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灰色の街のスケッチ  作者: ままま


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2/7

高架下の温度

翌日、再び川へ向かった。

高架の下は昼でも薄暗い。

頭上を通るトラックの振動が時折コンクリートを細かく鳴らしている。


昨日の男は、地面にあぐらをかいて何かを描いていた。近づくと顔を上げる。

「来たんだ」

「たまたまだ」

「そういうことにしておけばいいよ」


男が膝の上に広げたスケッチブックを覗き込んだ。

高架の柱と路面と、そこへ差し込む斜めの光が描かれている。線は軽く、ところどころで途切れ、余白が多い。完成していないようにも見える。

だが、紙の上で確かに空気が動いていた。車が頭上を通るときの微かな揺れまで、その余白の中に残っている気がする。


男に「見せて」と言われて、脇に抱えていたスケッチブックを差し出した。

2、3枚めくり、ふうん、とだけ言う。

「ほんと、固いな」

「失礼だな」

「でも嫌いじゃない。あんた、自分で自分を囲うのがうまいんだよ」


男は涼と名乗った。

苗字は言わなかったし、こちらも聞かなかった。

近くで見ると、思った以上に若い。男というより、せいぜい青年というところか。

痩せて、妙に澄んだ目をしている。

こちらを見ていても、顔を通り越して遠くの何かを見ているような、不思議な視線をしていた。


二人で少し歩くことになった。

涼に連れられて、川沿いの道を外れて街の方へ歩いて行く。

ビルとビルの隙間を抜け、細い路地へ入る。室外機の熱気が吹きつける曲がり角を過ぎた先で、涼が足を止めた。


「ここ」


何もない場所だった。

古い塀とコインパーキングの金網にはさまれた、幅2メートルほどの通路。地面には煙草の吸い殻と、ちぎれたレシートが落ちている。


「何が?」

「風が抜ける」


言われて立ち止まると、たしかにシャツの裾がわずかに触れた。

それは木陰の涼しさみたいなものではなく、街の表面をなでていく薄い流れだ。視線を落とすと、レシートの切れ端が少しだけ揺らいでいる。


「街が呼吸をしているんだよ」



家に帰ってから、スケッチブックを開いた。

記憶の中の景色をなぞるように描いていく。塀の角、金網、通路の奥。昨日よりも、ほんの少し線が軽い。

風そのものは描けない。だが、風の通った痕跡のような余白が、紙の上に残った。


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