死体が倒れている。
衣は裂かれ、かなり腐敗が進んでいる。
「……あいつらのせいか」
恒一は静かに目を閉じ冥福を祈ると、寺へと向かう。
階段を上がると賽銭箱があり、その奥には扉があった。
その扉を開けようとすると、巴が不安そうに言った。
「バチが当たるぞ」
「ちょっとの間だけです。姫様がよくなるまで」
そう言って広い空間があった。
綾姫を背から下ろすと彼女は安堵したように息をついた。
「少し……休めば……すぐに良く……」
その言葉の途中。
綾姫の身体から力が抜ける。
「姫様!」
巴が駆け寄る。
恒一も駆け寄り、すぐに身体機能調査を起動した。
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【対象:畠山 綾】
体温 38.5℃
心拍数 138bpm
疲労 96%
脱水 中等度
疲労性発熱を確認
早急な処置を推奨します
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「マジかよ……!」




