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二話連続投稿します。
デレク夫妻と墓地で別れたアキラは一旦自宅に戻り、ミレーヌの作る朝食を二人と一匹で食べた後、今日からの運び旅に備えてそれぞれが支度をはじめた。
え?猫に支度が必要かって?
それはミレーヌが予定日数の倍の猫缶(一日二回✕日数分)を用意するので問題なし。因みにクロは天然メグロ(地球でいうところのマグロに似た魚)の猫缶が好物なんだけど、それがめっちゃ高いので、猫のクロといえども自分の食い扶持は自分で稼ぐのがタチバナ家でのしきたりだったりする。黒がどうやって稼ぐのか?それは船内のネズミ退治だ。これまでの過去最高退治数は片道五日間の旅で二十八匹だったりする。特に農業製品や食料品の運搬時はどうしてもネズミが湧きやすいので、農業製品や食料品の時のクロは首を回してコキコキさせ、目が獲物を狩る肉食動物に戻るのだ。
それぞれが支度を終えると、ちょうどお昼前だった。
「アキラ、お昼何が食べたい?」
とミレーヌがフライパンとフライ返しを持ってテーブルについたアキラに訊ねると、アキラはしばらく考えて、
「片付けも大変だろうから外で食べないか?」
アキラの答えにミレーヌの目がランランと輝く。
「え、外?本当にいいの?」
「まぁ二時にはデレクのとこに行かなきゃならんからな」
☆☆☆
二人と一匹はシャトル駐機場に停泊させているアキラ所有の六人乗り小型シャトル「タチバナ号」に荷物を運び込むと、その足で宇宙港のレストラン街へと足を向けた。
はじめは「何食べようかな~」とスキップ気味に浮かれていたミレーヌだったが、次第に物静かになった。
「どうした?」
急に静かになったミレーヌにアキラが尋ねるがミレーヌは「なんでもない」と作り笑顔で空返事を返してくるので、周囲を見てみるとミレーヌの奴隷首輪をコソコソ言ってる者達が散見された。
アキラは一つ溜息をつくと、
「あんな連中は無視しとけ。お前の首輪は必ず俺な外してやる」
と、ミレーヌの肩を抱き寄せるアキラ。
「アキラの隣はアタシの場所なんだけどね」
とミレーヌの方の上でボソッとつぶやく黒猫のクロ。そんなクロの言葉は空気の中に消え、二人と一匹は、小洒落たレストランに入っていった。そこはペットも入れる店で女の子にも人気の猫カフェスタイルのレストランだった。
入店してすぐに青髪のボブカットがよく似合うウェイトレスが出迎えてきた。この店のウエイトレスの制服はいわゆるメイドさんである。
「よ、フィー」
アキラはボブカットのウェイトレスに軽く左手を上げて挨拶する。右手はミレーヌの肩を抱いたままである。
「あ、アキラさん!」
フィーの顔にパッと花が咲いたが、アキラの右腕の中にいるミレーヌに気づいて、一気にその花が枯れる。
「なーんだミレーヌちゃんも一緒かー」
「その言い方はないんじゃない?」
クロがフィーにずいと顔を寄せて言う。
「あ、ク、クロちゃん……顔近い……」
「近づけてるんだもの。それよりもミレーヌをちゃんと見ていってる?」
クロの指摘にフィーがミレーヌを見る。ミレーヌの覇気のない微笑みにようやく気がついたフィーは、二人と一匹を席に案内すると、右手にミレーヌを座らせ、その横にクロ、アキラはその対面に座った。
「アキラさん、ミレーヌちゃんどうかしたの?」
フィーがアキラの耳に顔を近づけて尋ねる。
フィーの問いかけにアキラは目線をミレーヌの首輪に送り、その目線をフィーが追う。
「なに?ミレーヌちゃんの首輪にイチャモンつけてきた人がいたの?許せんっっ!」
フィーが噴火する。
フィーは喜怒哀楽がはっきりした少女だけど、その度合いがあまりにハッキリしすぎていて、店でも度々トラブルを呼び込んだりしている。まぁ呼び込むというよりも、十七歳というお年頃の割にグラマーなその容姿にトラブルが近づいてくるだけなのだが……。まぁそのトラブルとはセクハラ行為だったりする。また女の子の生足が拝めるという点でも猫好きでもない男の劣情を掻き立てているのかもしれない。
フィーはアキラたちから注文も受けてないのに注文用タブレットをこれでもかと操作したかと思えば、「ちょっと待っててね」と言葉を残してそのままダッシュで立ち去った。文字通り嵐のようだった。
十数分後、ワゴンに大量の料理を載せてフィーが戻ってくると、ワゴンに載った料理をテーブルに所狭しと並べ始めた。
その料理とは一級生牛肉ステーキにミートソースパスタ、子羊のシチューに焼きたてバケット、牛肉ハンバーグ、ショートケーキにいちごのクレープ、チョコパフェ、そしてクロ用に生メグロの猫用ステーキを床に置く。
先程まで落胆していたミレーヌもテーブルの上に次から次へと乗ってくる料理の数々に顔が引きつっている。対するクロは好物が出てきたことで目がハートになって今か今かとよだれを垂らしてアキラを見ている。
「今日は私のおごり!ミレーヌちゃんの好きなもの持ってきたからたくさん食べて!」
と、フィーは「良い仕事したー」な表情で額に浮かんだ汗を袖で拭う。
「い、いや……あのなフィー……流石にこれは食いきれない……」
「大丈夫!食べきれない分は特別にお持ち帰りオーケー!スイーツはテイクアウト用に作り直し可能!」
と、胸の前に腕を突き出してVサインをだしてウィンクまで決めるフィー。
こうなったフィーは誰に求められない。そう店長にさえも――。
「はぁ、わかったよ。だけど代金はしっかり払う。フィーに貸しは作っても借りは作りたくないからな」
と、アキラが溜息をつきながらフィーに言う。
「ブーブー、少しは私もアキラさんに貸し作りたい」
「ダメだ」
「くー、その即答がまた良い!」
と、フィーが腰をくねらせる。
「フィー、お前だいぶ変態っ気が増したな……」
「そ、れ、は、アキラさんのせい」
「はいはい、じゃ食うぞ」
「はい、いただきます」
「やっと、やっと生メグロのステーキが食べられる……」
アキラがハンバーグをとミレーヌが牛肉ステーキを食べ始める。が、「よし」がかからないクロはその口からダラダラとよだれを垂らし、床にクロのよだれが水溜りを作っている。
(ま、まだかしら……ああ、生メグロちゃん、今食べてあげるからねー……でもなかなか「よし」がかからないわね……)
クロがジーッとアキラを見つめる。そのクロの自然に気づいたアキラが
「あ、すまんクロ。食べていいぞ」
しかし、クロは食べ始めない。
「アキラさん、それじゃクロは食べないよ」
「あ、そっか。クロ、よし!」
(やっとキター!ハァハァ、どこから食べてあげようかしら!)
「よし」のかかったクロが生メグロの猫用ステーキにガッツキ始めた。
(やっぱりメグロは生よねー、生に限るわー!)
生メグロの猫用ステーキにご満悦のクロであった。




