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3/12

救出 0/3


 陽が傾き始める頃、恒一は城下町へ辿り着いた。

 町は死んだように静まり返っていた。商家はすべて戸を閉ざし、軒先に並ぶはずの商品も見当たらない。


 人の姿はあるが、誰も目を合わせようとはしなかった。

 皆うつむき、足早に立ち去っていく。まるで何かに怯えているようだった。

 その静寂を破るように、城の方角からどっと笑い声が響く。


 酒宴。

 歓声。

 女の悲鳴。


 恒一は眉をひそめた。あそこだけは別世界だ。

 視線を上げると、山上の畠山城には無数の篝火が灯っており、昼間のように明るかった。


 まるで勝利を祝う宴でも開いているかのようだ。


 恒一は人目を避けながら歩く。

 知らない土地で目立つのは危険だ。

 周囲を観察するしながら脇道を通っていると、武装した男が巡回していた。

 城下の入口には見張り。城へ続く坂道にも数人。


 各々寝そべったり、酒を飲んだりと統率は取れていなさそうだが、数だけは多い。


 恒一がさらに進んでいくと、軒下に座る白髪の老人が、彼に気づいた。


 そして小さく手招きする。敵意が感じられなかったものの。恒一はすぐさま拳銃を抜けるようにホルスターに手をかけて寄った。

「旦那、あまり見ない格好ですが、旅の者です?」

「まぁ……」

「なら引き返した方がいい」


 老人は震える声で言った。

「この町は、もう人の住む場所じゃねぇ」


「……何があったんですか?」

「昨日、城主様がお討ち死にになった」

 老人は城を見上げる。

「武士もほとんど死んだらしい。残った者も逃げたんだと」

「今じゃ城には賊どもが居座って、毎晩ああして街の女を犯しては酒を飲んでいやがる」

 再び城から歓声と悲鳴が響く。


 老人は顔をしかめた。

「逃げてた姫様まで捕らわれちまった」

 その一言だけで十分だった。あの姫は城にいる。


 恒一は静かに天守を見据える。

 その時、視界に青白い文字が浮かんだ。


 ━━━━━━━━━━━━

 対象:畠山城

 解析開始……

 ━━━━━━━━━━━━


 数秒後。

 城の最上階あたりから、3本の青い光が天に上がった。


 ━━━━━━━━━━━━

 救出:0/3

 ━━━━━━━━━━━━


 「0/3……3人救えってことか?」

 恒一はタメ息を吐いた。


「天守閣ってやつか……? 遠いな」

 彼は人影の少ない路地へ足を向けた。


 夜の帳が下りる頃。

 恒一は畠山城を見上げていた。


 山上に築かれた城には無数の篝火が灯り、宴の喧騒が麓まで響いてくる。


 笑い声。

 酒を酌み交わす声。

 女性の叫び。


 胸の奥がざわついた。

 綾姫は、あの中にいる。


 すると再度視界に青い文字が浮かぶ。


 ━━━━━━━━━━━━

 【緊急クエスト・更新】

 畠山城へ侵入せよ

 ━━━━━━━━━━━━


「言われなくても」

 恒一は小さく呟くと城の観察を始めた。


 正門は論外だった。

 賊たちが酒を飲みながら屯しているとはいえ、二十人以上はいる。

 突破したところで、城中の敵を呼び寄せるだけだ。


 恒一は城の周囲をゆっくり歩き始めた。闇に紛れ足音を殺しながら。

 山城は天然の地形を利用して築かれている。

 切り立った崖。深い堀。急斜面。

 だが防御に絶対はない。

 いくら地形が険しくとも、必ず人が油断する……配置の少ない場所はある。


「……よし、あった」

 北側。崖に面した一角だけ、見張りが二人しかいない。天然の崖を頼りにしているのだろう。


 恒一は岩肌へ手を掛けた。指先で凹凸を探る。

 

 十分登れる。

 訓練で何度も経験した岩場と比べれば、難しい部類ではなかった。

 慎重に身体を持ち上げると、石が一つ転がる。


 見張りが崖側に顔を向けた。

「……なんだぁ? 動物か?」

「当たり前だろ。こんな崖、登れる奴なんざいるかよ」

 二人は笑い合うとすぐに酒盛りへ戻る。


 恒一は動きを止めたまま、呼吸だけを整える。


 焦るな。気付かれていない。

 そう自身に言い聞かせながら再びゆっくり手を動かし登り続けた。

 やがて城壁の縁へ手が届く。

 彼は軽やかに身体を引き上げ、物音を立てずに地面に立った。


 見張りとの距離は数メートル。二人とも背を向けて座り、酒を煽っている

 地面の左側に置かれた刀。

 飲み干されたであろう空の酒瓶が複数。

 大きな笑い声。


 今ならいける。

 恒一は音もなく地を蹴った。


 酒瓶を手に取ると、男1人の頭に向けて振り抜いた。

 割れる音とともに男は力なく崩れ落ちた。


 そしてもう一人が振り返る。

「なん――」


 最後まで言わせない。

 振り返ったと同時に膝を顔面にめり込ませ、倒れたところに覆い被さり、羽交締めにして首を締め上げる。


 男は必死に締め上げる恒一の腕を解こうとするが恒一の腕はどんどんと締まっていく。

 十数秒ほど経つと、男の体はぐったりと脱力した。


 恒一は二人を物陰へ引きずり込み、酒瓶を草むらへ転がす。

 周囲を見渡すが、異変に気付く者はいない。


 城の奥では、まだ宴が続いている。

 恒一は静かに息を吐いた。

「さて……」

 ここからが本番だった。


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