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 昼食も食べ、代金も払ったアキラ一行は食べ切れなかった料理とスイーツをテイクアウト用に包んでもらい、フィーのブーイングをBGMに店を後にした。

 ミレーヌはもういつものミレーヌに戻り、アキラの左腕に抱きつくようにして腕を組み、左手にはスイーツと料理が入った箱を持っている。


「さて、その箱を一旦シャトルの冷蔵庫に入れてからデレクのとこに行くか」

「うん!」

「ニャー!」


 なぜか猫語で返事をするクロをスルーして二人と一匹はシャトルに一旦戻り箱から料理とスイーツを取り出してそれぞれ冷蔵庫に仕舞い込むと、デレクの会社に足を向けた。


 デレクの会社である「マカヴォイトランスポーツ」は、宇宙港の四階にあり、そこへ行くには中央エレベーターで上がるか階段で上がった先の四階フロア全部が彼の会社である。

 アキラたちは中央エレベーターで四階に上がりマカヴォイトランスポーツの入り口をくぐった。社内に入ってきたアキラに昔なじみの顔それぞれに挨拶をしながらデレクのいる社長室に歩を進める。

 社長室の前には秘書のメリッサ・バートンが秘書席についている。

 メリッサ・バートンはデレクの腹違いの妹であり、歳は三十路を迎えたばかり。真っ白なスーツに赤いスカーフを首に巻き、赤渕眼鏡をかけていてキャリアウーマンを地で行ってるような人であり、そのクラマーなプロポーションが野郎スタッフ共の視覚的オアシスとなっていた。あくまで視覚的な意味で――


「こんにちは、メリッサさん」

「アキラくん!」


 アキラが声をかけると、メリッサが立ち上がって机越しにアキラをそのふくよかな胸に抱きしめた。とたんミレーヌとクロの額に怒りマークが。


「ちょっ……メリッサさん!?」


 その場から離れようと足掻けば足掻くだけアキラの顔がメリッサの胸に埋もれていく。その女性特有の甘い匂いにクラクラっとなりかけたとき、アキラの体がメリッサから引き離される。


「アーン、アキラくーん」

「ちょっとメリッサさん!アキラさんが嫌がってます!」

「本当に油断もスキもない!」


 アキラを引き離したミレーヌは、アキラの前に仁王たちになる。そこでマリッサとミレーヌ、クロの間にバチバチっと何かが走った気がするけど気のせいか……。


「ミレーヌちゃんのようなお子様よりも私のような大人がアキラくんには必要なの」

「私もう子供じゃないもん!」

「ニャニャー!」


 再びミレーヌとメリッサの間に火花が飛ぶ。そして何故か猫語のクロ……。


「おいおいどうしたんだ?」


 女の戦いの場に社長室からデレクが出てきたのだが……


「お兄ちゃんは引っ込んでて!」


 というメリッサの鋭い眼光にデレクはおずおずと社長室に引っ込む。


「お、おいデレク、俺を置いていくな!」

「すまんな、アキラ……」

「おーい……」


 そしてそこにふらーりと現れるシルディア。

 シルディアは火花を散らす二人と一匹に詰め寄るとその手に持つ扇子で二人と一匹の頭を叩いた。


「何するんですか、お姉様……」

「何するんですかじゃありません!メリッサちゃん、今度デレクの仕事の邪魔したら痛ーいオシオキって言ったわよね?」


 まるで背中に「ゴゴゴ……」という擬音を背負ってるようにメリッサに迫るシルディア。対するメリッサは段々と小さくなり今や机の下に隠れそうなほどになっている。


「今日のメリッサちゃんのお夕飯はナシにします!」

「そんなぁー」

「これはデレクとアキラちゃんの仕事を邪魔したバツです!それになんですか、ミレーヌちゃんにまでイジワルをして!」

「謝罪しますから、ご飯だけはぁー……」

「これは決定事項です!」


 秘書席でシュンとするメリッサ。しかしなんだか小動物みたいで可愛らしくも見える。


「アキラちゃんたちはデレクに用があるのでしょう?」


 アキラを振り返ったシルディアはそれまでの一件がなかったかのようにアキラたちを社長室に通す。


「あ、ありがとうございます、シルディアさん」

「どういたしまして」


 と、にっこり微笑むシルディア。

 その対称な秘書でありシルディアの義妹メリッサ。やっぱり食の威力は凄いと思うアキラであった。


 アキラ一行が社長室に入ると、そこには社長席でその巨体を小さくしているデレク。そのデレクを一声で蘇らせるシルディアを「影の社長だ」と思うミレーヌであった。

 デレクが持ち直すまでしばらくあったがそれは置いておいて……。


「それで、俺達に運ばせたいものってなんだ?」


 デレクが元通りになったのを確認したアキラはそう尋ねた。


「そんなにヤバイものじゃないから気にしなくても良い――いや、連中にとっては――」

「はっきり言ってくれよ」

「わかったよ。今回お前さんたちに任せるモノは核融合発電装置だ。これをラマ星系第五惑星ダイアンまで運んでもらう」

「ラマ星系の第五惑星っていや、ついこの間銀河連合がつ入植希望者を募っていた星じゃねーか」


 ラマ星系はこのパウロ星系から六・九光年離れた入植星系であり、その第五惑星ダイアンは銀河連合科学局がつい二年ほど前にテラフォーミングに成功した全く新しい入植惑星である。銀河連合が入植希望を出したのが約一年前。現在までに各星系から約百万人ほどが入植している状況で、電力事情が枯渇状態の現状がある。


「アキラの言うとおりだ。そして今回運んでもらうこの発電装置はまだ核燃料は入れていない状態だ。核燃料は別に運ばせている」

「なら特別に放射線管理はしなくても良いってことか?」

「そのとおりだ」

「了解した」

「二人は荷物に依存はない?」

「私はアキラがやるっていうことに反対はしない」

「アタシもしない」

「じゃ決まりだな」


 アキラに同調するミレーヌとクロ。

 

「じゃあコレな」


 と、デレクがアキラに二つの封筒を渡してきた。


「一つはステーションでの輸出許可証とフライトプラン、もう一つは依頼の前金だ。帰還したら残りをやる」

「毎度どうも。これからもタチバナ星間運輸をご贔屓に」

「おう、こき使ってやる」


 アキラとデレクは固く握手をすると軽くハグをした。


「道中気をつけてな」

「誰に物言ってる」


 二人のいつもの挨拶であり、ルーティンでもある。このやり取りはアキラの父親であるタケシ・タチバナもデレクとやっていたことであり、たけしと母親のソフィア死後、アキラの後見人となったデレクがアキラに教えたものでもある。


「じゃあちょっくら行ってくるわ」

「それでは行ってまいります」

「ニャー!」


二人と一匹は社長室を後にした。社長室前ではメリッサな未だに燃え尽きていた。ここがリングの中ならまさに殴り合い競技のあのキャラと同じようであった。

 声をかけるのも憚れるような気がしたので、アキラもミレーヌもあえて声をかけなかったのだが、約一匹は当然たとでも言うように机を経由してメリッサの頭の上に飛び乗ってその自由に動く尻尾でメリッサの頭をポンポンと叩くとメリッサから飛び降りアキラたちを追った。


 一人残されたメリッサはというと……とても大きな溜息をついたのだった。


「猫になだめられる私っていったい……」

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