14章 2
結局父さんがどう考えているのかは、分からないままだった。
唯一、オレが理解できたのは。
「せっかく環境に恵まれているのに……。自ら捨てるような真似しやがって」
ベロベロに酔っ払った父さんが、タケさんと千尋相手にウザ絡みしていたことだけ。
母さんはというと、付き合いきれないという表情を浮かべて、部外者を決め込んでいた。
「まぁまぁ、努さん。陽太くんが決めたことですから」
と、宥めた千尋を父さんは、ギロッと睨みつけた。
「そもそも千尋! お前だって、こんな田舎に引っ込んで! 退屈だろうが!」
とばっちりだ。けど、千尋は気にしたそぶりも見せず、サラリと受け流す。
「そんなことないですよ。むしろ気に入っています。じゃないと、三年もタケちゃんちに居座ったりしませんよ」
「そんなの、今だけだ!」
酔っ払って悪態つく父さんは、初めて見た。というか、酔っている姿は今までオレの前では見せたことない。
しかもズケズケとひどいことを言っている。
これが、俗に言う「くだを巻く」ってことか。ファンタジーアニメとかマンガでよく見るやつだ。
大体、こういうキャラは悪役と決まっている。
「くそっ! なんでこんなところに惹きつけられるんだよ、田舎なくせに!」
うわー、ひでぇ。毒づく父さんをオレと母さんが、どん引いた瞬間。
「あら、そんな田舎に可愛い我が子を預けたのは、努さんじゃないですか」
ニコニコ笑いながら、辛辣なことを言う千尋にブルッとしたのはオレだけじゃない。
「こういう時の千尋が、いっちゃん恐ろしいんや……」
と、タケさんが呟くのをオレは聞き逃さなかった。
いつの間にか、タケさんはオレと母さんの方に移動していた。
父さんと千尋のやりとりは、まだまだ続きそうだ。
「俺らは、こっちで飲み食いしときましょう」
そう言いながら、母さんの空になったグラスにビールを注いだ。
オレも炭酸水をコップに注ぐ。最初は、コーラを飲んでいたんだけど、「飲み過ぎや」ってタケさんに没収されたんだよなぁ。
コーラの代わりにしては物足りないけれど、刺身に合うんだよ。こっちの魚、脂乗りまくっているから、喉をスカッとさせたくなる。
ちゃんとタケさんに命じられた通り、捌いたのはオレだ。
母さんはオレが躊躇なく魚を掴み、包丁を操っているのを見て、声を出せないくらい驚いていたけれど。
今も母さんは「美味しい」と呟きながら、刺身を口に運んでいる。
「せっかくなんで沢山食べてくださいね。あっちは、それどころやないけん」
タケさんは父さんの前に置いていた刺身の皿を、母さんの前に移動させる。
ちらっと見ても、まだまだ二人の口論は終わらなそうだ。
「いいの、あれ。止めなくて」
「放っといたらええ。大人になっては会うことはめっきり減っとるけれど。小さい頃は、何度も顔を合わせとんや。お互い、気心はしれとる。親戚なんやから」
タケさんは断言するが、確か、父さんと千尋には血縁関係はないはずだ。
タケさんにとっては、父さんも千尋も親戚の一括りに出来る。けれどタケさんにとってオレは父方の、千尋は母方の血縁だ。
つまり、父さんと千尋は血のつながらない、赤の他人だ。
この辺りがよく分からないんだけど、父さんたちが小さい頃は、父方、母方問わず、夏休みはこの家に集まっていたらしい。
父さんはタケさんより十歳上だから、一緒に遊んだりはしなかったみたいだけど。
困った時に、タケさんを頼るくらいには信頼はしているみたいだ。
「ほら、見てみい」
タケさんが指差した先にいた二人は。
さっきまでの舌戦はなんだったのかというくらい、にこやかな表情で笑い合っていた。
「……何なんだよ、この茶番」
「……なんなのかしらね、本当に」
オレの呟きに、珍しく母さんも同意したのだった。




