14章 4
夏休みの終わりに今治から帰る時には、一人で駅のホームに立っていたのに。
今日は、父さんと母さん、三人で駅にいた。
「陽太、いつでも来てええからな。努さんも有紗さんも、いつでも来てください。待っとるんで」
「ええ。今度はもっと寒い時期に来てくださいね。今はマドンナがようやく出回り始めた頃ですが、まだまだ美味しい柑橘類、沢山あるんですよ」
千尋の言葉に、タケさんは苦笑いをする。
「千尋。柑橘類食わせたいだけなら、送ればええやろ」
「あっ、そうか! じゃあ、えっと……」
別の理由を探す千尋だが、すぐには思いつかないようだ。
「好きな町に来るのに、理由なんていらないだろ」
ボソリと呟いたのは、タケさんでも、千尋でも、母さんでもなく。
父さんだった。
「え? いいの!?」
振り向いたオレの目に映った父さんは、どこか清々しい顔をしていた。
「もう時期、中学生になるんだ。一人で来れるだろ」
「う、うん!」
父さんの気が変わらない内にと、オレは何度も頷く。
「チケットは取ってやる。勉強はサボらずしろ。行きたいところがあるならな」
え? これはまさか……、認めてくれた?
オレが喜びを爆発させるまえに、父さんは冷ややかな言葉を投げつけた。
「高専は国立だ。全国から優秀な人間がこぞって受ける。受けたいと思うのは勝手だが、今のままなら記念受験で終わるのがオチだ」
くそっ。腹が立つー!!
父さんらしいといえばらしいけれど。
相変わらずカチンとくる言い方をする人だ。こんな状態の父さんに何を言っても無駄だ。
それは言い訳だと、諭されるだけだ。
「……頑張る」
低い声でオレは、宣言した。
「頑張りや、色んなことを」
「そうそう。死に物狂いで頑張った先に見える景色は、格別だからね」
励ましてくれるのは、タケさんと千尋だ。
父さんと母さんは、無言で立っているだけ。
父さんに至っては、もうオレの方を向いていなかった。
「ほら、行くぞ」
そういって、一人で有人改札をくぐる。
「ちょ、待ってよ!」
母さんは慣れているのか、タケさんたちに早口でお礼を述べると、急ぎ足で父さんの後を追った。
「ほら、陽太も」
タケさんがオレの背中を軽く押す。
「早よ行きや。いつでも待ってるけん」
「また私たちも会いに行くね」
「……うん」
オレは、タケさんと千尋に手を振って、父さんたちを追いかけようとして。
思い立って、後ろを振り返った。
「どしたんや?」
不思議そうに見つめるタケさんに近づくと、オレは小声で囁いた。
「オレ、この町が好きだよ。海があって、魚がうまくて。いぎす豆腐はクセになるし、しまなみ海道もその内、自転車で走ってみたいし。だから、タケさん」
「……なんや?」
「オレさ、頑張って高専に受かって、ここに戻ってくるから。それまで、生きていてよ」
「おいこら! そんな年齢ちゃうわ!」
タケさんは、拳を振り上げる。
それが飛んで来ない内に、オレは駆け足で改札をくぐった。
「また来いや!」
後ろからはタケさんの声。チラリと振り向くと、千尋が手を振る姿も見える。
オレは、手を振り返すと、ホームに向かって、エスカレーターを駆け上がったのだった。




