14章 3
父さんは、長居しない予定だったみたいだ。千尋との口論が終わった父さんがハッとして時計を見て、「飛行機……」と呟いたからだ。
取っているホテルは二人部屋。どうするか母さんと顔を見合わせていると、タケさんが声をかけてくれた。
「心配せんでも、努さんはここに泊まらすけん。というか、ベロベロ過ぎて動けんやろ」
指摘された通り、父さんはテーブルに突っ伏しておいおいと泣いている。
酔っ払いの父さんはウザ絡みした後、「俺だってなぁ!」とこれまでの苦労を涙ながらに語っていた。
家族にはぶっきらぼうで、常に命令口調な姿しか知らなかったオレにとっては衝撃的だったが、大人は誰も動じていない。
ということは、元々、父さんはこんな感じの人なのか?
これから父さんをどういう目でいいか、分からなくなる。
「まあ、ぼちぼち帰る準備、しいや。タクシー呼んどくけん」
タケさんは父さんを座敷に転がすと、オレと母さんを促す。父さんは気になるが、朝からずっと動き回っているオレたちも疲れていた。
「じゃあ、努さんのこと、よろしくお願いしますね」
母さんはペコリと頭を下げて、帰る支度を始めたのだった。
※
「父さんって、あんな人だったんだ……」
ホテルにチェックインしたオレの呟きに、母さんはあら、と答える。
「お父さんは、本来、あんな感じの人よ。本当はね……」
母さんは声を潜めた。
「お父さんも、海、好きなのよ。だって、出会った頃は、サーフィンやっていたくらいなんだから」
「へ?」
オレは固まった。
トウサンモ、ウミガスキ?
オレの聞き間違いか、と考えてしまうくらい、衝撃的な告白。
呆然としているオレに、母さんはバスタオルを押し付ける。
「さ、お風呂に行きましょう。せっかく大きなお風呂があるんだから」
そういうと、母さんは先に部屋を出ていったのだった。




