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海にいだかれて  作者: 雪本 風香


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2章 2ー②

 塾代がいくらなのか、オレは知らない。

 けど、費用が母さんの稼ぎと実家の援助で通えていたのは、知っている。

 父さんは塾に関わる全てのことを一切しない、と宣言していたのだから。


 だから、頑張った。

 今度は、失敗出来ないから。


 友達と放課後、沢山遊びたかったのも本音だ。

 でも、塾にも友達はいたし、純粋に新しいことを知るのは面白かった。


 なのに、なんでかな。

 ぽっきり折れたんだよ、心が。


 母さんにも、父さん以外にいい感じの男の人がいる、って知った時。


 もう、全部いいや、って思ったんだ。

 父さんにも、付き合っている人がいる、って気付いた時には、何も思わなかったのに。


 一刻も早く、母さんを解放してあげないと、って思ったんだよ。 

 

 離婚したら、母さんは名字を元に戻す。

 その時に、出来の悪い息子がついてくるよりも、一人の方がやりやすいだろう、って考えたんだ。

 何もしない父さんに代わって、今まで必死に育ててくれたのは、母さんだから。


 それにオレも考えているんだ。

 中学三年間は父さんのお世話になるけれど、高校は全寮制のところに行けばいい、って。

 そうすれば、父さんもオレから解放されるだろう。


 母さんはあくまで、自分の母校にこだわるから、全寮制の高校に進学したい、って言うと反対されるに決まっている。

 幸いにも、今まで塾に通わせてもらって、勉強の仕方のコツは覚えたし、東京には何でもある。


 お金さえ出せば、何でも揃う。

 食事もウーバーイーツで頼めばいいし、コンビニだってある。

 家にはロボット掃除機もあるし、それでも手の行き届かないところは、家事代行を頼めばいい。 


 父さんの性格だ。オレを生活させるのは、必要経費だと割り切ってくれるだろう。


 むなしいけどね。


 でもさ、これまでだって寂しくなかったわけじゃない。

 長い間、父さんと母さんはギスギスしていたのだから。


 それにオレも十二歳だ。

 親がいないと何もできない年齢じゃない。


「一人でも、大丈夫だって」

「何がや?」

「うわっ!?」


 突然、タケさんの声が振ってきて、オレはベッドから飛び起きた。


「ななななっ……」

「中々来(こ)んから、呼びに来たんや。アイス、溶(と)けんで?」

  

 オレのつぶやきは聞こえていたはずなのに、タケさんは余計なことを何も言わなかった。


 その代わり。


「うわっ! 何すんだよ!」

 

 突然、オレの頭を大きな掌でガシガシと撫で回した。

「子ども扱い、するな! ってかしないでください!」

「子どもやろうが。まだ、未成年なんやけん」


 タケさんは、オレの抗議を無視して、頭をぐちゃぐちゃにしていく。

 それこそ、トラを撫でているのと同じ手つきだ。


「……オレ、トラじゃないんだけど!」

「おんなじや。トラも陽太も、俺にとっては手のかかる身内や」


 タケさんの言葉に、オレは息を呑んだ。


 なんなんだ、コイツは。

 初対面なのに、身内と言い放つなんて、頭おかしいんじゃないの!?

 

「身内じゃねーよ! じゃなかった、ないです!」


 反抗するオレを、タケさんは面白そうに見つめて、声を上げて笑ったのだった

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