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城内へ


〜天守閣〜


 賊の頭領、倉木弦十郎は上機嫌だった。

 傾国の美女と名高い畠山家の綾姫を捉えたからだった。

 彼女を欲して言い寄った男は数知れず。その全てを断り、19になっても独り身の姫。

 行き遅れと言う者もいたかも知れないが、倉木にとっては逆に魅力さをより感じていた。

 まだ()()()()

 それを考えるだけで倉木の顔はにやけた。


 さらに、倉木が目をつけていた強気の女剣士も手に入り、異国の娘まで捕まえた。

 

 綾姫もそうだが、捉えた女剣士は倉木の癖を捉えていた。

 この男は、強気な女が折れてよがることに快楽を見出す異常者だった。

 だからこそ、自分に反抗する姫と女剣士は彼にとって楽しみそのものだった。


 そしてもう1人の娘。

 大柄で褐色の肌、縮れた髪の毛の異国の血の女性。

 体つきは姫や女剣士とは違って少し丸みを帯びて豊満で、それが倉木を刺激した。


 倉木は舐め回すように3人の娘を眺めると、手始めに褐色の女性に手を伸ばす。

 褐色の女性はその手をはたき落とすが、倉木は小刀を取り出して、威迫した。


 対抗できなくなった褐色の娘の右胸を鷲掴むと、力強く揉みしだいた。

「痛っ……」

 容赦のない手つきに彼女は顔を歪める。


「やめろ!」

 女剣士は倉木に体当たりするが、巨漢の彼にはびくともせず、逆に顔面を鷲掴みにされた。


「いいねぇ、強気な女は」

 倉木はそう喜びながら女剣士の下腹部へと手を伸ばす。


「もういいでしょう!?」

 姫は男に一喝した。

「わ、私を好きにしていいから、その人たちには触れないで……!」


 倉木は不気味で粘着質な笑みを浮かべると、姫に近づく。

「姫様の体がどんなもんか品定めしてやるよ!」

 着物の両襟を両手で掴み開けた。




〜城内〜


 城内は宴の熱気に包まれていた。


 廊下のあちこちに酒瓶と嬲られた後の無惨な姿が転がっている。

 武装した賊たちの中には疲れ果てたのか壁にもたれ掛かって眠りこけている者もいる。


「ぐはははは!」

 大広間から響く笑い声。

 血と何かが混ざったような、生臭く酸い匂い。


 恒一は柱の陰に身を潜める。

 これが戦争なのだと痛感する。力無い者は力ある者に好きなようにされる。

 いつの時代も同じだ。


 その力無き者達を守れない自分の無力さに怒りを覚えた。


 彼は深呼吸して怒りをおさめると、視線だけを動かし周囲を確認した。


 ――四人。

 二人は座って酒盛り。

 一人は廊下で居眠り。

 もう一人だけが巡回している。


 巡回兵が角を曲がる。


 その瞬間。

 恒一は音もなく床を滑るように駆け抜けた。


 柱から柱へ。

 闇から闇へ。


 途中、開け放たれた部屋の中が見えた。

 武士の遺体が雑に積まれている。

 血に染まった甲冑。折れた槍。

 無造作に放り捨てられた家紋入りの旗。


 酷い匂いだ。


 そしてその横には城の女中達が裸の亡骸となって、積み重なっていた。

 血にまみれた武士や女中の死体に、蝿が粘膜に卵を産みつけていた。


(全滅か……)


 酷い有様だが、足は止めない。


 その時。


「ぎゃははは!」


 広間の前を通り掛かかると、中では数十人の賊が酒宴を開いていた。


 舞を踊らされる裸の女。

 泣き崩れる町娘。

 酒を浴びせられ笑われている。


 恒一の拳に力が入る。


(今助ければ……)


 しかし……


 視界に青白い文字。


 ━━━━━━━━━━━━

 推奨行動:救出対象


 現在交戦は推奨されません

 ━━━━━━━━━━━━


 「……分かってる。」


 歯を食いしばる。


 今ここで暴れれば姫どころかまず自分が死ぬ。


 恒一は悔しさで奥歯を噛み締めながら広間を背にした。


 さらに奥へ。二階。三階。


 上へ行くほど人影が少なくなる。


 だが、一人一人の装備は重く堅固になっていった。


 鎧姿の男たちが廊下を警備していた。

 さすがに正面突破は無理だ。


 恒一は天井を見上げる。


 梁。

 十分届く距離だ。

 音をたたず柱を足場に跳び上がり、梁へ手を掛ける。


 身体を持ち上げ、そのまま腕だけで進む。


 真下を見張りが通る。


 数十センチ下を通過していく。

 兜をつけているため、視野が狭まり気づかないのだろう。


 恒一は微動だにしない。

 すると、やがて足音が遠ざかる。


 静かに着地し、再び奥へと歩みを進める。


 最上階へ続く階段。

 そこだけは空気が違った。


 見張りは四人。

 全員が槍を持ち、酒も飲まず周囲を警戒している。


(ここが最後か)


 その瞬間。

 視界の青い光が、一番奥の部屋を照らした。


 ━━━━━━━━━━━━

 救出対象確認


 反応:3


 距離:約18m

 ━━━━━━━━━━━━


 恒一はゆっくり息を吐く。


 間違いない。

 姫たちは、この扉の向こうにいる。

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