↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰色の街のスケッチ  作者: ままま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/7

風の痕跡

見つけたのは、それから四日後だった。


廃ビルの脇を通りかかった。以前、涼に連れられて上ったことのある非常階段だ。

立入禁止の札は傾き、錆びた鎖には、もう人を拒む意思は感じられない。

階段を上ると、足の下で錆びた鉄が静かに軋んだ。

踊り場には煙草の吸い殻と、風に運ばれた砂埃が溜まっていた。


屋上に出ると、空が急に開けた。

午後の光は白く、遠くのビル群は夏の熱でかすかに揺れていた。

フェンスが風に鳴る音が、細く聞こえていた。

強い風ではない。だが、途切れることなく流れ続ける風だ。



丸めた紙が一枚、金網の網目に差し込んであることに気がついた。

近づいてそっと抜き取る。

スケッチブックから切り取ったらしい厚手の紙だった。

昨夜は雨が降ったはずなのに紙の表面は乾いている。ここに置かれてから、まだそんなに時間は経っていないのだろう。

何かを予感しながらそっと広げた。


涼の絵だ。

灰色の街。高架、倉庫、地下道、古い商店街の屋根。

見慣れた街の情景だ。

その絵に描かれているのは確かに街だが、同時に、それは風の絵だった。

ビルの角で折れ、路地で細くなり、川沿いでほどけ、またどこかへ抜けていく。

灰色の濃淡だけで描かれている紙の上には確かな流れがあった。


紙の隅に、走り書きがあった。


「風は止まらない。止まるのは人のほうだ」


風がフェンスを鳴らし続けている。

途切れずに流れる風の音を聞きながら、自分は長いあいだ、止まっていたのかもしれないと思う。


涼がどこへ行ったのかは分からない。

戻ってくるのかどうかも分からない。

だが、彼が描いた風は、街のどこかで今も流れている。

涼と歩くようになって、その流れの中に、自分も少しだけ足を踏み入れていたのだと思う。


屋上を吹き抜ける風が、空白を撫でていく。

その空白は、もう以前ほど重くはない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。